第4話 学園対抗戦

ジェイが学校へ着くと、正門から少し中に入った所に設置された掲示板には人集りが出来ていた。

初等部へ入学した年には分からなかったが、今のジェイには察しが付く。

そろそろ学園対抗戦の季節だったと。

このアリアスには5つの学校がある。5つの学校から3人の代表を選出し、魔法と剣の腕を競う。優勝した学校の代表は王族への謁見が許され、更に可能な限りで望みを叶えて貰える事になっている。

それで爵位を貰った者や、大金を得た者。将来を約束されるであろう職を得た者などいろいろである。中には貴族の令嬢との婚姻を認めてもらった者もいたらしい。

最も、魔法が使えないジェイは自分には関係ないと思っていた。

そう、思っていたのだ。


「おーい!ジェイ!」


「うん?」


掲示板を素通りしようと思っていたジェイに声を掛けたのはマックスである。

こっちこっちと手招きしている。

なんだか普段と違う様子をなんだろうと思ったジェイは、マックスの方へゆっくりと歩いていく。


「なんだよ?」


「なんだよじゃねーよ。お前、どんな手品使ったんだよ?」


「はあ?」


「あれあれ!」


マックスの指さす方向を見ると、そこには対抗戦の出場メンバーが書かれている。


『3年生 アイ・カシマ』

『2年生 エレナ・ムラサメ』

『1年生 ジェイ・カシマ』


ジェイが持っていたカバンがどさりと地面に落ちる。

後にマックスは言う。

ジェイがあんなに驚いているのは初めて見たと。

そして、人間って奴はあまりに驚くと声なんて出ねーんだなと。



「失礼します!?」


乱暴に職員室のドアを開けるとジェイは叫ぶ。

まだまだ狼狽しており冷静さの欠片も無い。

何事かと教師たちは部屋の入り口を向くが、ジェイに気付くと納得した様だ。


ジェイはヴェインの姿を見つけて駆け寄ると叫ぶ。


「なんで俺が代表なんかになってんですか!?できる訳無いじゃ無いですか!?」


「あー、ジェイ。気持ちは分かるが落ち着いてくれないか。ちょっと深呼吸しろ。・・・落ち着いたか?」


言われて切れてた息を整えたジェイだったが、その視線は非常に恨めしそうである。

ヴェインは言う。


「いやまあ、俺は最後まで反対したんだがなぁ。ほら、生徒全員が推薦書くだろ?あれ、1年の得票お前がトップなんだよ。」


「・・・そんなのたしかに有りましたね。」


確かジェイは1年はマックス、2年は覚えていないが、3年は姉を推薦した気がする。


「お前、やっぱり目立ってたんだよ。魔法使えないけど剣技は学園でも五指に・・・いや、ひょっとしたら1番なんじゃないか?

3年のオージルに剣で勝っただろ。アレが効いたみたいだぞ。あいつ、剣技では3年の首席だからな?」


「だからって魔法の使えない奴出そうと思います!?俺、魔力耐性も無いから、ダメージ素通しなんですよ?」


「それについてはこちらから答えましょう。」


「シノン先生?」


シノンと呼ばれた妙齢の女性教諭がジェイに話し掛けた。

気に入った男子生徒を性的に食い物にしてると言う噂の絶えない人だ。

ジェイはこの人が苦手だった。


「・・・何でシノン先生が?」


「まあお聞きなさいな。貴方は確かに魔法が使えないし、魔法に対する耐性もゼロ。学園対抗戦で詠唱の短い魔法を使われたらアウトよね?」


一般的に、魔法の詠唱において強力な物ほど長い時間がかかる。天才と呼ばれるアイでさえ、ある程度強力な魔法の詠唱破棄は出来ない。(アイの場合、通常なら短時間詠唱が必要な魔法を無詠唱かつ桁外れの威力でぶっ放すのだが。)


「で、今回私が開発したのがこの魔力を押し留める特性がある布で作った法衣と言う訳。今までにも有った物を改良して造った新型で、現在の王国魔法戦士部隊制式採用品より軽く、丈夫で魔法耐性も高いという優れもの!しかもコスト安!ただし私しか造れない一品!」


この説明、約2秒と言う超早口。

ジェイがシノンを苦手としている理由はこのマシンガントークであった。


「そ・れ・に!ジェイ君、貴方単位足りて無いでしょう?」


ジェイにしてみればそれは急所である。魔法実技の授業は常にゼロ点である。それ故にいつか突っ込まれるとは思っていたのだ。


「これ着て出てくれたら、単位は何とかするって職員会議で決まったのよねえ。どうする?」


「・・・やらせていただきます。」


こうしてジェイは学園対抗戦の代表に選ばれたのだった。




キャラクター紹介


シノン・ハララ 28歳 女性 未婚

街を歩けば男性が振り向くレベルの色気の持ち主。対象を捕縛する魔法が得意。

家庭科と魔法物理学が専門と言う変わった人で、専門分野の話になると超マシンガントークになるオタクタイプ。

男子学生を性的に食い物にしてると言う噂が絶えないが、事実である。

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