20 スラムの問題2
俺は現在、ギルド奥にある買い取りカウンターの前に来ている。
何時もの様に俺を睨みながら見ているリャクトが目の前にいるのだが、おかしい?
バランとの事は誤解が解けている筈だが…何故か俺は恐る恐るマジック・ボックスの中からホーン・ウルフを取り出しカウンターの上に置く。
「此はまた大きな獲物を取って来ましたね?頭はどうしましたか?」
俺は切り落とした頭は出していない、角に用があるからだ。
「あっちは使い道を考えているから売却は無しだ…今回は、骨と皮、肉の買い取りを頼む…魔石も悪いが持って帰らせて貰う…」
俺は手短に説明するとリャクトがブツブツとソロバンの様な物を弾いて計算を始める。
「それだと、あまり良い値にはなりませんけど良いんですか?」
そう言いながら俺にソロバンで弾いた金額を見せる、頭と魔石無しで金貨一枚なら十分だろ。
「あぁ、構わないさ…それで頼む…此からもちょくちょく頼むから宜しく頼むな」
俺は剥ぎ取りナイフを使いホーン・ウルフの胸元に突き刺すと中から魔石を取り出しリャクトに礼を言って立ち去る。
二階に上がると医者が来ていたらしく診察が始まっていたのかバランが部屋の入口に立っていた。
「そんな所でどうしたんだ?悪い事でもしたのか?何なら下に行ってリャクトに慰めて貰うと良いぞ?」
俺はニヤニヤしながらからかう様に言うと、バランが顔を赤くしながら照れるとも怒るとも取れる顔付きをする。
「ち、違うっ!俺とリャクトはそう言う関係で…って、そんな話ではなくだな…女性の診察だから男の俺が出ているだけだ…それよりもイズル、今度はスラムの問題に首を突っ込んでいるみたいだな?」
俺がからかっていると急に真面目な顔をして話を変えるバラン、話題反らしもあるだろうが、ギルド的にも問題だと思っているんだろうな。
「はっきり言うが手を引け…お前では…いや、お前一人では無理だ…この街は見た目よりは小さな街だが、それでもそれなりに大きい、そうなればスラム何てのも出来るが、そのスラムも特有な物が出来ている、東西南北に分かれたスラムのボスが各スラムを統一している、しかも未確認だがその四人の統括ボスを纏めるボスもいるらしい…ギルドが長年、改善出来なかった理由の一つだ…悪いことは言わんから手を引け…今ならまだ間に合う…」
どうやらバラン達も色々とやっていた様だが街の大きさに反比例する様にスラムは大きいらしい、しかもボスも厄介と来ている。
バランは俺個人を心配すると共にポーション屋としての俺も心配しているようだ。
「あぁ、心配してくれてありがとう…けど、多分だがもう手遅れだ…北のスラムボスのガダリオンとは話が付いた…今後は北のスラムは少しは良くなるだろうし、何なら冒険者を入れて改善を促すのも悪くない…北一つとは言え改善例が出来れば、上手く行けば残り三つにも何かしら影響が出るんじゃないのか?」
俺は心配してくれるバランに真面目に答えた、確かに俺一人の手には余るだろう…だが出来る限りはやりたい…何より…あの笑顔を見ていると癒されるしな…。
俺達が話をしていると診察が終わったのか部屋のドアが開くと、ちょうど俺の目にはベットの上で身なりを整えながら座っているアルと嬉しそうに笑っているエルが見えた。
親子か…悪くないね…ああやって幸せそうにしている姿を見るのは…だからこそ、出来る事をせずに何もしないのはもう嫌だ…あっちの世界じゃ自分一人が生きていくのに手一杯で周りを見る余裕すら無かった挙げ句の一人死だ…。
だが今は黄泉姫達から貰った力がある…他の人よりも出来る事が多い俺が何もしないのは偽善以上に俺自身が許せない。
俺はアル達を見ながら笑みを浮かべるも手は拳を握り知らず知らずの内に闘気が漏れでていた様だ…目の前のバランが冷や汗を…部屋の中のアニヤが焦る様に此方を向いて身構える…ベットの上のアルですら驚いて俺の方を見ている。
何も気にしなかったのはエルと診察をしていた医者、看護師位だ…。
「イ、イズル…抑えろ…確かにお前なら何とかするかもな…って言うかスラムボスと会ったのか?奴らは決して表には出ないから話も出来なかったのに…ガダリオン…それが北のスラムのボスの名前か…」
成る程、スラムの改善が進まないのはボスの所在や名前が分からないせいもあるのか、あれでいてガダリオンも出来る男なのか?
「あぁ、南のボスはローザって言うらしいぞ?まぁ、ボスが隠匿されてるなら、あまり公言しない方が良いかもな…ガダリオンは俺の味方になってくれたが、他はまだだ…そうなるとガダリオン自身の身も何かしら危ないかも知れないのに俺に教えてくれたって事くらいに俺の味方だとアピールしたんだろうからな…」
俺は闘気を抑え拳から力を抜く、全員から緊張が解けるのを見て話をする。
ガダリオン…彼奴にはもう一度会ってしっかり話をした方が良いかもな…。
〈side・ガダリオン〉
イズルがガダリオンの家から出ていって直ぐの事だ。
おっかない男だった…怒りの沸点が低いのか女好きなのか…何にしても、いきなり斬りかかって来るなんて正気じゃない…ありゃ、イカれてやがる。
俺だって伊達に長年、スラムボスをしている訳じゃない、ヤバい奴の見分けくらい付くさ。
イズルが立ち去った後に斬られたテーブルを横に片付けながら酒の瓶を傾げグビグビと飲みながら呟くガダリオン…彼がイズルに簡単に下った理由は実に簡単だ。
”イズルはヤバい!”
何がヤバいかは分からない、しかし、あのまま抵抗したり言い分けを続けていたら間違いなく殺されていたのは本能が知っている。
他のスラムボスもヤバいが、イズルは本人が思う以上に別格のヤバさを持っているぞ。
ガダリオンは此でもスラムボスになる前は、そこその名の売れた獣人の冒険者だった。
そのガダリオンが本能で感じたイズルの危険度…ガダリオンはそうそうに敵対を止めた自分を誉め、此からも相対するだろう他のスラムボス達の不幸を哀れんだ…願わくば穏便に済むことを…恐らくは、束で掛かっても勝ち目の無いくらいの強さを秘めたイズル相手はバカのする事だと。
その日のガダリオンは自分の運の良さに酔いしれながらも他のスラムボスを心配しつつ酒を飲んでいた、その背後に怪しげな影が近付く事に気付きもせずに…。
〈side・アル〉
不思議な方です、見ず知らずの私やエルの事をこんなに心配して…初めはエルを慰み物にする為に私に近付いたのかとも思ったのですが、エルに対しての態度など一定の配慮と距離を取ってくれてます。
時々、エルを見る目が女を見る目に変わるのはやはり其方の趣味の方かと思いますが…危ない方でも無いしエルも好いている様なので今は見守る事にしました。
しかし、まさか冒険者ギルドに連れられてお医者様に見て見て貰える事になるとは思いませんでした…今日は何時も以上に体の調子が悪く、自分的にも限界なのが分かりましたから…何時もなら帰って来ないだろうエルを最後に見る事も出来ずに私は死ぬのかと思いました。
しかし、エルが帰ってきたのです、見知らぬ男性を連れて…しかし私の容態を見て驚き慌ていました、けれども私にはどうする事も出来ません…縋る思いで男性にエルの事を頼むと素気無く断られました、当たり前ですよね…誰がスラムの子供を好き好んで育てるかと…このまま一人残すエルの未来が絶望に染まる無念が心残りでした…恐らくはこの男性が連れ去りエルを…そう思っていると男性から言われた言葉に目を見開きました。
”勘違いするな、俺は子育てに自信が無いから断っただけだ、それに子供を育てるのは親の役目だ!だからあんたは勝手に死ぬ訳に行かないんだよ!”
子育てに自信が無い…親が子供の面倒を見るのが当たり前…この男性は何を言っているのかと思いましたね。
そのまま薬らしき物を飲まされました、最早、抵抗する程の気力も体力もありませんでしたから…それにあまりの驚きに抵抗する気も起きませんでしたし。
結果として私の体の体力が戻りました、後々聞いた話ではライフ・ポーションだったらしいのですが、そんな高価な物を惜し気もなく使うなんてイズルさんと言う方はどんな方なのでしょうか?
その後のやり取りからエルが騙されて薬を買っていた事が分かるとイズルさんはエルと一緒に話を付けに言ってくれました。
その前の半裸姿のエルを盗み見していた事は内緒にしてあげます。
帰ってきたイズルさんが今度は私の番だと言わんばかりに、何処からか幌の付いた荷車を連れてきました、人目を配慮してだとは思いますが気の付く方の様です。
私はそのまま抱き上げられ荷車まで連れられました、この年でこの様に抱かれる何て思いもよらず思わず女が疼いてしまいます。
その後もギルドに入る時などは同じ様に抱かれているも人目が合って恥ずかしかったのは内緒です。
そのままギルドの医務室に来て治療を、栄養失調と風邪を拗らせたとの事で安静と栄養をしっかり取れば治るそうです。
しかし、あのままでしたら間違いなく私は死んでいたでしょうね。
此処での治療費はギルドが持つそうです。
最初はイズルさんが払うと言っていたのですが、このギルドではスラム支援をされているとかでスラムの人は一回は無料になるとか…。
何から何まで感謝しかありません。
そのイズルさんも部屋向こうの廊下にいるのは分かるのですが何やら話が不穏です。
ドアを開けてから私達を見るイズルさんは優しげな表情とは裏腹に何かに怒っていました。
目の前の方はギルドマスターらしいのですが、私の側にいるアニヤさんと言う方もかなり強そうな方です、その二人が警戒する程にイズルの雰囲気は異様です。
冒険者や強者でも無いエルやお医者様達は何が起こっているのか分からない見たいです。
取り敢えず落ち着かれたイズルさんを見て思います。
此の方は優しい反面、心が弱いのだと…一度懐に入れてしまえば助けずには入られないのだと。
今回はそれに救われた私が考えるのもおかしな話ですが、イズルさんの手助けをしたいと思います。
手始めに女性経験からでしょうか…どうやら女性慣れして無い様ですし、私も旦那様以降初めて女が疼きました…イズルさんならこの身を…っと考えていたら娘に睨まれました…子供でも女ですね、ハイ…。
イズル(神田川 出流)
ステータス
種族:人間
性別:男
職業:新米薬師(ポーション特化)
冒険者ランク:G
名前:イズル
年齢:19才
Lv. 15(177/3500)
HP 1230/1230(1845/1845)
MP 3400/3400 (5100/5100)
ATK 820(1230)
DEF 420(630)
AGI 1210 (1815)
DEX 825 (1238)
MIND 22243(33365)
LUK 1852(2778)
〈スキル〉
鑑定Lv.MAX(能力限定/鉱物及び植物)
異世界言語翻訳
アカシック・ライブラリー(鉱物及び植物のみ)
詠唱破棄
魔力付与Lv.1
魔法付与Lv.1
魔法効果短縮Lv.3
魔力消費軽減Lv4
並列思考Lv.3
スキャンLv.2
アイテム・ボックスLv.2
〈魔法〉
風魔法Lv.3(ウィンド・カッター)
(ウィンド・ウォール)
(ウィンド・スパイラル)
火魔法Lv.2(ファイヤー・ボール)
(ファイヤー・ウォール)
水魔法Lv.2(ウォーター・ボール)
(ウォーター・ウォール)
土魔法Lv.1(クリエイト・シェイプ)
光魔法Lv.1(ライトアップ)
〈称号〉
願望者
黄泉姫の加護
皐月の加護
〈エクストラ・スキル〉
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