第8話「猛と最強のヒロインと」

 Side 銀条院 ユカリ


 あの事件のせいで学校その物が休校になり、マスメディアが慌ただしく取り上げた。


 今の時代は変身ヒロインの時代であるが、逆に言えば変身ヒロインに色々と抑え込まれた時代である。


 変身ヒロインの学校が襲撃、前代未聞の超巨大怪人の出現など、面白半分に取り上げている。

 酷いのだと「堕落した変身ヒロイン達への天罰」などと言う輩までいる始末だ。


 第三者からすればヒーロー番組でも眺めている気持ちなのだろう。


 分かっていたがこれが現実である。 


 一先ず事情聴取のためにヒロイン協会本部へとユカリ達は訪れていた。

 勿論あの四人も一緒でそれぞれ協会のメンバーから個別で事情聴取を受けている。

 ちょっとデューネが心配だったがあの時――ドラゴンの攻撃から他のヒーロー達と一緒に皆を守ってくれた。

 その事をユカリが尋ねると「あんな光景は自分の星だけで充分だ」と素っ気なく語った。


 素直じゃないらしいが、同時に彼女もまた根っこの部分は優しいのだとユカリは思った。


「まさか浦方が自分の取り巻き連中を派遣するとはな」


「ええ、それは意外でしたわ」


 そして現在、全国の女性の憧れであるトップ変身ヒロインである佐久間 レイカと銀条院 ユカリは個室で今迄の事や今回の事などを引っくるめて話合っていた。

 レイカもある程度事前知識で知ってはいたが驚きっぱなしだった。

 一番意外だったのは堅物メガネこと浦方 伴治が自分の取り巻きである変身ヒロイン達を派遣した事だ。


 浦方 伴治は黒い噂が絶えず、取り巻きの変身ヒロイン達もワケありの連中が多いが実力は確かな連中であり、何故か浦方を慕っている。

 一体どう言う目論見で増援として派遣したかは知らないが、この判断で学園の被害を抑える事に貢献したのは確かだ。


「引き続き屋敷の方で預かってもらえるか?」


「よろしいのですか?」


「ああ・・・・・・頼めるか?」


「ええ――」


 正直嬉しい反面、不安だったが承諾した。



 Side 佐久間 レイカ


 夜になり、協会の広いラウンジで佐久間 レイカは天野 猛に遭遇した。

 そう言えば今日は協会に寝泊まりする予定だったと聞いている。

 折角なのでお互い椅子に腰掛けて話をする事にした。

 

(女の子みたいな華奢な体付きの少年だが――これで怪人数体を瞬殺したと言うのか)


 などと思いつつも話を切り出す。


「私は佐久間 レイカだ」


「あ、どうも。天野 猛です」


 その反応に佐久間は新鮮さを感じた。

 普通自分の名前と顔を出すと大抵相手は驚く物だからだ。


「どうかしたんですか?」


「いや、なにも――異世界のヒーローさん」


「うーん、異世界に来てまでヒーローやるとは思わなかったな・・・・・・この間宇宙人とやり合ったばっかだし――」


「宇宙人?」


「うん。ブレンって言う連中と。危うく世界滅びかけたけど皆で背後にいた神様も一緒に倒した」


「そ、そうなのか・・・・・・」


 何かデカいスケールの話を平然と話されてさしも佐久間も頬を引き攣らせる。

 てか背後にいた神様って何だ。


「楠木君の世界にも現れたみたいだけど――まあそこも同じような感じで倒されたみたいだね」


「もしも――この世界にブレン軍が現れたら対抗できそうか?」


「え? あ、うーん」


 そう言って猛は頭を捻らせる。


「えーと突然地球の衛星軌道上に出現して奇襲を受けたのもあったけど、アイツら僅か二日で日本は制圧寸前まで追い込む傍ら地球上だけでなく月やコロニーにも戦力を送り込める程の物量だよ・・・・・」


「え?」

 

 SF的な単語にも耳を疑ったが敵の戦力がおかしい。

 佐久間も思わず間の抜けた返事をしてしまう。


「地球連邦の総戦力や思わぬ援軍の力もあってようやく拮抗出来たからこの世界じゃ無理。変身ヒロインの力でもあいつらの指揮官級の戦士は控えめに見ても今日戦った連中と同じかそれ以上の連中がゴロゴロしてるからね。どの道物量で押し潰される」


 と、佐久間にとっては理解が追い付かない部分があるが痛烈な分析を猛は述べた。


「そ、そうか・・・・・・私は最悪そのブレン軍ぐらいの戦力が出て来るのを想像しているが・・・・・・」


 口元を引き攣らせながら佐久間は最悪の想定を告げる。

 と言っても想定しているだけでブレン軍規模の敵が来たら一溜まりも無いのだが・・・・・・ 


「うーん・・・・・・だけどそれも妙な話なんだよね。何らかの大掛かりな計画から目を逸らすための陽動だって言うんなら分かるんだけど」


「思い当たる節はあるのか?」


「デザイアメダルの事件の時が今みたいな感じだった。本気で潰すのなら計画の準備が整ったぐらいの時にやるから。そして同時進行か、その後に最終目的を達成させるための大掛かりな計画を成就させるってな感じに」


「ふむ・・・・・・」


 佐久間 レイカは猛の意見に聞き入っていた。

 この世界で言う怪人との戦いは、例えがアレだが危険な野生動物の対処とかと同じレベルだからだ。

 一応変身ヒロインの中にも犯罪者相手に戦う連中もいるが――そっちの方面の意見も聞いた方がいいかも知れないように感じた。


 だがそれよりも――


「なあ、一つ頼みがあるんだが」


「何?」


「私と戦ってもらえないだろうか?」



 ここは変身ヒロイン協会の本部。

 トレーニングルームなどの訓練施設はある。

 その一つの広々とした場所で猛とレイカは対峙していた。


 レイカのコスチュームは青を基調としたレオタード系の衣装、サイハイブーツに肩のアーマー、長グローブ、体の各所に動きを阻害しないアーマーや突起物がついていた。

 頭部には青い一本角のヘッドギアとブルーのバイザーが付いている。

 手には日本刀型の武器が握られていた。

 

 二人は激しい接戦を繰り広げる。


(現役を退いていたいたとは言え、この歳の子がここまで戦えるか!?)


 押されているのは佐久間の方だ。

 スーツと変身ヒロインとしての力の差もあるがそれでも見掛け不相応な相手の実力の高さに舌を巻く。

 

 自分が目に掛けている銀条院 ユカリが彼達に惹かれるのも当然だ。

 

 佐久間自身も惹かれつつあるのだから。


 佐久間自身が追い求めていた変身ヒロイン、ヒーローの理想像をユカリは異世界から来た四人に見たのだろう。

 

 嘗てユカリが佐久間にその理想を見出して変身ヒロインになったように、逆に佐久間がユカリの変身ヒロインに対する姿勢に未来を感じ取ったかのように。


(だが今この瞬間だけは一人の戦士として立ち向かう!)


 赤くなったレヴァイザーと佐久間は激しい剣撃を交わす。

 剣術はある程度の心得を持っているだけのレベルだろうが、実戦での経験値の高さがそれを補っているようにも思える。

 報告書によれば他にも様々な形態があるそうであり、剣術一辺倒の戦闘スタイルではないのだろう。


 佐久間は飛び引き、背中に大きな剣を二振り、翼の様に展開してそこからエネルギーの刃の光の弾を発射。


 すぐさまレヴァイザーは姿を変え、水色になり三股の槍、トライデントを持ってプロペラの様に激しく回転させて防いで見せた。


「中々器用だな!」


「こう言う事も出来ます!」


 そしてグリーンになり、手に持ったオモチャの様な銃の銃口からエネルギーの竜巻が放出される。

 それを佐久間は気合い一閃、剣で切り裂いて見せた。


「この辺にしておこう」


「うーん・・・・・・うん。そうしましょうか」


 などと一戦交えた後だと言うのに疲れた様子は見せていなかった。

 昼の事件からある程度時間が経ってるとはいえだ。


(これが異世界のヒーローの力か・・・・・・)


 もしも真剣だったらあの銀色の状態を出されて倒されていただろう。

 鍛え直す事を決意すると同時に他の変身ヒロイン達――特に銀条院 ユカリをどうするべきか彼女は悩んだ。


 

 Side ???


「異世界のヒーロー・・・・・・想定外のイレギュラーだが・・・・・・私の計画は阻めんよ」


 この変身ヒロインだらけの世界には一人の男がいた。 

 

 この変身ヒロインだらけの世界を男は持てる知恵を振り絞って少しでもよくしようと正そうとした。

 

 しかしそれは変身ヒロインの手で阻まれた。


 そして――彼は悪に堕ちた。  

 

 名をDr.アスクと変えてマスクを被った。


 Drアスクはこの変身ヒロインだらけの世界に復讐しようとした目論んだ。


 そんな時、ある存在から協力を持ち掛けられて承諾した。


 Drアスクの眼前にあるモニターには四人のヒーローが映し出されていた。


 そして後ろには大きな顕微鏡のようなマシン。

 それに埋め込まれたカプセルがあった。

 カプセルの内部は緑色の液体で満たされている。


 カプセルの中には童話に出て来そうな長い髪の少女が悲しげに眠っていた――

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