第6話「変身ヒロインの学校」

 Side 銀条院 ユカリ


 浦方との面談が終わり、昼飯を終えて銀条院 ユカリと異界の四人のヒーローは車で移動していた。


 と言うのも浦方 伴治の提案で銀条院 ユカリが通う学園、「聖ヒメノ学園」に足を運んだ。

 聖ヒメノ学園側は急な来客にもかかわらず、これを承諾してくれた。 


 聖ヒメノ学園は今時珍しくない、変身ヒロインの活動を学業として認める学校であると同時に変身ヒロインの育成機関の一つである。


 変身ヒロインが無数に存在する現在、変身ヒロインの活躍による知名度アップや人気の上昇は無視出来ないため、逆に禁じる学校の方が少ないぐらいなのだ。


 また、変身ヒロインの実力も上がれば怪人との戦い以外でも活躍出来るので変身ヒロインの育成に力を入れる教育機関も多い。


 だが世間を揺るがす、変身ヒロインの出番が必要な大事件など早々無く、手っ取り早く名声を得られる怪人との戦いで手柄の取り合いが横行しているのが今の変身ヒロイン業界の現状であり、大都会ともなるとそれが顕著だ。


(何だか憂鬱な気分ですわ・・・・・・)


 銀条院 ユカリは――まだ四人と出会って日が浅いが、この世界の現実を見てどう言う反応をされるのか恐かった。

 失望されるぐらいは覚悟した方が良いように感じていた。


 浦方 伴治は抜き打ち査察と言う名目で聖ヒメノ学園に立ち入り、銀条院 ユカリは学園を案内する前に担任教師の鞠野先生やと学園長のマリエルとある程度の話をしておく事にした。

 

 ユカリは四人を伴い、好奇の視線の集中砲火――特に猛と達也の二人が晒され、学園長室の前で待機するように言った。

 

 部屋に入ると担任の鞠野、学園長のマリエルがいた。


「違う世界の変身ヒロインにヒーローですか・・・・・・本当なんですか?」


 まだ幼い幼女のような背格好のショートヘアーの担任教師、鞠野先生の疑問はユカリも最もだと思った。


「ですが昨日の一件は既に我が学園でも噂になっております。佐久間さんからもある程度話は聞いていますが――」   


 長いブロンドヘアー、温和そうに整った顔立ちと白い美肌とグラマラスな体付きが特徴の落ち着いた雰囲気の女性、マリエルはある程度の話は協会の人間から聞いているらしいが此方も半信半疑のようだ。


「ともかく四人には学校見学をしてもらいましょう。浦方さんの言う通り、お互いの理解不足で不幸な擦れ違いがあってはなりませんから。銀条院さんと鞠野さんは四人を、私は浦方さんの方を対応します」


 ユカリと鞠野の二人は「はい」と返事した。

 その時だった。


「サイレン!?」


 警報音と一緒に学園中から悲鳴が上がる。

 

☆ 


 Side 藤堂 アスカ


 金髪のツインテール。

 切れ長の青い瞳。

 女子高生にしては胸が大きめ。

 だけど体付きはアスリート系の少女。


 藤堂 アスカことセインティ・ブレイズにとって変身ヒロインは憧れの地位であると同時に競争率が高い業界と言う、今の変身ヒロインを象徴するような考えを持っていた。


 だから銀条院 ユカリの様な存在は正直に言うと変身ヒロインとしてあるべき姿ではあるが、変身ヒロインとして長続きはしないと思った。


 今の時代、変身ヒロインと言うのは手柄の奪い合いだ。

 そんな業界で生き残るには強くならないといけないのが最低ライン。

 コミュニティを作ったり、把握したりとかSNSをフル活用したり、ファンを獲得するために愛想良く振る舞ったり、とにかく目立つための努力が必要不可欠なのだ。


 学校での変身ヒロインとしての基礎学も、目立つ努力も惜しまなかった少女「藤堂 アスカは現在、最大のピンチを迎えていた。


「どうして学校に怪人が!?」


「嘘でしょ!?」


「どうすればいいのよ!?」


 怪人が学校に出現。

 見た事もない、人間に近いシルエットで刃物を擬人化したような外観をしている。

 頭部、両腕、背中に翼のような刃物になっている怪人。

 本来、怪人は漆黒のシルエットの筈だが見た事もないタイプだ。

 ヒーロー番組みたいに戦闘員を連れている。


 それが学校の塀を力任せに破壊し、変身ヒロイン同士の戦闘に耐えられる演習場に侵入。

 手当たり次第にその場にいた教師や生徒の区別なく攻撃している。

 

 ここは変身ヒロインの教育機関、生徒も教師もほぼ全員ヒロインだ。

 戦闘員タイプはどうにか生徒でも対処出来たが、刃物の怪人は別次元の強さだった。


「皆、私が時間を稼いでいるウチに逃げろ!」


 教師も防戦一方だ。

 

「サイバーレッド!! 楠木 達也は何処だ!? 何処にいる!?」

 

 そして怪人が放つ独特の雰囲気。

 圧倒的な強さだけではなく、普通の怪人とは違う凶器や殺気を振りまいている。

 生徒はこの異常事態に戦々恐々となり、足が竦んだり腰を抜かしたりしていた。


「いい加減うっとおしいわ!!」


「あぐっ!?」


 そう言って横凪に手である大きな刃物を振るう。

 見掛けによらず素早く振るわれたその一撃で教師は倒された。  


「グシャグシャになると思ったが、変身ヒロインと言うのは思いのほか頑丈だな・・・・・・」 

 

 倒れ伏した教師に余所見している隙を狙って、刃物の怪人に生徒の何人かが攻撃を加える。

 炎の弾、弾丸、光線――多種多様な攻撃が降り注ぐ。

 攻撃の着弾による煙で視界が遮られる程の勢い。

 並の怪人ならこれで倒されているのだが――


「嘘でしょ――」


 全くダメージを負った様子は無い。

 ゆっくりと歩み寄ってくる。


「弱すぎるな――貴様達それでもヒーローなのか?」


 相手のその一言で戦意が折れた。

 

 その後の変身ヒロインは様々だった。


 その場で放心する。

 戦闘員にサンドバッグにされる。

 気絶して倒れる。

 脱兎の如く逃げ出す。


 藤堂 アスカはどうすれば良いのか分からなかった。

 なにこれ?

 変身ヒロインの世界はただ怪人相手にヒーローゴッコするだけの楽な職業でなかったのか?


 どうしていいか分からずアスカはその場にへたり込む。

 涙も溢れ出していた。


 今のアスカの姿は紫色のレオタードに、レオタードとヒモで繋がったサイハイブーツ、長グローブ。

 目元を緑のバイザーで覆い、体の各部を赤いパーツやレッドのプロテクターで彩った扇情的なスーツ。

 手には赤い光の剣を持っている。

 いわゆる近接戦闘型の変身ヒロインだ。


 そう言う格好をしていても、幾ら人間よりも超常的な力を持っていても目の前の敵には何の役には立たない。  


(殺される――)


 そして戦闘員の一体が間近に迫ってきた。

 尻餅付きながら剣を振ってガムシャラに追い払おうとする。

 しかし周囲を取り囲まれて――


(いや、誰か、誰か助けて!!)


 それは暴風だった。  

 

『遅くなってごめん!!』


 時代遅れのテレビの中でしか存在しない赤い戦隊ヒーロー。

 動物のゴリラを連想させる厳ついグローブと重騎士を連想させるブーツをはめ込み、次々と殴り、蹴り飛ばす。


(お、男の声!? な、何が起きて――)


 黒いポニーテールを靡かせた漆黒の変身ヒロインが戦闘員を蹴散らし、教師をほぼ完封した怪人相手に果敢に接近戦を挑む。


 青い二組のコンバットスーツの変身ヒロインが次々と戦闘員達を撃ち倒し、周りの生徒達を助けている。


 そして――銀条院 ユカリが教員と一緒に皆の批難を手伝っていた。


「ユカリ――」


「この場にいては彼達の戦いの邪魔になりますわ!!」


 信じられない状況だ。

 戦闘員達があっと言う間に数を減らし、青いコンバットスーツを着たヒロインのウうち、片方が赤くなって手に剣を持ち次々と戦闘員を斬り倒して爆散させていく。


 怪人と戦っている変身ヒロインはあの怪人と今も互角に――いや、互角以上だ。

 黒いコンバットスーツ風の変身ヒロインは武器を持たず、無手であるにも関わらず相手の攻撃を避けて適確に相手に打撃を入れている。その打撃にダメージを負っているのか刃物の怪人が後退る。


『キラーエッジ・・・・・・何度復活するつもりだ・・・・・・』

 

 粗方戦闘員を倒し終えた戦隊レッドの――ヒーローが呆れたようにそうぼやいていた。やはり男のヒーローであるのも驚いたがあの怪人を知っているようだ。

 ユカリが「知っているのですか?」と尋ねる。


『これで戦うのは3回目だね。4回目はまあ・・・・・・悲惨な死に方してたけど』


「倒せるんですか?」


『倒せるかどうかじゃなくて倒さないといけません。アイツは倒す度にパワーアップして復活して、最後に倒した時は他の怪人と合体、巨大化しましたから』 

  

 そう言って戦隊レッドは駆け出した。


「ユカリ・・・・・・この人達は何なの?」


 アスカは疑問に思った。

 突如として現れた四人。

 明らかに既存の変身ヒロインの戦闘能力を凌駕している。

  

「私も出会ってまだ日が浅くてどう言えば良いのか分かりませんが・・・・・・少なくとも頼れる人達であるのは間違いありませんわ」


「そ、そう・・・・・・」


 アスカはユカリに体を引っ張られるながらもその四人の戦士の勇士を脳裏に焼き付けていた。

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