5 止められない衝動…

不可思議な男とは思っておったが、よもや失われた古代の暗殺拳を使えるとは思いもよらなかったと思いつつヒビ割れた自分の扇を見る黄泉姫。


見た目は鉄の様に見えるが、その実は鉄ではない黄泉の鉱物で出来た扇、人はおろか悪鬼魍魎ですら傷一つ付ける事など出来ない代物を傷付けた男を見ながら思案する。


この男の本当の願い…或いは妾すらわからぬやもと考えながら扇の上から飛び降りる…っと言ってもまるで重力が無いかの様に羽の様にフワリと緩やかに降りる黄泉姫。


「しかし未完成で此では、完成しておったら扇は持たず皐月も危なかったの」


ヒビ割れた扇を撫でながら呟く様に言う黄泉姫に出流はギョッとした顔で黄泉姫を見る。

黄泉姫はようやく、してやったりしたと言わんばかりの顔で見れば…


「妾が分からぬと思うてか?技を知っておれば自ずと知ることじゃろ?」


そう、本来の龍神拳から繰り出される技の威力は小技で扇に傷を付けれる程の力がある、ましてや奥義に近しい技なら尚更、つまり出流の技が未完成なのは容易に想像が付く、何より技を使った出流の状態を見れば…


Lv.  1 (0/10)

HP  0/25 (2/63)

MP  0/60 (0/150)

ATK 28 (42)(-40)

DEF 15 (23)(-20)

AGI  70 (105)(-100)

DEX 55 (83)(72)

MIND 12581 (18872)(15030)

LUK 88 (+132)(-120)


数値が軒並みマイナスのステータスを出している、此は人が扱うには危険な本来使ってはいけない技を未完成のまま使った言わば諸刃の技だ、今回はたまたまプラスされた分があった為に助かっただけで、普通なら魂事無くなっていてもおかしくは無かったのだ。


「命惜しくば使わぬ事じゃ…過ぎた力は身を滅ぼす…」


黄泉姫は出流を見ながら呟き言えば扇に力は籠めると瞬く間にヒビが無くなり扇は元の大きさへと戻っていく。


それに言われなくても分かっている、過ぎた力…こんなのは人の領域を越えている事くらい…。


さて、此処で今出ている対神魔格闘拳法の事について語ろうか。


この拳法は言葉のまま、人が神や悪魔と闘える様にと太古の昔の人が、神々から教えられた格闘技を更に自己開発をし神や悪魔を殺せる闘術だ。


しかし、神々がわざと殺せる力を殺せない技まで落とし教えた訳がある。


力に代償が付き物だ、過ぎた力はその身を滅ぼす…神や悪魔を殺せる力はまた、使う本人の寿命や体を蝕み破壊する。

数々の対神魔格闘拳法の全てに共通するのは、使い手が短命であること、使えば使うほどに体を壊し寿命を短いする諸刃の拳法だ。


だから今日に至って失われた拳法でもある。


(一部、使い手を残し受け継ぐ拳法も存在するが何れ語ります)


さて、では今は此処で使った龍神拳とは何か?


文字通り、龍の神様の力を宿した憲法になる。


詳しい内容は割愛するが体内で龍気と呼ばれる闘気を練り上げ技に乗せて打ち出す、基本的には攻撃主体の技だ。

打ち出す力は龍気を纏っているから生半可な物では止めれないし相手も無傷は有り得ない…勿論、使い手も技の威力によってダメージを受ける。

にも関わらず、俺の技を止めた黄泉姫の扇は何なんだ?

未完成とは言えヒビしか入らなかった…完成してたら撃ち抜けた…難しいかも知れない?

俺は密かに焦りながらも黄泉姫の扇をを見ている…いや、違うな…持っている黄泉姫その物を見ている…皐月ちゃんもそうだけれども、まともに戦って今の俺が掠り傷一つ付けれるとは思えない二人。


「そ、そんな事より力を見せろって言われたから見せたんだぜ?」


黄泉姫の非難めいた言葉に思わず反論するも突然体から力が抜けると膝から崩れ落ちる様に膝ま付いた…


「こ、これは…」


体中から力が抜けて喋る事すら儘ならない俺に黄泉姫は冷たい視線で見ながら…


「力の代償は身体と魂への摩耗か…此処では魂その物をへダメージが入る為に喋る事すら出来なくなったか…まぁ、消滅しなかっただけでも良しとするかへ?」


俺の姿を見ながら再び扇を広げれば、そこにはもうヒビは無く、その扇を口元に当てながら言う口調は感想とも考察とも取れる内容とは裏腹に目はいつの間にか笑っていて小馬鹿にすらされている様にも見れた。


「…っで?俺の力試しはどうだった?」


俺は少し苛つきながら不満げに言えば黄泉姫はカラカラと笑いなが皐月ちゃんを見ていた。


結果何て聞くほどの物でも無い…ダメダメに決まっている。


何故かって?当たり前だろ、一回力を使うだけで自分がボロボロになるなんて、此後、殺してくれって言ってる様な物だ。

此が街中の一対一の喧嘩程度なら良いけど、街中でも殺し合い、複数、野外だったら…俺は間違いなく死んでるな。


そう言う意味では力の使い方がなっていない。


まぁ、分かりきっていた事ではあるのだが、何故か皐月ちゃんの目は困った様な睨む様な目をしながら俺を見ていて何も言わない。

どうしたのかと思い、黄泉姫を見れば、こっちはこっちでニヤニヤしている…一体何なだか…?


そうこうしている内に皐月ちゃんが我慢しきれなくなったのか…


「ギリギリ合格だと思います…荒削りではありますが力は…ありますから、後は技術を磨いて実践で体を壊さない様にすれば良いかと…」


少し拗ねた様な顔つきと口調で言う皐月ちゃんを見れば俺は少し驚いた顔で見ながら視線を黄泉姫にやれば、黄泉姫は更にニンマリとした顔で俺をみている。


此は悪戯っ子がする顔だ…俺は何故か冷や汗を掻きながら引き攣った顔で笑い返すしか無かった。

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