第12話「対話」

 Side 銀条院 ユカリ


「手早く語ろう。詳しく知りたければ決着がついた後でもゆっくり調べればいい」


「そうですわね。では尋ねましょう。この施設はなんなのですか?」


 両者は対面し、戦闘は行わず話をはじめた。

 猛達も真相が知りたいのか、この場はユカリに譲るようであった。


「変身ヒロインの研究所だ。同時に人体実験だ。ありふれた話だろう?」


「人体実験?」


 佐久間 レイカの様子から見てなんとなく予感はしていたがイヤな予感があたったと思った。


「そうだ。私の娘もその被害者でね。今でも植物人間状態だ――」


 そう言ってホロスコープに目を向ける。

 Drアスクの視線を追うと――一人の少女が液体で満たされたカプセルの中にいた。そのカプセルは穂ロースコープに埋め込まれるように配置されている。


「君が憧れている佐久間 レイカを含めて多くの変身ヒロインがこの施設で犠牲になった」


「佐久間さんが」


「ああ。そうだとも。この施設は数年前――当時の反変身ヒロイン派がつくりあげた施設だ」


「反変身ヒロイン派?」


「君もよく理解しているだろう? 昨今の変身ヒロインなど、芸能人とたいして変わらない。ゲームのように怪人退治をして人気を得るするスポーツと化している――」


「それは――」


「そして当然の事ながら変身ヒロインは女性にしかなれない。訪れたのは女尊男卑的な社会だった」


 わたし入れ替わりにデューネが言った。


「それで恨みを持った人間達がここで変身ヒロイン相手に人体実験をしていたのか? まあ大方女性相手に男性どもがなにをするかなんて想像するまでもないがな」


 と述べた。


「君は中々闇を視ているようだな」


「これでも宇宙規模の犯罪組織と立ち向かう身だ。そう言う知識はイヤでも知ってしまうのさ」


 デューネは当然のように返す。

 

 次に口を開いたのは猛だ。


「それに――娘が犠牲に? だから復讐を?」


「ああそうだ」


 Drアスクは即答し、こう尋ね返した。


「この世の中は間違っているとは思わないかヒーロー達よ?」


『じゃあ聞くけど、どう言う世の中が間違ってないんですか?』


 ここで達也が聞き返した。


「なに?」


『自分は――ヒーローに憧れていました。だけどそのせいで、中学までずっといじめられてきました。自殺未遂までしました。助けてくれたヒーローをボコボコにまでしました――高校生になるまえに新年戦争なんて言う戦いまで起きて――九割近くのヒーローが死んで――僕達のような学生すら素質があればヒーローとして戦わないといけない世の中です』


 誰もが言葉を発しなかった。

 ユカリもそうだった。

    

 この話を聞くのは二度目だが、イジメ云々の話は知らなかった。

 

『Drアスク。あなたの言う事も間違いじゃないと思います。だけどその復讐は僕達のような人間を増やすだけです』


 続いて綾香が言った。


『私も兄を奪われ、両親を殺されて、人体改造までされて、組織に復讐しようと考えていました。だけど――そんな生き方を命懸けで止めてくれた人がいました――だから分かります。この話し合いで決着するとは思えません。ですから全力で止めます』


 次にデューネが


「私も故郷の星を滅ぼされて単純にゲドゥを滅ぼせればそれでいいと思っていた。だがお節介な地球人たちのせいで最近その生き方に悩んでいたが・・・・・・私から言えるのは、心の中にいる大切な人――妻や娘に問いかけてみろ」


 最後は猛だった。


「僕は――復讐は否定出来ません。今に至るまで大切な人を亡くしたから。だから――戦うことでしか止められないのは分かっています。だけど言いたい事があるとすれば――あの子のためにも、愛する人のためにも、どうか考えられないでしょうか?」


 ユカリはなにも言えなかった。


「・・・・・・言葉は出尽くしたな。そして礼を言おう。こんな私を想っていてくれて――だが止まることはできない。最後に一つ情報を教えておこう」


「情報?」


 ユカリは首を傾げる。


「黒幕は私だけではない」


 それを聞いてユカリは「・・・・・・え?」と呟く。


「考えてもみたまえ。たったの一個人が、どれだけ優秀な頭脳を持っていたとしても限界はある。これだけの設備、これだけの計画、平行世界との悪の組織との交渉――」


 その時だった。


『喋りすぎだぞ。時和』


 空間に響くような、悪寒を感じる声が響き渡った。

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