13 いざ薬草採取…の前に…

さて、金も手に入ったし次は防具と武器だな。

何時までも普通の服では危ない。

俺は防具屋に来ていた。

流石に色々あるな、値段もピンキリだ。

俺のステータスはそこそこあるから、この辺りの街に売ってそうな物は大体装備出来るだろう。

しかし、ただのポーション屋がいきなり降る装備の鎧を着て歩いたら誰だって驚く。

それに、俺は冒険がしたい訳じゃ無い…普通に稼いでのんびり楽しく過ごしたいだけだ…後はまぁ、誰かと結婚して子供を作って…幸せな家庭を作って余生を過ごすのも悪くないな…。


防具を見ながらブツブツ言う俺は他から見ればかなり危ない人間だ。

少しばつが悪い、俺はそそくさと店を出る。

失敗したな、直ぐに自分の世界に入る癖は治さないとな?

等と再びブツブツ言いながら歩いていると一軒の鍛冶屋を見付ける。

見た目にはボロボロの家屋だが店の前に転がる様に置かれている剣や盾はシンプルな作りにも関わらず惹き付けられる何かを感じさせる。


「すみません~」


俺は思わず店先から中に向かって声を掛ける。

中からはカンッカンッと小気味良い鉄を叩く音が聞こえるが返事の返ってくる気配は無い。


「すみません~良いですか?」


俺は声を掛けながら中に入る。奥に行くと熱気が漂っていて熔鉱炉の前には小柄だがゴツい体の男性が一人、一心不乱に鎚を振り上げ真っ赤に焼けた鉄を叩いている。

男が叩く度に火花が飛び散り、鉄が冷め始めれば熔鉱炉に入れて熱を入れる。それを何度も繰り返し形を作る。

俺は男の姿に思わず魅入った…ただ叩いて何かを作っているだけなら誰でもやってるだろう。

だけど彼は違う。

彼は一振り一振りに思いを込めて振っている。

まるで今作るものが最高の物だと言わんばかりに…。

男の情熱がヒシヒシと伝わってくる。

何れだけ時間が経ったのか男の手が止まる。

男は大きく息を吐くと剣を置いて立上がり振り向いた。


「んぅ?お主は誰じゃ?こんな荒屋の鍛冶屋に何か用か?」


見た目小柄だがゴツい男には見た目以上に立派な髭が生えていた。

髭は飛び散った火の粉であちらこちらと焼けてはいたが立派なのには変わり無かった。


「あ、あぁ…勝手に入って済まない…いや、この店の前にあった剣や盾を見て売って欲しくなってね…幾らかと思ってる声を掛けさせて貰ったんだが、あまりに一生懸命だったもので待たせて貰っていたんだ」


男が無愛想に言えば、此方を訝しげに見ている為に、俺は素直に話をした。

実際、売って欲しいと思ったのは間違いじゃ無いし、男の鍛冶姿に見とれたのも間違いではない。

男は俺が弁明している姿を自慢らしい髭を触り撫でながらじっと此方を見ている。


「っで、何れが欲しいんじゃ?」


俺が必死に弁明していると急に話し掛けてきた。おぉぅ!親父、驚くぞ。

いきなり言われた俺は取り敢えず言われた様に欲しいと思ったロンクソードと小さな小盾を持って来た。


「此と此が欲しいんだが…」


見た目、何も装飾されていないシンプルな剣と盾だ。

しかし剣の表面には光沢があり角度を変えれば薄明かりの中でも微妙に違う色彩を放つ、小盾は光沢は無い、代わりに剣とは違い重厚感がある。

簡単には壊れないと言う意志が伝わって来る。


「何故、その剣と小盾を選んだんじゃ?他にも色々な有っただろうに…それにこんな古びた鍛冶屋じゃ無くても街中にはしっかりした店構えの所もある。」


この親父、売りたくないのか?

何やら色々と買うのを止める様な言い方をしてくる親父だ。


「街中の武器屋なら行ってきた、まぁ、見た目位には悪くなかったよ」


「なら、そっちで買えば良かったんじゃ無いのか?」


俺が答えると親父は直ぐに返して来た。

本当にこの親父売りたくないのではと思いたくなって来るぞ?


「残念だけどそれだけだ、俺が買いたいって気持ちが引かれる物が無かったんだ」


親父は答える俺を睨む様に見ながら髭を撫でると…


「なら、お前ならその剣と小盾に幾らの値を付ける、お前の付けた金額で売ってやろう」


おいおい、今度は値段まで決めろと言いやがった、ナンなんだこの親父は?

良いだろう、俺も男だ!安い買い物はしない!


「ならこの剣と小盾には此だ!」


俺は1ゼクス大金貨を近くのテーブルの餓えに置いた。


「おいおい、こんな何の魔法も掛かってない剣と小盾に大金貨は無いだろ?」


確かに大した物じゃない、そんな物に大金貨を払うのは普通ならあり得ない。


「掛かってるじないか、親父の熱意が…見たところ資金難で屑鉄ばかり集めて作ってるみたいだけど、屑鉄だけで此れだけの物が作れるんだろ?なら今後、親父に作って貰おうと思うつもりでいるのだから、初期投資としたら安い物だ」


そうだ、鍛冶場に転がっている鉱石を見たが何れも良いものは無かった…寧ろ、かなり品質の悪い物が多い位だ。

なのに、この剣や小盾はそこらの武器屋で売ってる物と遜色が無い、いや、寧ろ良いかも知れない。

何がこの親父の商売をダメにしているかは分からないが、言える事は此のまま埋もれさせるには惜しい。あまり惜しい腕だ。

武器も防具も命を預ける物だ、ならば、その武器を作る相手にもある意味命を預けるのに等しい。

初めて会ったばかりの親父だが、この腕と情熱なら賭けれると思う、だからの金額だ。

俺がそう思い言い切ると親父は目を見開き驚き、そのまま涙を溜めて泣き出した。


「お、俺の事を…そこまで…い、言ってくれる奴ぁ…久しぶりだ…」


親父はそのまま膝から泣き崩れた。

その後、泣き止んだ親父から聞いた話しはこうだ。


親父の名はゴルドン、かつてはドワーフの里でも腕の良い鍛冶屋の親父だったらしい。

しかし、ある時、ドワーフの里に一匹のドラゴンがやって来た。

普通のドラゴン程度ならドワーフの里にも腕の良い戦士がいるし、それこそドラコン専用の剣もある。

だが、そのドラコンはただのドラコンじゃなかったらしい。

あらゆる武器を跳ね返し、あらゆる魔法を跳ね返した。

唯一は里にいた巫女の神聖魔法のしかも上位魔法で漸く傷を付けるだけに止まる位に強かったらしい。

後から分かったのは、そのドラコンはあのダークエンペラードラコンの亜種、ダークジェネラルドラコンだと言う事だ。

どちらにしても里は壊滅、生き残りもゴルドンを含めて僅かに三人、100人からいた里はたった一晩で壊滅した。

その中には勿論、ゴルドンの奥さんや跡継ぎで頑張っていた息子、生まればかりの娘もいたらしい。

全てを失ったゴルドンは一時期は里に残り残っていた機材や鉱石を使いあらゆる武器を作ったが、ドラゴンの落としていった鱗一枚に傷一つ付ける事が出来ず絶望し、後はどうやってこの街に来たか分からないが、魂が抜けた様な状態で辿り着いたのがこのあばら家らしい。

幾日か経ってから漸く何かをしなきゃと思い置いてあった機材と街の外で取れる程度の屑鉄を使いハサミや包丁等を作る傍ら剣や盾を作っていたらしい。

最初は憎しみから、徐々に悲しみを忘れる為に、今はただひたすら強い武器を作りたいだけの為に…。

しかし、生きる気力を無くしていた期間が長すぎたゴルドンには最早、新たに財を成して強力な武器を作る事は出来なかった。

それでも何時の日かにかと言う思いから剣や包丁等の修理の傍らあつめて来た屑鉄を使い作っていたのが店先に置いてあった剣や盾達だ。


「なぁ、ゴルドン…俺はあんたじゃ無いから無責任に聞こえるかも知れたいけど、生き残ったあんたには復讐よりも死んだ家族の分まで幸せになる努力をするべき何じゃ無いのか?」


泣き止み途切れ途切れに話をしていたゴルドンに俺は語る。

身寄りの少ない俺には家族の情は薄い、だが、それでも何となく分かる…後ろばかり向いていたら死んだ奴等だって浮かばれない。


「確かに…確かにそうだ…しかし…俺には、あの野郎の顔が…俺達を嬲り殺ししながらニヤついた顔が忘れられたいんだ!」


ゴルドンは床に拳を叩き付けながら吐くように怒鳴る。

ダークジェネラルドラゴンはどうやら、復讐や戦いでは無く遊び半分でゴルドンの里を襲ったらしい。

どうもダークエンペラードラゴンとは雰囲気が違う気がする…やはりドラゴン繋がりでも別のドラゴンは考えも違うのか?


「なぁ、ゴルドン…そいつを冒険者の誰かに退治依頼を出すことは出来ないのか?そんな奴が普通にのさばっていたら今頃は国中が火の海だろうに…なってないのは抑止力的な何か…冒険者がいるって事だよな?」


流石に俺もそんな強い奴が何人もいるとは思っていないが、それでもダークエンペラードラゴンを含む龍種を抑える力を持つ奴等はいると思い聞く。


「んぅ?何じゃ、お前はそんな事も知らんのか?いるにはいるが…この世界に6人…あらゆる魔物を相手にしても意に介さず、あのエンペラーを冠するドラゴンを相手にもひけをとらない最強のSSSランク冒険者達なら…」


おぉ!SSSランクって…俺なんてGランクだぞ?遥彼方だな…って、そうじゃなくて6人か…多いんだか少ないんだか。


「じゃが、彼等は動かんじゃろう…彼等の持つ権力は国王に匹敵する。国が王が何と言おうが彼等が首を縦に振らない限り何もしない…彼等は自分のやりたい事しかしないんじゃ…」


おぉ!国家最強権力が自由に歩き回る世界か…怖いな…っじゃなくて、やりたい事しかやら無いって…子供か!


「仮に引き受けても依頼料は幾らになるか…検討も付かんよ…」


ハハハッと乾いた笑いをしながら言うゴルドン…確かに、俺が傷を付けただけでも、この街じゃ高待遇を超えた報酬を貰った。

退治となれば尚更か…。


「そうか、知らなかったとは言う詰まらない事を言った、済まない」


俺は素直に詫びる。俺はこの世界の事をまだ何も分かっていない…もっと色々と知らなければ…。


「何、構わんは…見たところ初顔のようだが?何者じゃ?」


詫びる俺を見て気にするなと言わんばかり手を振るゴルドン、しかし、今度はゴルドンから俺の素性を聞きに来た。

まぁ、本当の事は隠すにしても、設定やこの街でポーション屋を開くこと位は話しておけば良い。

俺が掻い摘んで話をすれば、ゴルドンの目が徐々に開かれ驚いた顔になる。


「何じゃ、旅をしながらも薬師だったか…こんな辺境の街で店を開くなんてのは酔狂だな?」


バラン達と言い、この街の奴等は此処を何れだ辺境だと思ってるんだ?

まぁ、俺には分からないが街の奴等の反応からは、かなりの辺境何だろうな…俺には都合が良いが。


「あぁ、いい加減旅も飽きたし、少し腰を据えるのも悪くないと思ってな?此処は空気も人も良い…暫く厄介になろうと思ったんだ。」


俺は適当に言いながらゴルドンの前に初級ポーションを置く。


「ゴルドン、見たところ、あちら此方が火傷をしているだろ?此を飲んで治してくれ…あんたには此からも世話になるんだから体には気を付けて貰わないとな。」


俺がニヤリとしながらもテーブルの上にポーションを置きながら言えば目を丸くするゴルドンがいた。


「な、何にを言っておる?ポーション何て気安くやるもんじゃないぞ?大金貨を貰ってこんな物まで受け取れん!」


俺の置いたポーションを見てびっくりするゴルドン、そのままの勢いで返して来そうなのを手で制止ながら…


「まぁ、聞いてくれ。勿論、此はお人好しで渡している分けじゃない?さっきも言った先行投資のつもりだ…ゴルドン、あんたの腕を俺の為に…専属になってくれないか?」


俺はゴルドンを一目見たときからただ者じゃないと思っていた。

それは、ただ復讐する為だけにはあまりに掛ける情熱が違う。

腕が、プライドが…自分の全てを否定されて尚、意地が折れた心を動かしていたからだ。

だから俺は思う…ゴルドンは…


「なぁ、ゴルドン…専属と言っても俺のだけを作ってくれって言ってるんじゃない…何かあった時や作って欲しいものがある時には協力して欲しいだけだ…その為に俺の出来る限りの支援をさせて貰いたい。」


俺はルナ達に会う前から道端で転がっていた石ころを鑑定しながら拾っていた。

その内の一つとゴルドンが使っていた屑鉄をテーブルの上に置く。


鑑定結果


名前 : 鉄鉱石

品質 : 良


名前 : 雑鉄

品質 : 悪


「お前、此は…」


ゴルドンは自分の使っていた屑鉄と俺が拾ってきた鉱石を見比べながら唸る。

勿論、ゴルドンの使っている物の中には良い物もあるが、殆どは屑鉄だ…此では良いものは出来ない。


「道端に落ちている物だけでも良いものはある。後は鑑定出来るか出来ないかか…若しくは、ゴルドンの様に目利きが出来るかだけだ…だが、ゴルドンが素材を集めていたら鍛冶をする暇がない…だから、俺が薬草採取や依頼を受ける先で採取した鉱石の一部を渡す…それを使って武器を作り売れば良い。」


俺はゴルドンに鉱石を集めるから、それを使い生活資金を貯めろと言う、勿論、生活が向上すれば自ずと資金も増えるし腕も上がる。

何れは俺が必要無くなるだろうが、それまで手を貸せばゴルドン程の男なら義理堅いだろう…何かの時には手を貸してくれると打算的に考え言う。

まぁ、薬草採取の次いでだから負担も無いしな。


「分からん…そこまで俺に肩入れする理由が…お前に何の利得がある?」


確かに今さっき会ったばかりの男に対して過剰とも取れる入れ込み、普通なら警戒もするだろう。


「何、此処に来る前に少し死に掛けてね…その為に少しでも良いものが欲しいだけだが半端な奴の作った物より、自分の信じた奴の物の方が安心出来るって思っているだけさ。」


この先、また、奴に会うのは明白だ。

少しでもレベルを上げて、良い武器を…このゴルドンなら恐らくはこの街で一番の鍛冶師だと俺は思っている。だからこそ頼むのだ。


「そんな程度の理由だがダメか?」


俺は、俺の方を睨みながら考えているゴルドンに緊張しながら問い掛ける。


「俺には断る理由が見つからん…何より俺に不利益が無さすぎる…そこが逆に気になるがお前に裏がある様には見えん…是非もない、こんな俺で良かったら頼む…」


ゴルドンは引き受けてくれた、俺は少し安堵しつつ見ていると頭を下げていたゴルドンが表を上げて俺を見ながら手を出してくる。


「あ改めて、自己紹介だ…俺は鍛冶師ドワーフのゴルドンだ、俺の雇い主の名前を聞いても良いか?」


今までと違い覇気のある顔付きに力の籠った口調で言うゴルドンから改めて自己紹介されて俺は初めて、まだ名乗ってもいなかった事を思い出す。


「あぁ、此から頼む…俺はポーション専門の薬師イズルだ、此から宜しく頼む。」


俺はこの街に来て早々に専属の鍛冶師を手に入れた。

此から何を作って貰おうかな?




イズル(神田川 出流)

ステータス


種族:人間

性別:男

職業:新米薬師(ポーション特化)

冒険者ランク:G

名前:イズル

年齢:19才

Lv.  15(77/3500)

HP  12/1230(1242/1845)

MP  1200/3400 (2200/5100)

ATK 820(1230)

DEF 420(630)

AGI  1210 (1815)

DEX 825 (1238)

MIND 22243(33365)

LUK 1852(2778)


〈スキル〉

鑑定Lv.MAX(能力限定/鉱物及び植物)

異世界言語翻訳

アカシック・ライブラリー(鉱物及び植物のみ)

詠唱破棄


魔力付与Lv.1

魔法付与Lv.1

魔法効果短縮Lv.3

魔力消費軽減Lv4

並列思考Lv.3

スキャンLv.2

アイテム・ボックスLv.2


〈魔法〉

風魔法Lv.3(ウィンド・カッター)

(ウィンド・ウォール)

(ウィンド・スパイラル)

火魔法Lv.2(ファイヤー・ボール)

(ファイヤー・ウォール)

水魔法Lv.2(ウォーター・ボール)

(ウォーター・ウォール)

土魔法Lv.1(クリエイト・シェイプ)

光魔法Lv.1(ライトアップ)


〈称号〉

願望者

黄泉姫の加護

皐月の加護


〈エクストラ・スキル〉

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