第5話「来訪者」

 Side 銀条院 ユカリ


 屋敷の外と敷地内を区切る正門前。

 そこで黒いスーツ姿のメガネを掛けた短い黒髪の男とユカリは対峙していた。 

 その男はとても無機質で知らない人が見れば人形のような印象を持つだろう。

 周りには変身ヒロイン達がいる。

 

 男の名前は「浦方 伴治」。

 女性の割合が多い変身ヒロイン協会の人間の中で高い地位にいる男の役人で必然的にその筋では有名な人間であり、あまり良い噂は聞かない。


 そんな男と正門を開けて対峙していた。


「佐久間さんには話を通しておいたんですけど、どう言う事でしょうか?」


 ユカリはやや威圧感を込めて話した。


「いえね。男のヒーローや謎の変身ヒロインが現れたと聞いて、そして昨日の怪人騒動の事情聴取を伺いたいと思いましてね。出来れば協会の方に顔を出してくれればと思いまして」


 そう言って浦方は屋敷の方に眼をやる。 


「話によれば昨日の大騒ぎで実力派の変身ヒロイン達を倒した相手をあっと言う間に倒したと言うじゃないですか。謎のヒーローに謎の変身ヒロインは我々変身ヒロイン協会としましても無視出来ないんですよ」


「まるで変身ヒロインを倒した相手よりもその謎のヒーローや謎の変身ヒロインが脅威のような言い草ですね」


「そうですがなにか?」


 これにはユカリも言葉を詰まらせた。

 浦方の周りの変身ヒロイン達でさえ動揺している。


「君ではイザと言う時、彼達が暴れた時手に負えない。彼達の管理を私達に任せて欲しい」

 

 倫理的かつ事務的に告げる。

 正直ユカリは認めたくないが言ってる事には間違いはない。

 だがとても腹立たしい。

 彼達を厄介物扱いするかのような態度に。


 だからユカリは突き放すように「お断りします」と言った。

 

「既に話は佐久間さんに話を通してます。これ以上は佐久間さんに話をしています。それとも公的機関の協会が越権行為をすると?」


「先程も言いましたが貴方のためでもあるんですよ?」


「下手に相手の印象を悪くしないのも社会人として常識かと思われますが? それに浦方さんも私の事についてはよくご存じでしょう? もしも彼達が悪意のある人間であるならば、とっくに私は――それ以前にあの場にいたヒロインの皆様はとっくに死んでますわ」


 ユカリは最大限の作り笑いを浮かべた。

 変身ヒロインである前にご令嬢である彼女はこう言う英才教育も幼いころから受けている。特にSNSが発達した今のご時世は迂闊な行動や一言が命取りになる世の中。こう言う駆け引きも学ばざるおえない――お金持ちのお嬢様と言うのも大変なのだ。


「……成程。協会としても彼達の存在は極秘に扱わらざるおえないが、協会を運営しているのは佐久間さんや私だけではない。他の方々を納得させるためにもここは一つ、彼達の周りに協会の人間を置かせてはもらえないでしょうか?」

 

「それが妥当ですわね。妙な真似をしたら叩き出しますのでそのつもりで。詰めた話は屋敷の中でしましょう」


「いいでしょう」


 苦渋の決断ではあるがユカリは浦方を屋敷に招き入れる事にした。


  

 Side 浦方 伴治


 屋敷に入った浦方は四人一人ずつ面談する形で対応した。


 正直言うと異世界からの変身ヒロインだのヒーローだの半信半疑だった。


 だが彼達が圧倒的な強さを持つことや未知のテクノロジーを使う犯罪者がこの世界に紛れ込んでいるのは事実であり、腕利きのヒロイン達を凌駕する実力を持っているというのも無視できない。

 

 一番の問題はその四人の人格だった。


 浦方にとって変身ヒロインの大半はテレビに出て来るようなヒーロー像、ヒロイン像とは掛け離れている様な存在であり、銀条院 ユカリの様な存在は少数派であり、浦方が変身ヒロインと言う存在を毛嫌いする要因の一つであった。


 だから浦方は異世界から来たらしい連中がどう言う人間であるか――恐い物見たさであるが一対一で面談してみる事にした。


 Case 天野 猛の場合

 

 天野 猛。

 金髪ショートで緑色の瞳。

 華奢で少女にも見える元気良さそうな中学生。

 変身ヒーローの一人であり、昨日の事件で実力派の変身ヒロインが敵わなかった怪人の大半を瞬殺した実績を持つ。


 先ず最初に浦方は「この世界をどう思うか?」と尋ねてみたが、「来たばかりでまだ良く分からないです」と言う当たり前の返事がスグに返ってきた。

  

 事前知識で昨日現れたばかりなのだからこれが当たり前の回答だ。

 反省しつつ浦方は次に「どうして助けたのか?」と答えた。


「あの状況下でなら誰だって助けるよ。あ、でもスーツが無かったら逃げ出していたかも」


「スーツ?」


 ここで変身スーツについて知る事になる。

 天野 猛や楠木 達也の世界では変身スーツの開発が進んでいるらしい。

 つまり誰でも変身ヒーローや変身ヒロインになれると言う事だ。


 同時にそれによる犯罪――昨日変身ヒロイン達を倒したデザイアメダルも、元々はチェンジメダルと言う外宇宙由来のメダルを日本政府が魔改造して誕生した性質の悪い麻薬と成り果てた変身アイテムだそうだ。


(報告書にどう書けばいいのか・・・・・・) 


 誰でも超常的な力を持てる。

 

 選択一つ誤れば今の変身ヒロイン社会が崩壊しかねない事実だ。


 だがデザイアメダルは天野 猛や楠木 達也の世界由来で一体どうやってこの世界に持ち込まれたのか調査中の段階である。


 正直あまり関わりたくないが佐久間 レイカとも協力しなければならないだろう。


「次に君達の今後の事だが・・・・・・」


「そうですよね。今はユカリさんの元で世話になってますけど戸籍とかありませんし、イザと言う時に戦うってなっても――元の世界では半ば黙認されてましたけど、一応法律的には違反ですしね」


 中学生にしてはとても物分かりがいいと感じた。

 素直に浦方は賞賛した。


「正直に言おう。たぶん昨日の様な敵が現れたら我々協会としてはとても厳しい。死人が出なかったのが奇跡の様な物だからだ。色々と煮詰めないといけない部分が多いが・・・・・・我々に協力して欲しい。出来る限り便宜は図りたい」


「分かりました」


 猛は明るい笑みで返した。

 浦方は何故か驚いてしまったがスグに事務的な態度に戻る。


 Case 楠木 達也


 楠木 達也。

 高校生であり、戦隊ヒーローのレッドであるがリーダーと言うワケではない。

 司令官は防衛隊の工藤司令と言う人物で現場指揮官は中條と言う女性であり、ヒーローは軍属で固められるべきだと主張しているそうだ。


(軍属で固められたヒーローか・・・・・・)


 それを果たしてヒーローと呼べるかどうかは疑問だが意見には理はあるように感じた。達也と言う少年も言わんとしている事に理解をしているので反対しにくいらしい。


「君はどうしてヒーローになったんだ?」


「猛くんもそうですけど彼と同じで成り行きですよ。僕の場合は政治的なアレコレとかありましたし。それに他の同年代の高校生戦隊が一定の戦果を挙げたりとか、僕も初の戦いで上の目に叶う戦果を挙げちゃいましたから辞めたくても辞められないんですよ」


「ふむ――」


 猛の世界もそうであるが達也の世界は浦方の世界が天国に見えるぐらいに治安が悪く、敵の強さも数段上の世界である。


 新年戦争が事実であり、昨日のような敵が弱い部類で大量にいるのならば彼のような少年や女子高生戦隊までもが実戦投入されるのも無理からぬ話だろう。


 この世界で同じような状況になってマトモに戦えるヒロインは何人いるのかと考えただけでも浦方は自分の世界の無力さを痛感した。


 Case 水樹 綾香


(さて。こっからが本題だな)


 前の二人は変身ヒーローであり、彼の基準で言えば好意的な部類に接していた。

 だがここからは異世界とは言え、変身ヒロインである。


 どうせこの世界のヒロインと同じ――と、根底にあった。


 だがそれは大きな勘違いであった。


(嘘だろ・・・・・・)


 彼女の生い立ちは嘘であって欲しいと言うレベルの壮絶なものだった。

 まんま古き良き昭和のヒーローの生い立ちをまだ中学生の少女が経験しているのだ。

 

 慎重に言葉を選んでその事について尋ねたが、綾香曰く「デューネさんとは比較にならない」と言った。


 その意味を知り、浦方は彼女に「自分の不幸と他人の不幸を比べるのは間違いだ」と言いたかった。

 

 だが言えない。この言葉は「甘ったれんな」と言う意味も含まれた言葉だからだ。



 Case デューネ・マリセイド


 デューネとの相手はある意味では一番緊張すると同時に、この世界の変身ヒロインと共通する項目があるのでやり易かった部分が多い。


 だからと言ってフランクになり過ぎて良い筈もなく、浦方は慎重に言葉を選んだ。


 故郷の星を犯罪組織に滅ぼされた。


 それがキッカケで宇宙刑事となり、地球に来た。


 地球に来たのも故郷の星を滅ぼした犯罪組織を追うためであり、そうでないならば地球には来たくなかった。


(話のスケールが壮大だな。。嘘を付いている様子もない)


 疑問もあるが宇宙規模の話に地球の地域国家の尺度で語って良い話ではないだろう


 だがどうしても一番の疑問――地球に来たくなかった理由を知りたかった。


 理由は様々であるらしいが、一言で言い表すならば地球人の精神は宇宙基準で言えば未熟であるらしいとの事だ。


(耳が痛い話だ・・・・・・)


 これは浦方が居る世界の地球にも言える事だろう。


 マリーネは科学的だけでなく、精神的にも高度な文明を築いていたらしい。

 そう言う星は銀河連邦に加盟している星では珍しくないらしい。


 その点で言えば地球人は銀河連邦の視点から見れば変身ヒロインなどと引っくるめて蛮族に見えてしまうのかもしれない。

 

 浦方は彼女の話を一から百まで信じたワケではないが、困った事に作り話である可能性は低いように感じられた。


 彼女に関する報告書の作成もかなり難題となるだろう。



 全ての面談を終えた頃には昼になろうとしていた。

 浦方 伴治は――協会に属して世の中の事を知り尽くしたように感じていたがまだまだ見識不足を痛感させられた。


 同時に彼達もまだこの世界の事を知らない様子だ。


 不幸な擦れ違い――他の世界のヒーロー、変身ヒロインとの戦いを起こさないためにも早急に知って貰うためにある場所への見学を思いついた。


 変身ヒロインを育成するための学校への見学だ。

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