6 訓練開始?

さて俺は今現在、何故こうなったかを考えながら必死で走っている。

えっ?何故走ってるかって…?

そりゃ…ねぇ…?


「はぁ…はぁ…はぁ…し…死ぬ…いや…もう…し、死んでたか…」


最早、ヘロヘロの状態でイキも絶え絶えに走る俺、その後ろからはバットの様な大きさの扇を振り回しながら嬉々として走り追い掛けて来る黄泉姫、はっきり言って扇に皹を入れた仕返しにしか見えない位の勢いで襲い掛かるかの様に迫ってくる。


「おっと! あ、危ないだろ!」


そうこうしている内にいつの間にか真後ろまで迫っていた黄泉姫が扇を振り上げ叩き下ろして来る。


俺はギリギリで躱すも外れた扇はドゴンっと音をさせながら地面へとめり込む。

幾ら死なないからと言っても痛い事には変わらない、俺は躱し走り逃げながら冷や汗を流し逃げ回る。

結局、俺が本当の力を使いこなすにはギリギリまで力を使って少しずつならすしかなく、そうなると皐月ちゃんでは少し微妙との事で実践訓練は黄泉姫がする事になった。


皐月ちゃんには、此れから行く世界のルールや日常、生活習慣や価値、価格等とポーション作りのノウハウを学ぶ事になった?

はっきり言って勉強は苦手だがポーション作りは実験見たいで楽しかった。

色々な薬草や素材、道具を使って幾つものポーションを作る。


勿論、道具の使い方やポーションを入れる為の瓶を作ったりとやることは多かったけれども、それなりに楽しかった。

何より皐月ちゃんと一緒に居られるのが良い!


地球で言う所の1日の午前が黄泉姫との訓練、間に何故か俺が作る昼飯(食べなくても大丈夫な体だが雰囲気作りだそうだ)、午後からは皐月ちゃんとの勉強、此処で午前の嫌な思いをリフレッシュ、夕方には再び夕飯(やはり雰囲気だそうだ)を作り、何故か薪風呂を沸かし、黄泉姫から順番に皐月ちゃん、俺と入り、風呂から出たら洗って就寝の繰り返しだ。


余談だが薪風呂も立派な屋敷造りに似合わず何故かの野外に置いてある五右衛門風呂だ。

周りも気にする必要が無いために囲いすら無いために、俺は常に目隠ししながら薪を焚べる。

一度、目隠しをずらして覗き見しようとしたら目の前には鬼の形相の黄泉姫が扇を振り上げ顔面に叩き落とされた。


こっそりずらした筈なのに何故か直ぐに叩かれたのは、やはり女は勘だろうか?

痛がり涙目で顔を上げれば冷めた目で俺を見ている皐月ちゃんと未だに怒っている黄泉姫を前にフルパワーの土下座で謝り捲り、以後、二度と覗き見などしておらず、悶々とした気持ちのままの生活が一年を過ぎた頃、俺は最低限の力の使い方と知識を手に入れた。


現在のステータスはこうだ、


Lv. 10(22/1000)

HP  355/355 (533/533)

MP  1220/1220 (1830/1830)

ATK  555 (833)

DEF  255 (383)

AGI  822 (1233)

DEX 628 (942)

MIND 142378(213567)

LUK 1022 (1533)


かなりあがったな、実際、今から行く世界の住人と比べても、そこそこのレベルらしいが後は現地で確認しろとの事だ。


まぁ、こんなやり取りからも分かる様に俺はもうすぐ旅立ちだ。


此処での生活も悪くないし一年とは言え一緒にいたから少しは愛着と言うか何だか思うところもあるが黄泉姫達は何時もの事の様に普通だ。

まぁ、長年同じ事を繰り返して来れば慣れもするか、一々感傷に浸っていたら切りがない。


所詮、俺は願望者だ…そうこうしている内に旅立ちの日がやって来た。

俺は異世界に行くための門の前にいる。

黄泉姫曰く、願望者の俺がこの世界に居られるのが大体一年が限界で、それ以上いると魂が壊れ消滅して転生すら出来なくなるそうだ、だから、どの願望者も技術習得の内容に関わらず一年で送り出すとか…まぁ、俺は及第点だったらしいから次の世界でも直ぐには死なないだろうとの事だ。


「じゃ、世話になったな…次に会えるかどうかは分からないが、その時があったらまた宜しく頼むよ」


黄泉姫から貰った異世界での服に着替えて門の前で黄泉姫に挨拶をする。

一歩下がった横には相変わらずの顔付きで皐月ちゃんが立っている。

後からこっそり聞いた話では服も道具も皐月ちゃんが揃えてくれたらしい、何だかんだで皐月ちゃんは優しいなと思ったのは口に出さずに心の中で呟いてみた。


「カカッ 妾も久方に楽しかった…まぁ、少々助平な所があったが若いから仕方ないかの?」


一年も前の事を事ある毎に引き出し笑いのネタとして言ってくる黄泉姫を相手に疲れ顔で項垂れながらジロ目でみる。


「カカッ そんな顔で見ても終ぞ気にならんぞ?まぁ、願望者は願望者らしく次の世界で願望を叶える努力をするのじゃな…妾達に会えるかどうかは、その成果次第じゃ」


ケラケラと笑いながら黄泉姫の悪態を聞きつつも俺は気になる事を聞いた。

黄泉姫に再び会う事が出来る可能性?

俺の願望者としての成果?


「ちょ、ちょっと待て?何だそれ…まるで俺が自分の願望を叶えたら黄泉姫達にまた会える様な言い方じゃないか?」


項垂れていた俺が勢い良く顔を上げながら焦る様に聞く。

どうやら俺は俺が自分で思っていた以上に此処での生活や黄泉姫達を気に入っていた様だ、だからだろ、俺は焦りながら黄泉姫に確認する様に聞くが黄泉姫は笑っているだけで何も答えない、そうこうしている内に門が光始める。

旅立ちの時間だ…俺は強制的に転生をさせられ始める。


「ちょ、ちょっと待て!まだ聞きたい事が…俺は、俺が何を望んでいるかも分からないんだぞ!」


此処に来たあの日、力を使ったあの時に何となく分かった自分の願望…だが確信はない…それで良いのか…それが本当に俺の望んでいる事なのか…それが分からないまま一年が過ぎ今、異世界に転生を始める。

その土壇場の最後の最後で言う事がそれでは気が気でなら無いのに答えない黄泉姫!

その横で困った顔の皐月ちゃんも目に入る。

そして、そんな状況でも転移は強制的に行われる。


次第に俺の声は光に掻き消され、体も消えていく。


俺が最後に見たのは何時のも笑顔の黄泉姫では無く泣きそうな顔の黄泉姫と冷静な顔の皐月ちゃんで無く、同じ様に泣きそうな顔の皐月ちゃんだ、二人とも最後まで気丈に振る舞っていても慣れる訳では無かったんだと思いながら俺の意識は光の中に溶けて消えていった。

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