第4話「それぞれのオリジン・後編」

Side 銀条院 ユカリ


 水樹 綾香は自分の世界について語り始めた。


「まず第三次世界大戦とか起きてませんし、地球と宇宙の行き来も出来ません。ヒーローも沢山いるわけでもありません。そんな世界です」


 と前置きし、「ですが私の世界にはヒーロー番組に出て来るような悪の組織が確かに存在するんです」と忌々しげに語った。


「その名はプラント。私の両親と兄を殺し、人体改造を施すキッカケを作った組織です」


「じ、人体改造!?」


 つまり昭和のヒーロー物とかでよくある設定。

 悪の組織に改造された改造人間だと言うのだ。

 まだ十代半ばぐらいのこの少女が。

 サラッと綾香は語ったがとんでもないハードな過去だ。


 その事にユカリは驚愕を抑えられず口元を手で覆ってしまう。

 他の面々も似たり寄ったりの様子だった。 


「はい。私はプラントの復讐のために戦っていました――いましたが・・・・・・光志郎さんと出会って私は変われました」


「光志郎さん?」


 突然顔を真っ赤にして――恋する乙女の様な顔になってユカリや他の面々は困惑する。


「はい。最初は――その、やり方の違いとかで色々とケンカをしたりしましたが、ですが――それでも私の事を大切に想ってくれる人なんです」


「そ、そう――」


 どうやら光志郎さんと言う人は綾香にとってとても大切な人らしいとユカリは分かった。他の皆も同じ様子だった。


「以上です」


「え? もう話す事終わり?」

 

 猛が皆の意見を代弁した。

 最後ノロケ話になったが他に話す事は無いのだろうかと思う。


「と言っても本当にこれ以上は何もありませんよ? 敵の大幹部が私のストーカーだったりとか、光志郎さんの友人が大幹部だったりとかそれぐらいしか」


「あの、水樹さんが戦っている組織っていわゆる地域密着型の悪の組織なの?」


 先程に続いて猛が代表して綾香に尋ねる。


 シリアスな綾香の生い立ちの割にはアホな肩書きの大幹部やら意外なところに大幹部が潜んでいたりとか――何か一気に極悪非道な組織と言うイメージから遠退いた気がした。 


「一応世界規模で活動している組織で、光志郎さんのお父さん――ナイトチェイサーが海外にいるプラント相手に戦っているとは聞いていますが」


「ああそうなんだ・・・・・・なんだろ、この昭和●イダーみたいな話」


「光志郎さんも同じ事を言ってましたね」

 

 猛と同じ疑問を綾香の思い人と思われる光志郎も持っていたようだ。

 

「最後は私だな――」


 そして最後に青髪の少女、デューネの話に入る。


「たぶん地球の文明は水樹さんと同じぐらいだろう。私は宇宙犯罪組織「ゲドゥ」を追って地球にやって来た銀河連邦の宇宙刑事だ」


「ゲドゥって何者なんですか?」


 達也が聞くとデューネは「悪魔の集団だ」と即答した。


「様々な星々に侵略し、時には滅ぼし、私の故郷――マリーネは奴達の手で滅ぼされた」


 付け足すようにデューネは「その復讐をするために宇宙刑事になって奴達の足取りを追って地球に来た――」と答えた。


 皆言葉を失う。

 綾香だけは「復讐――」とだけ答えた。


「正直賭けに近かったがゲドゥは地球に現れた。学生やりながら奴らを倒し、情報を得て、ゲドゥの情報を少しずつ掴んでいた矢先にこの世界に来た」 


 デューネは「これでいいか?」とユカリに目をやった。


「ええ。その――」


 ユカリは何か言いかけたがデューネは「すまない。もう少し話す内容は選ぶべきだった。それと同情は不要だ」と言葉を遮った。


「今はそれよりもこれからどうするべきかを考えよう。正直この世界で骨を埋めるつもりはない」

 

 デューネは言い方はキツめだが言ってる事は的を得ていた。


「そうだね。だけど手掛かりはこの世界に来る直前に聞いた女の子の声と――デザイアメダルを持っているあの連中ぐらいかな?」


「猛君の意見に賛成かな? たぶんあの女の子の声はこの世界で僕達に何かをして欲しいからあの場に呼び出したのであって――それに元の世界に帰るためにもあのデザイアメダルの行方を追うのが先決だと思う」


 猛と達也は意見を出し、綾香は「私もそう思います」と賛成した。

 デューネは「それしか道はないか・・・・・・」と渋々賛成した様子だった。


「不思議な女の子の声については私も聞いた覚えはあります。それにデザイアメダルの調査は――」


 と、その時だった。

 屋敷で働いているメイドの一人が勢いよく部屋に入ってきた。


「お嬢様、来客です。ヒロイン協会の人間が複数のヒロインと一緒に来ています」


 その一言を聞いてユカリやマリ、異界の来訪者達も察しがついた。

 昨日ユカリは協会の方に話を通しておいたがやはり来てしまったらしい。

 誰が何の目的かはユカリには分からなかったが、ユカリはがやるべき事は分かっていた。 


「分かりました。私が出ます」


 ユカリは体の震えを抑えながら皆にそう告げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る