19 スラムの問題1

何故か色々あって、ようやく落ち着いた所で何時の間にやらルル達がゴルドンと仲良くなっていた。

いや、仲良くなるのは良いことだが何やら不穏な雰囲気も…


「イズルの旦那の嫁さんなら、あっしの雇い主と同じですからね…何でも言ってください、最高の物を作って見せますから!」


ゴルドンが何やら気合いを入れているがゴルドン?さっきも言ったよな…嫁候補だって…ルル、ルナ…二人ともニヤけない…エル?君も何故、イジケた顔をしてるのかな?


「あぁ、君達?何やらおかしな話をしている様だが俺はそろそろ行くからな…あぁ、ゴルドン…これ、さっき拾ってきた分だ…使ってくれ。」


俺は先程の薬草採取の時に拾った幾つかの鉱石をゴルドンに渡した、時間が短かったから大して拾えなかったが良質の鉄鉱石が拾えたのは良かった。

あれだけあれば剣の一本くらいは作れるだろう。


俺はゴルドンとルナ、ルルに挨拶をしてその場を後にする。

二人には未練タラタラの目で見られたが気付かないフリをして離れた、そうしないと何時まで経っても移動出来そうに無かったからな。


「お兄ちゃん、ルナさん達と結婚するんだ…ボクはダメなの?」


エルの家に行く途中でトンでも発言を聞かされた。

この街の女の子は皆、積極的だな…人は誰にでもモテ期が有るらしいが俺は死んでからがモテモテだったのか?


「いや、エルちゃん?君はまだ子供だよね?それに複数の奥さんを貰うには色々と大変だって知ってる?」


色々と問題はあるがエル程の器量なら大きくなればかなり違うレベルの美女になるだろう。

スラムでの扱いがどうかは分からないが、良いところの妾位には十分なれる。

んぅ?今年は体を売るとか言ってたか…今日明日は良いとして、明後日からか…参ったな…何も知らなかったら放置も出来たが日本人気質か、知り合ってしまえば見過ごせないか…。


俺がブツブツと呟きながら考え事をしているのと同じ様にエルもまた何かを考えていたらしい、その後は何も言わずに歩いていた。

暫くするとスラム奥の更に壁に近い奥の今にも崩れそうなあばら家に辿り着いた。


「此処がボクのお家…お兄ちゃん待ってて…今、着替えてくるから…」


エルは少し顔を赤らめながら中に入っていく。

ドアも窓も無い、ただ雨露が凌げる程度の建物、冬場は厳しいだろうな。


「お母さん!しっかりして…大丈夫!」


暫くすると中からエルの叫び声が聞こえた。

何だかヤバい雰囲気だ、俺はエルの返事を聞かずに中に入る。

中には薄汚れた床に透けそうな程に薄い布を体に掛けただけの今にも死にそうな女性が咳をしながら横になっていた。

その横ではパンツを履いているだけのエルが今にも倒れそうな程に青い顔をしながら寄り添っている。

彼女が母親だろう、だが…見るからにヤバい程、体調が悪そうだ。


「エ、エル…わた、私は…大…丈夫…だから…」


恐らく、今、きちんとした治療をしなければ彼女は間違いなく死ぬだろう…だが…何もしなければだ…。

俺は無言でエル達に近づく。


「お、お兄ちゃん…助け…お母さんが…お母さんが…」


エルが俺を見ると大粒の涙を流しながら懇願する、母親も俺の方を見ながら驚いているいるが、やつれた顔を緩ませ笑い掛けてくる。


「どな…たかは、存じ…ません…が…この子を…お、お願い…します…」


笑いながらも我が子を心配する母親、今にも自分が死にそうだと言うのに…母の愛は無限だって誰かが言ってたな…


「残念だが、俺は独身男で子育てをしたことが無いんだ、悪いが断る!」


女性は俺の言葉に驚くが何かを悟るように諦めた顔になる。


「そ、そうで…す…よね…こ、こんな…所に…いる…子供…なんて…」


女性が涙を流しながら自分の運命を呪うかの様に呟く。

それでも俺に恨み言を言わないのは元々は育ちが良いからか、性格からか?


「勘違いするな、俺は子育てに自信が無いから断っただけだ、それに子供を育てるのは親の役目だ!だからあんたは勝手に死ぬ訳に行かないんだよ!だから、これを飲め!」


俺は顔をしかめながら屈みマジック・ボックスの中から初級ライフポーションを取り出す。

ポーションは病気には効かない、病気を治すには医者に掛かって薬を貰うか、教会で祝福を受けないと駄目なのはこの世界観の常識だ。

だが、幾ら薬を飲んでも立ち直る体力が無かったら治る物も治らない。

なら兎に角、先ずは体力からだ…。


俺は彼女の口にポーションの飲み口を当てゆっくり飲ませていく。

最初は驚いていた女性も身動きが出来ない為か諦めゆっくり飲んでいく。

横ではエルが心配そうに俺達を見ている。

暫くすると生きも絶え絶えだった女性の呼吸が安定してくる。


「ありがとうございます…何て、お礼を言って良いのか…こんな私で良ければ…その…一晩…」


また、この展開か?

この世界の女性は貞操観念が低いのか女性の地位が低いのか分からないが直ぐに体を差し出すな…エルの母親も顔を赤くしながら言うのは止めて欲しい。


「お、お母さん!ボクのお兄ちゃんを盗ったらダメだよ!」


今まで成り行きを見ていたエルが母親の体調が良くなったのを見て脱力している所に母親からの爆弾発言にびっくりして俺に飛び付いてくる。

エルよ、君は今、パンツしか履いていない半裸姿なんだが…いや、俺はロリコンじゃないから気にはしないぞ…うん!目のやり場に困ってなんか無いからな?

こら、俺の理性…自制心…目が…目が…勝手に横に…エルの…エルの平らな胸が~!


イズルです…小さな女の子に抱き付かれて意識を手離した女性免疫0の情けない男です。

俺が意識を取り戻した時には何時の間にやらエルも服を着ていた。

っと言っても同じ様な薄汚れたワンピースの様な大きなTシャツだ。

どうやら俺の意識が飛んでいる間に着替えが終わったらしい。


「あぁ、俺は…何をしてたんだ?」


意識を飛ばす前後の記憶が曖昧だ…何故だろう…忘れたいのに忘れたく無いのは何故だろう?


「お兄ちゃん…目が覚めた?良かった…急に意識を無くすからどうしたのかと思ったよ?」


顔を赤らめながら話し掛けるエルと体調は悪そうだが、先ほどよりはかなり良さそうな母親が笑みを浮かべエルを見ている。


「この度は何てお礼を言って良いのか…けれども私達には何も返せる物がなくて…あるのは私達自身しか…」


エルを見ていた母親が俺の方を見ながら伏し目がちに言えば、エルを再び見ている。

自分でも娘でも構わないと言った感じの雰囲気だ…確かにどちらも俺に好意を持ってくれているみたいだ…特にエルの方は…冬には傷物になっているだろうからと自身の売り込みが激しい。


「あぁ…まぁ、その辺りはその内返してくれれば良いよ…兎に角先に体を治さないと…薬は飲んでいるって聞いたけど良くならないのか?」


俺は取り敢えず話題を変える次いでに病状の確認をする事にした。


「はい、娘が必死に働いてくれてまして…一応は飲んではいるのですが…一向に良くならなくて…かと言ってお医者様に掛かるお金もなく…」


んぅ?医者に見て貰わずに薬だけ?

ひょっとして…俺の予想が正しければ…


「なぁ、エルちゃん?薬を貰っているのはちゃんとお医者様からかい?」


俺の疑問はエルの次の言葉で確信に変わった。


「うんん?スラムのおじさんから…何時もボクからお金を預かって奥から持って来てくれるの?」


やはり、母親も気付いたらしい…此処はスラムだ、詐欺も窃盗も殺しだって有るだろう。

しかし…こんな子供を騙してまで楽をしようとは…俺にバレたのが運の尽きだと思え。


「そうか、ならエルちゃん…今日の案内の一番最初は、そのおじさんの所に行こうか?薬も貰わないとダメだろ?」


俺はエルを傷付けない様にやんわりと誤魔化す様に話をする、そんな俺を見て母親は目を丸くすると涙目で頭を下げてきた。

大丈夫だって俺は可愛い女の子の味方だから。


「うん!お兄ちゃん。ありがとう!じゃ、早く行かないと…お母さん、行ってくるね!」


エルは嬉しそうに返事をする。

そりゃそうだよな…先程まで母親が死にかけていたんだから…まぁ、俺の素人目から見ても栄養失調と肺炎ぽいんだよな…。


俺は飛び出す様に出ていくエルを追い掛ける様に外に出た。

エルに付いて歩くのと10分程の所にエルの家と変わらない位のあばら家があった。


「おじさん!何時ものお薬を頂戴!」


エルは何時ものと良いながら大きな声で家の中に声を掛ける。

奥からは大柄な男が出てきた、顔には額から頬に掛けた斜め切り傷の後に、身体中にも切り傷の後がある。


「なんだエル、今日は早いじゃないか…金は持ってきたのか?って何だけどその男は…もしかして、お前…男に体を売ったのか?」


出てきた大男が俺を見ながら唸る様に言う。

見るからに医者ではないし堅気にも見えない。


「ち、違うよ!お兄ちゃんは…ボクの…その…そ、そんな事よりお薬!お金はあるから!」


エルがモジモジしながら男に答えるのを見て大男は厭らしい笑みを見せた、どうやら、この男…エルをそう言う目で見ているとらしい。

大男はエルの言葉を聞いて家で中に入っていく。

暫くすると手には小さな包み紙の薬を三つほど持って出てきた。


「ほら、此が何時の薬だ…金と交換だ…出しな!」


大男はエルに向かって手を出し金を要求する。

困ったものだ…。


「なぁ、それは本当に薬か?俺の”鑑定”の目には別の物に見えているぞ?」


俺に薬の鑑定スキルは無い、だが確信がある以上ハッタリも使える。

案の定、大男は驚き顔を青褪める。

まさか鑑定持ちだとは思わなかったらしい。

エルは何の話をしているのか分からず俺と大男を交互に見ている。

頃合いだ…俺はエルの肩に軽く手を置き押しながら大男から離す… 同時に大男に殺気を放つ。


「なぁ、穏便に話をしようじゃないか?少し中で話さないか?」


俺はゴルドンから受け取った剣をエルから見えな様に大男に見せかるく抜き光る刃を見せながら話す。


「あ、あぁ…そ、そうだな…す、少し…話をしようか…」


大男は顔を引き攣らせ俺に同意しながら家の中に入っていく。


「エルちゃん、ちょっと待っててな…直ぐに話は終わるから…」


何が起こっているのか分からないと言った顔をしているエルに言い含めなが待つように言えば、俺も家の中にはいる。

中は何も置いていない、いやテーブルと椅子、飲み終わった酒の瓶が転がっているだけだ。


「な、何が要求だ…こ、此処はスラムだ…ガキだろうが騙される方が悪いのはここのルールだ…余所者あんたには関係無いことだぜ?」


大男は汗を流し息を荒くし必死の弁明をしながら俺に話し掛けてくる。


「此処のルールね…だから?それで俺があんたを見逃す理由にはならないな?だってあんた…エル自身すら食い物にしようと考えていただろ?」


あんなに可愛いエルを、こんな大男に…許せん!俺は手を出さないが、だからと言って誰でも良いとは思わない!

俺はホーン・ウルフを倒したとき以上の殺気を出しながら大男を見る。

そんな大男は椅子からズリ落ち怯え始める。


「ま、待て…待ってくれ…あ、あんたがあの娘を気に入ったんなら先にやれば良い…俺達は別に後からでも…」


大男からの言葉が聞くに絶えない…下衆が…幾ら異世界のスラムだと言えども子供を弄んで良い筈がない…。

俺は気づいたら剣を抜いてテーブルを斬っていた。


「ふざけるなよ…俺が先だとかお前…お前達だと?どいつもこいつも寄って集って…スラムのルール何て知った事か!俺をこれ以上怒らせるなよ?」


俺は大男に剣を突き付けながら怒気を孕んだ口調で言う、どうやら俺がこの街でやらないとダメな事が一つふえた様だ。

ポーション屋を開いて安穏とした暮らしをしようかと思ったのだが、そうもいかなくなったな…このスラムを改善する…いや、無くしてやる!


「わ、分かった…お、俺達はもう…あの娘にも…母親にも手を出さない…や、約束するから…た、助けてくれ…」


俺のあまりの殺気に大男は怯え震え懇願する。


「仕方無いな、今回は見逃す…次にもしおかしな事をしているのを…お前以外でもしているのを見たら、例え相手がエルじゃなくてもお前達を容赦しない…分かったな!」


怯える大男に脅すように言う、大男は赤部子の様に首を縦に降り続ける。


「ひ、一つだけ…こ、此だけは覚えておいて欲しい…確かにこの北のスラムは…この俺”ガダリオン”の名に掛けて約束を守るが、他のスラムまでは約束出来ない…それだけは分かってくれ…」


どうやら、此処でも東西南北が発生する様だな?


「まぁ、仕方無いな…幾ら俺が新参の街の人間だとは言っても何となく分かる、お前一人で全てを統一出来る訳無いもんな…」


俺は剣を納めながら我ながら厄介事ばかりを抱え込んでいると自嘲してみる。


「旦那…ありがとうございます、良ければ旦那の名前を聞かせては貰えませんか?」


んぅ?そう言う名乗ってなかったな。


「あぁ、済まない…俺の名前はイズルだ…今度、この街でポーション屋を開くことにした新参だ、宜しく頼む」


俺が軽く自己紹介をするとガダリオンは目を見開いて驚く。

この街の人間味は何故か同じ様な驚き方をするな?


「ポ、ポーション屋を…開かれるので…それはまた…旦那…あんたは、俺みたいなクズな奴でも殺そうとはしなかった…このスラムじゃ…いや、この街じゃスラムの人間なんてゴミ以下の扱いの奴が多い…だから俺みたいな奴がエル見たいな子供ですら平気で騙しあわよくばなんて考える…なのに、あんたは怒ってはいてもギリギリで止める、それが優しさなのか哀れみなのかは分からないが、あんたは俺を人扱いしてくれた…だから、俺はあんなに付いていくって決めた…だからこそ忠告する…南スラムの”ローザ”に気をつけてくれ…奴は欲しいものは力ずくで奪いに来る…力がダメなら絡めてで…気付いたら抜け出せない泥沼の様な罠に嵌まる…そんな奴がポーション何て貴重品をあつかう旦那に目を付けない訳がない…」


成る程ね、この街の裏の顔か…バランですら、あまり把握してないだろうな…知っていたら忠告位して来るだろうからな。


「分かった、ありがとう…っと言っても右も左も分からん俺だから騙され易くもあるか…取り敢えず気を付ける」


俺はガダリオンからの忠告を聞き入れ家から出る…ローザね…名前からして女だな…気を付けよう…

そんな事を考えながら外に出ると暇をしていたのか地面に絵を描いて待っているエルが笑顔になる。


「あっ お兄ちゃん!どうかしたの?お薬は?」


あぁ、薬の件を忘れてた…仕方無いな…。


「あぁ、あの後、聞いてみたらあの薬は間違っていたそうだ…今日は無いらしいから諦めてくれってさ…」


俺が適当な言い訳をするとエルの顔がドンドンと崩れて行くと泣き始めてしまった。


「ヒェッ お、お母さんが…死んじゃう…お薬…どうしよう…」


まぁ、こうなるわな…仕方無いな、乗り掛かった船だ…沈没させる訳にも行かないし最後まで面倒を見るしかないな。


「大丈夫だって、今日、渡す筈のお金を使って医者に見せれば良い、そこで薬を貰えば良いじゃないか?」


俺はエルの母親をきちんとした診断をして貰うために医者に連れていく事を提案する。

しかし、此処でも意外と言うかやはりと言うかスラムならではの問題外が発生した。


「だ、ダメだよ…ボク達、スラムの人を見てくれるお医者様何ていないよ…だから、お薬…おじさんに貰ってたのに…」


成る程ね、おかしいとは思ったんだ…此は完全なスラムと街の弊害か…しかし、当面の問題を片付けないとな…。


「大丈夫だ、俺がちゃんと見て貰える場所に連れていってやる!」


この街は良い街だ…しかし、それは表面上だけかも知れない…確かに俺の元いた世界も表面上だけの事は多かったが、此処は半端ない。


前の世界じゃ中途半端だったけど、今なら何か出来そうな気がする。

少なくとも、目の前にいる女の子位は助けれる。

俺はエルを連れてエルの家に帰った。


「お母さん、ただいま…ごめんね…お薬、買えなかったの…けど、お兄ちゃんがお医者様に連れていってくれるって…もう、もう…大丈夫だから…お母さん…」


横になって休んでいたエルの母親にエルは抱き付く様に泣いていた、エルの母親は目を開け娘の頭を優しく撫でながら俺の方を見て軽く頭を下げる。


「気にするな、俺は俺のしたいようにしかしてないだけだから…意外と下心ありかも知れないぜ?」


少し気恥ずかしさもあって誤魔化す様に言うが何故か泣き止んだエルだけでなく母親まで顔を赤らめてしまった。


「と、兎に角だ…先ずは移動が先だが歩くのは…難しそうだな?仕方無いな…少し待っていてくれ…」


俺はエルの家から出るとスラム街から離れた普通の通りに出る。

通りには幾つかの荷車が走っていて、その内の一つを呼び止めた。


「あぁ、そこの君…済まないが今、急ぎの仕事を持ってないか?もし暇なら少し臨時収入の仕事をしないか?」


俺は大銀貨を数枚見せながら荷車を手入れしていた少年に話し掛ける。


「えっ!ほ、本当に…本当に貰えるのか?」


少年は大銀貨を見て驚く。

まぁ、そうだろうな…此処じゃ普通に働いても1日銀貨が数枚稼げれば良いのが当たり前だ。

それが臨時収入で大銀貨なら驚くのも当たり前だろう。


「あぁ、本当だ…ただ、運んで欲しいのは人だ…それもスラムのな…どうだ、出来るか?」


俺の言葉に少年はハッとした顔をする。

やはりスラムの人間と聞いて良い顔はしないな、仕方無いか。


「スラムか…しかし、大銀貨か…まぁ、良いか…良いぜ兄ちゃん、誰だって構わない、乗せてやるよ!」


少年は大銀貨の欲に負けたらしい…まぁ、俺的には助かったから良いが前途多難だな。

そのまま荷車を走らせエルのいる家の前までやって来る。


「エル、待たせたな…君のお母さんを運べる荷車を連れてきた…」


家の中ではエルとエルの母親が抱き合って待っていた。

絵をも不安だったのだろう、母親に抱かれて寝ていた。


「何から何まで申し訳ありません…今更ながらですが、私の名はアルと言います、此から宜しくお願いします」


アルは俺に頭を下げながら頼んで来た。


「あぁ、気にしないでくれ…本当に気紛れなだけなんだがら…取り敢えずエルを起こさないとな…」


頭を下げるアルに近付きエルの身体を軽く揺すりながらエルを起こしに掛かる。


「うにゅ。。。お兄ちゃん…ボク?お兄ちゃん…大好き~♪」


ハイ!お約束の寝惚けが入りました…そこ!呆れてない!


「ハイハイ…分かったから目を覚まそうな?」


アルがクスクスと笑い、連れてきた馬車の少年は呆気に取られている。

俺は寝惚けて俺に抱き付いて来るエルの頭を撫でながら再度、体を揺すり起こす。


「あれ?ボク…ねてた?お兄ちゃん、温かい…」


寝惚けていても起きていても変わらなかった。


「ほら、ちゃんと目を覚まして…お母さんを医者に見せるんだろ?」


俺の一言にバッと体を離し目を覚ますエル。


「お母さん!」


直ぐ様後ろを振り返り母親を見ると安堵している様だ。


「さてと、じゃ、荷車に乗るが立つのも厳しそうだな?俺が抱き上げても構わないか?」


一応、大人の女性だ…幾ら病人だからと勝手は出来ない、確認はしないとな。


「はい、お手数をお掛けして申し訳有りませんが、宜しくお願い致します」


体を起こしたまま頭を下げるアル、そんなアルに俺は近付くとなけなしに掛けていた布団を退ける。

アルはエルと同じ様な薄汚れたワンピースの様な大きなTシャツを着ていた。

改めて見ると腕や足はかなり細い、ギリギリだったのが見て分かる。

しかし、それらを除けばやはりエルの母親だな、くすんではいても長い腰まである金髪は綺麗だし顔も整っている。

尻尾も今は萎んでいるが大きいし、ちゃんと栄養を取ればフサフサの二本の尻尾になるだろう…二本?


「じゃ、持ち上げるから何か変だと思ったら遠慮せずに言ってくれ」


俺は二本の尻尾を気にしつつも今やるべき事を優先する。

アルの足膝裏と腰より上くらいに腕を回し持ち上げる、お姫様抱っこって奴だな、アルも流石に少し恥ずかしいらしい、顔を俯かせて赤くなっている、後ろではエルが良いなって言っているのは気にしない。

俺はそのまま荷車に乗り込む。

この荷車を選んだ理由は幾つかあるが一番の理由は小さいながら幌が付いていた事だ、此ならアルが乗っていても目立たない。

エルが掛けていた布団を持っていて荷車に敷く、敷いた上にアルを寝かせてマジック・ボックスからマントを取り出し被せる、何もないよりはマシだろ。


「こんな、汚れてしまいますから…」


マントを掛けるとアルが困った顔をして退け様とする手を軽く掴んで首を振る。


「構わないさ、此処まで来て体調を崩されたら意味がない…後は俺のやりたい様にやらせてくれ…」


なるべく優しい口調で言う。

ただの偽善だしたまたまだ…別に良いことをしているつもりは無いが社畜で死んだ俺と何となく被るし放ってはおけない、何より可愛いエルを泣かせる訳には行かないしな…って誰だ?やっぱりロリコンだと言った奴は?後で話がある…じっくり話し合おうじゃ無いか!


まぁ、そんな事はどうでも良いとして…俺は荷車に乗り込むと少年に冒険者ギルドに向かう様に頼む。

先払いで大銀貨を一枚渡し、安全で早く走る様に頼む。

元々は荷車だから仕方無いにしても街中なら注意をすれば、それなりに乗れるからな。

程無くして冒険者ギルドに着く、俺は少年に大銀貨を四枚渡すと少年は大喜びをしていた、そんな少年を余所に俺はアルに一声を掛けて体にマントを巻き付けて抱き上げ荷車から降りる。

少年に礼を言うと、少年の方からも礼を言われた、こんな程度の事で大金を貰ったのが嬉しかったらしい。

何かあれば声を掛けてくれと言い少年は帰っていった。

俺は少年を見送るとアルを抱いたままギルドの中に入る。

後ろからはエルが怯えながらも俺に着いて歩いてくる。

やはり、こんな状態じゃ注目の的だな。


「あら?イズルさん…どうしたんですかって、その女性は?」


カウンターからアニヤが俺を見つけて声を掛けてくれた。


「あぁ、アニヤさん…居てくれて良かった、悪いがギルドに懇意にしている医者がいたら呼んで貰えないか?金は俺が払う…頼む…」


何時も以上に真剣な俺の顔を見てから俺の抱いている女性と足元にいる女の子を見るアニヤ、何時もの彼女なら冗談も言いそうだな、今日は流石に無いらしい。


「分かりました、そのままでは大変でしょ?二階の医務室を使いましょ…着いてきて下さい」


やはり出来る女は違うな、何時もはお調子者で直ぐにちょっかいを掛けて来るが、必要な時には迅速に手早く、的確、後の問題も考えながら行動してくれる。

医務室に着くとアニヤがベットを用意してくれた、俺が寝ていたベットだ。


「此方へどうぞ…お気になさらず、イズルさんが支払いをしてくれますから大丈夫ですよ?」


色々と気にしている雰囲気のアルにアニヤが優しく話し掛ける。

この場合は女性同士の方が話しは早いかな?

俺はアニヤに促されるままアルをベットに横にさせるとマントを取り代わりにベットに置いてあった布団を掛けると離れる。


「イズルさん、確認しますが彼女達はスラムの方達で良いですか?」


真面目な顔のまま真面目に話をしてくるアニヤ、しかし声はアル達に聞こえない様に話し掛けて来るが無駄みたいだぞ…獣人は五感が鋭いからな…アルも意識しているかは分からないが、頭の狐耳が此方を向いている。


「あぁ、そうだが何か問題でもあるのか?」


俺はアニヤを警戒しつつ少しキツイ口調で返す。

アニヤの人柄や性格等は信用しているが、所詮はギルドと言う組織の中の人間だ、対極を見ればこの場合、社会的立場を取る可能性は十分あるからだ。


「いえ、全然…寧ろ助かりました、私達も定期的に巡回をして手助けをしているのですが、場所が場所なだけに中々思うように行かず、かと言って家の中に勝手に入る訳にもいかない物で…彼女の様に容態の悪い方を見付けるのが困難何ですよ…」


どうやら俺の取り越し苦労の様だ。

ギルドはギルドでやっていてくれているらしい、疑って悪かったと心の中でバランとアニヤに謝っておく。


「取り敢えず直ぐにお医者様を呼びますから待っていて下さい」


アニヤは確認と言いたい事を言って足早に立ち去っていく。

そんなアニヤを見送ると俺はギルドに来たのだからホーン・ウルフを買い取って貰おうと考えた、どのみち金もいるからな。


「エルちゃん、俺は下で素材の買い取りをお願いして来るから君はお母さんに付いていてあげてね、此処でお母さん一人だと寂しいだろうからさ…此でも食べて…」


俺はテーブルの上に置いてあったクッキーの様な物を取りエルに渡す、勝手にとは思ったが後で金を払えば文句も言わないだろうと思いエルに渡す、勿論、消化に良さそうなのでアルにも渡す。

エルは分かったと元気良く返事をして部屋に残るのを確認すると、俺は医務室を出た。




イズル(神田川 出流)

ステータス


種族:人間

性別:男

職業:新米薬師(ポーション特化)

冒険者ランク:G

名前:イズル

年齢:19才

Lv.  15(177/3500)

HP  1230/1230(1845/1845)

MP  3400/3400 (5100/5100)

ATK 820(1230)

DEF 420(630)

AGI  1210 (1815)

DEX 825 (1238)

MIND 22243(33365)

LUK 1852(2778)


〈スキル〉

鑑定Lv.MAX(能力限定/鉱物及び植物)

異世界言語翻訳

アカシック・ライブラリー(鉱物及び植物のみ)

詠唱破棄


魔力付与Lv.1

魔法付与Lv.1

魔法効果短縮Lv.3

魔力消費軽減Lv4

並列思考Lv.3

スキャンLv.2

アイテム・ボックスLv.2


〈魔法〉

風魔法Lv.3(ウィンド・カッター)

(ウィンド・ウォール)

(ウィンド・スパイラル)

火魔法Lv.2(ファイヤー・ボール)

(ファイヤー・ウォール)

水魔法Lv.2(ウォーター・ボール)

(ウォーター・ウォール)

土魔法Lv.1(クリエイト・シェイプ)

光魔法Lv.1(ライトアップ)


〈称号〉

願望者

黄泉姫の加護

皐月の加護


〈エクストラ・スキル〉

※※※※※※※※※※

※※※※※※※※※※

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