第9話「ホロスコープ」
Side 銀条院 ユカリ
この世界に最初の激震が起きて三日目。
世間はとても慌ただしいがそれに構っている余裕はない。
この世界の変身ヒロイン達では力不足だ。
これまでの事件でそれをより深く痛感させられた。
異世界から来た彼達に並び立つためには最低でも最強の変身ヒロインである佐久間 レイカと同等かそれ以上にならなければならない。
と言うのも昨日の夜、二人きりで行われた天野 猛と佐久間 レイカの模擬戦の映像を見たから言える事だ。
厳しい現実である。
しかしやらなければならない。
だが現実は待ってくれない。
どうすれば良いのか分からず、窓を通して朝日が照らしている協会本部のラウンジでユカリは途方にくれていた。
(強くならなければならないのは分かりますが・・・・・・)
とても自分に佐久間 レイカを越えられる自信はなかった。
「自信が無さそうな顔してるな」
「誰!?」
何時の間にか協会本部のラウンジにあるフカフカの椅子に黒いフードの男が腰掛けていた。
黒いフードがついたコートを身に纏っていて何者なのかは分からない。
声色も男にも女にも聞こえる。
体格的にも華奢で性別の判断は難しい。
怪しさ全開と言って良い。
それよりも全然気配が感じられなかった。
漂う気配も只者ではない。
あの異世界から来た四人を上回るかもしれない。
「俺達を呼び寄せたのは君だろうに。だがその力は一端に過ぎない」
「え? あなたは何を――」
「この世界の事をこの世界の住民よりも深く把握している悪党さ」
「!?」
異世界の人間らしい口振り。
それよりも悪党と名乗り、一気に戦闘態勢に移ろうとする。
「え?」
しかし眼前から姿が消えた。
「こっちだ」
後ろに振り向くとそこに先程までの男がいた。
同時に実力の差と言う物を本能的に感じた。
「自己紹介の仕方が悪かったな。悪党名乗るのはまあ自分の過去への戒めみたいなもんだ」
「・・・・・・それで何のようですか?」
「詳しくは言えないが敵の目的と正体を少し教えておこうと思ってね」
「敵の正体?」
「今この世界にいる敵は様々な世界を跨いで暗躍しているがこの世界を中心に動いている。そして今みたいな状況に陥ったキッカケの一つはあるマシンが原因だ」
「そのマシンとは?」
「ホロスコープと呼ばれている。巨大な顕微鏡みたいな平行世界観測マシンだ。それを俺の世界の住民が持ち込んで暗躍している」
「その情報は確かなのですか?」
ホロスコープや平行世界観測マシンの事について分からない事が多いが本当なのかどうか尋ねずにはいられなかった。
「馬鹿でかいマシンだからな。それにそんな凄い事が出来るマシンだ。位置情報は君のスマフォに送信した」
そうすると紫のスマフォに着信音が響く。
件の位置情報を送信したのだろう。
「これを信じるかどうかは君次第だ――それよりもこの戦い、君の存在が鍵となる。それをどうしても伝えたかった」
「どうして私が鍵となると? そもそもアナタは何者なんですか?」
「俺の正体は今は教えられない。それと鍵となる理由は――時がくれば知る事になる」
「先程から好き放題に言いますね」
「悪い。此方にも色々と事情があるんだ。女神様」
「それは皮肉で言ってますの?」
「どう捉えてくれても構わない。今回はこれで失礼しよう」
そして最初からその場にいなかったようにいなくなった。
腑に落ちないがスマフォを確かめる。
そこには確かに詳しい位置情報などの詳細なデーターが入っていた。
だがそのデーター群の中に反変身ヒロイン団体と政府との繋がり、そして変身ヒロインの人体実験の記録などが記されていた。
その事に衝撃を受けると同時に周囲が慌ただしくなっていく事に気づく。
☆
少しばかりの時間が経過し、ユカリも事態を把握できた。
何者かが囚われていた変身ヒロイン達を救出し、そして政府も絡んだ人体実験を暴いたらしい。
今はその事実確認で協会本部は大騒ぎだ。
ユカリはラウンジで出会った男について話すために佐久間 レイカと個室の机で向かい合うようにして話していた。
「協会本部のセキリティは厳戒態勢だ。それで謎の人物が入り込んでそのデーターを渡して来たと・・・・・・」
「直接渡されたわけじゃなく、スマフォに送信されただけですから他にも仲間がいるかもしれません」
「ふむ・・・・・・色々と怪しい点はあるが無視できる話でもない」
そうしてレイカは雑誌サイズの電子端末に送信されたデーター。
平行世界観測機ホロスコープについて目を通す。
今回の事件に深く関わっているマシンであるらしく、平行世界のゲートを開けるだけでなく、平行世界のゲートを開ける際にそのゲートの向こう側の世界を観測、そして安定化させるための装置だと言う。
もっと分かり易く言えば――自分にとって都合の良い世界を探して選び、その世界を開くマシンであると言うのだ。
二人は科学者ではないが、それでもとんでもないマシンである事は素人でも分かった。
「場所は――因縁の土地か・・・・・・」
「知ってるのですか?」
佐久間 レイカは怪訝な表情をする。
「この件は――協会で対処する」
「どう言うことですか?」
「知らない方がいい」
そう言って彼女は足早に去って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます