第5話 恋する乙女は無敵である
学園対抗戦が始まるまでの間、ジェイの周辺は非常に騒がしいものであった。
ジェイの事を推薦した生徒は良いとして、他の生徒を推薦していた者達はなかなか納得しなかったからだ。
何度も闇討ちに遭い、その度に撃退していた。
今度ばかりは魔法も飛んできた。
それ故に、ジェイは今まで出来なかった対魔法の戦闘経験を多く積むことができたのであった。
発表があったその日にズタボロになって帰宅したジェイの怪我を診たのは母親であるケイナであったが、流石は国でも有数の大魔法使い。ジェイの身体に火傷など付けずに治してみせた。
アイにはバレない様にとケイナが配慮したのは、アイならばジェイに闇討ちを仕掛けた連中をぶっ殺しに行きかねないからである(最も、後にアイにはバレたし、その一件でキレたアイのせいで校舎が半壊するのだが。)
ちなみにアイの性格は本来のケイナ譲りではあるのだが、ケイナはジェイが襲撃された事を知っても何も言わなかった。子供同士のイザコザに首を突っ込むのは野暮であるし、ジェイの今後を考えるとどうしても対魔法の戦い方を覚える必要があると思っていたからである。唯の脅しである以上、死ぬほど強力な魔法が飛んでくることは無いという確信も有った。下手にジェイが死ぬほどの怪我をしようものなら、自分とアイを敵に回す。その意味が分からない人間はこの国には居ないと確信していたのである。
学園対抗戦当日。
会場は国のメインストリートに面するコロッセオである。
普段は大人しか入れず、そこでは剣闘士や賞金稼ぎ、あるいはモンスター同士を戦わせる賭け試合などが行われている。
子供がコロッセオに入れるのは学園対抗戦の時だけである。
王族用の貴賓席から抜け出したラナは旧友に会いに行っていた。
場所は5つある選手用の控え室へ向かう途中の廊下で、そこまで行かずとも目的の人物に会う事が出来たのだ。
「久しぶりですわね、ウィータ姉様。」
「ラナ。久しぶりね。貴女がクジ引きを外して別の学校になるなんて思ってなかったわ。寂しかったわよ、会いに来てくれればいいのに。」
ウィータと呼ばれた銀髪の少女はラナと同い年であるが、誕生日に半年程の差があり、昔一緒に遊んでいた時からラナは姉様と呼んでいた。
別に姉妹と言う訳では無い。
「会いに行きたいのは山々なのですが、学校同士も遠いですし、最近は公務も増えてしまって・・・。」
「・・・そうね。そろそろ私達も大人ですもの。昔通りにとは行かないわね。」
「今度時間を作ります。お茶でもご一緒しましょう。」
「楽しみにしているわ。」
「そう言えば、ウィータ姉様は試合に出るんですのね。」
「ええ。校内のトーナメントでちょっと本気出したら勝ち残ってしまったのよね。仕方ないわ。」
そう言ってウィータは背中の翼を広げてみせた。黒いそれは明らかに背中から生えている。
彼女はフリーマンだった。
今まで対抗戦に出なかったのは単に面倒だったから校内トーナメントを適当に棄権していたからであるが、今年は違った。
予感がしていたのだ。
そう、長年の探し物が見つかる様な、そんな予感が。
「あっれえ?ラナじゃん。何してるの?」
不意に声をかけられてラナは振り向く。そこにはアイとジェイがいた。
ジェイは照れた様な顔をして会釈する。
「アイさん。ジェイさん。御機嫌よう。こちら私の幼馴染でウィータ・シル・ランナさん。出場すると聞いて会いに来ましたの。そしたら控え室まで行く前に廊下でばったり。姉様、こちらアイ・カシマさんとジェイ・カシマさんご姉弟ですわ。」
なるほどと頷くアイ。そしてジェイ。
ウィータが着ている制服からして、戦うことになるとすれば決勝戦だ。そして、先鋒を務めることになるジェイは、ウィータという名前が先鋒に有った事を思い出す。つまり、お互いの学校が決勝まで進んだ場合、彼女がジェイの相手と言う事になる。
「ジェイ・カシマ・・・?(ジェイ・・・J?)。」
ウィータの視線はジェイに釘付けになっていた。
黒髪の少年。年は自分より少し下。そしてジェイと言う名前。多分間違いない、けれど本当に彼がそうなのだろうか?
分からない、確信が持てない。自分の十数年間の想いをこの場で発散する事は出来ない。
彼はラナと同じ学校の様だ。なら、対戦するのは決勝戦だ。
そこで確かめる。確かめてみせる。
「あの、ウィータさん・・・でしたっけ?・・・何処かで会ったことありませんか?」
「あらあら、ナンパかしら?」
ウィータは高鳴る鼓動と、ニヤけそうになる顔を押し隠してクスクスと笑ってみせる。
「さあて、次に会うのは決勝戦ね。精々頑張って勝ち抜きなさいな。」
そう言ってウィータは踵を返した。
キャラクター紹介
ウィータ・シル・ランナ 15歳 88
背中に生えた黒い翼と金色の瞳が特徴的な銀髪の少女。人形の様に整った美しい容姿の持ち主で貴族の娘。ラナの親友。
10年以上も初恋を引きずり若干病んでいる。
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