第3話「それぞれのオリジン・前編」

 Side 銀条院 ユカリ


 朝になり、大きなフロアのテーブルに朝食を並べる。

 マリ意外のメイドが壁際に整列して立っている姿は壮観であった。

 四人は落ち着かない様子で猛などは「宮園さんの家もこんな感じなのかな?」などと言っていた。


 朝食を済ますと応接室に入り、昨日言った本題に入った。


「えーと僕達の事を語ればいいんですか?」


 達也が代表してユカリに尋ねる。


「はい。自分達の世界の事で構いません」

 

 ユカリはそう告げる。


「うん――猛君とはあの後も色々と確認を取って分かったけど――やっぱり昨日言ってたみたいに似て非なる世界だった」

 

「何処が違うんですか?」

 

 綾香は当然の疑問を投げ掛ける。

 達也は「色々と違うけど一から僕の世界について説明するね?」と前置きする。


「僕の世界はヒーローや変身ヒロインとか沢山居た世界なんだ。それに比例して敵も大勢居た。科学技術とかとても発展していて地球と宇宙どころかその気になれば外宇宙にもいけるし、異世界の住民が地球に住んでいるなんて事もあった」


「凄い世界ですのね」


 ユカリは正直な感想を述べる。

 どんな世界なのか想像が追い付かなかった。


「ある時、新年戦争と呼ばれる大きな戦いが起きたんだ」


「新年戦争?」


 その単語にユカリは首を傾げる。


「詳細は省くけどヒーローと悪との一大決戦さ。この戦いでヒーロー側が勝利したけど軍隊もヒーローも被害が出て特にヒーローは確認出来る範囲で九割が死んだ壮絶な戦いだった」


 猛はともかく他の面々は言葉を失っていた。

 昨日からやや皮肉下な態度を取っていたデューネですら黙っていた。 


「それで世界は暫くの間、平和になると思ったんだけど長続きはせず、新たな侵略者が現れたんだ。その侵略者に対してほぼ急造の新戦隊が対処して頑張ってたんだけどやはり新年戦争の影響で戦力不足感が否めなくて――人類は新たな戦隊を複数産み出そうとしたんだ。その戦隊の一つが僕がいるゴーサイバーなんだ」


「凄まじい話だがどうして戦隊になったんだ?」

 

 デューネが尋ねる。

 達也は「成り行きだったんだ」と、苦笑して話を続ける。


「僕はゴーサイバーの秘密基地――表向きはサイバックパークって言うアミューズメント施設に偽装した場所に社会科見学に来てて、その時に侵略者達の襲撃を受けてね。他の初陣を待っていた戦隊基地も同じで僕達は必死に逃げて。ゴーサイバーの秘密基地内に逃げ込んで、殆ど偶然ゴーサイバーの装着者になったんだ。本来の正規装着員は襲撃の時に亡くなったんだ・・・・・・」


「すまないな・・・・・・少々気配りが足りなかった」


 と、デューネは素直に謝る。

 昨日の皮肉った態度とは大違いだ。

 ユカリやマリ、猛や綾香も驚いてしまう。


「いいんだ――それで僕はゴーサイバーとして戦う事になったんだけど――まあ詳細は省くけど以上かな?」

 

 そして達也は猛に目配せし、猛は「次は僕が話すね」と話を引き継ぐ。


「僕の世界は科学技術はとても発展していて――と言っても達也君の世界には負けるけど、火星よりも先に人の足は伸びてるよ。数十年前に月の独立戦争――第三次世界大戦が起きて月側が勝利したとか地球連邦が誕生したとか結構違いがあるね」


「地球人は業が深いな・・・・・・」


 デューネの言葉に猛は「デューネさんの言う通りだね」と苦笑した。


「話を戻すけど、世界には幾つか特別な教育機関が存在していて僕が通っていた天照学園もその一つ。日本の大平洋側の海に浮かぶ、人工島と自然の島とで構成された学園都市で学園島なんて呼ばれている。話を聞く限り達也君の世界にも僕や天照学園は存在するみたいだね」


 それを聞いて昨日のやり取り――二人が最初に出会った時の話の食い違いにユカリは合点がいった。


「こっから話が複雑化するし、まだ事件の全容も解明し切れてないけど――天照学園は日本政府と仲が悪くてね。ある時、日本政府は天照学園にテロを仕掛けたんだ」


「政府が学園機関にテロを仕掛けたんですか?」


 ユカリは驚いてその事を尋ねる。


「うん。内通者の手引きもあったけど事実だよ。天照学園は極秘にオーバーテクノロジーを研究していたんだ。日本政府はそれを奪取し、悪用してデザイアメダルを産み出したんだ。達也君の世界でも同じだったみたい」


「デザイアメダルって昨日の!?」


 そのワードにユカリは反応した。


「そうだよ。アレは僕の世界か、達也君の世界の物かは分からないけど――共通しているのは日本政府が学園から奪い去った技術で産み出したんだ」


「そんな事を政府が・・・・・・」


 ユカリは猛の世界の政府に恐怖を感じた。


「それだけじゃない。そのメダルを近くの自衛隊基地やフロント企業、学園の内通者、カラーギャングブラックスカルを通して無秩序に学園にばら捲き始めたんだ」


「改めて聞くとやってる事はタチの悪い地上げ屋だよな」


 達也が率直な感想を述べる。


「ちょっと待ってください!! あんな物を国家が大量にばら捲いたんですか!?」


 そのメダルに昨日、危うく殺されかけたユカリは悲鳴を挙げて猛へ問い質す。

 達也意外の面々も言葉を失っている。 

 猛は明るい表情を曇らせ、暗い顔で「事実だよ」と返した。


「しかもメダルを使用すると人格が攻撃的になると言うオマケ付きでね。メダルの拡散が最盛期の頃になると小学生がメダルを手にして怪人化し、暴走する事件なんてのもあった」


「何て酷い事を――」


 とても人間のやる事ではない。それを国民を守る筈の政府がやっているのだ。もしも猛の世界に行けたらそいつらを殴り倒してやりたいとユカリは思う。


「しかし政府も誤算があった。それは怪人の汚染に負けないぐらいに大量にヒーローが出現した事だよ。僕も含めてね」


「そんな都合良く出現するのか?」


 デューネはもっともな疑問を投げ掛けるが猛も「僕もそれは不思議に思ったんだけど何時の間にかそうなってたから・・・・・・」と苦笑した。


 次に綾香が「天野君はどう言った理由でヒーローに?」と尋ねる。


「・・・・・・身内がメダル絡みの犯罪に巻き込まれてね。それがキッカケかな」


 一瞬虚を突かれた表情をしたが慌てて作り笑いを浮かべてそう語る。

 この場に居た全員が何かを感じ取ったがあえて追求はせず、話に耳を傾けた。


「そして政府の最大の誤算が――手駒にしていたカラーギャング、ブラックスカルの暴走だね。ブラックスカルは日本の全てを敵に回してテロを起こしたんだ」


「私はあまりカラーギャングには詳しくないんですけど、カラーギャングがそんな事出来るんですか?」


 綾香は皆の気持ちを代弁するかの様に語った。

 ユカリも同じ事を疑問に感じていた。

 猛の返事は「デザイアメダルがそれを可能にした」と語った。

 

「これは後から知った事なんだけど、ブラックスカルのリーダーであるムクロは特注のデザイアメダルに意識を乗っ取られていたんだ。行動が大胆かつ計算高くなり、独自にデザイアメダルを強化する装置を仕入れたり産み出したりする迄になったんだ」


 凄い話だがユカリは聞き逃せない単語を聞いた。


「メダルが意識を乗っ取るんですか?」


 確認するように猛に聞いた。


「正確にはデザイアメダルの強化型の一つがだね。ブラックスカルのクーデターがあそこまで行ったのはそう言う裏があったんだよ――ムクロは――いやムクロに成り代わったメダルはブラックスカルを掌握し、日本を敵に回したスカルメダルは手始めに日本政府が学園島でこれまで行ってきた悪行を様々な証拠付きで暴露した。そしてメダルの怪人を大量に出現させて一斉蜂起し、手始めに学園島を制圧しようとした」


「ちょっと待て。どうして学園島なんだ? 先ずは国会議事堂などの政府の中枢機関を制圧するのが先なんじゃないのか?」


 と、デューネは疑問をぶつける。

 普通は大規模な一学園機関より政府の中枢機関を掌握するのが先の筈だ。

 猛は「自分もまだハッキリと分かってないんだけど――」と前置きし――


「あの時、日本政府は市民が大量に押し掛けてデモ状態だったしね。それにあの当時の日本政府の政治レベルを考えれば正直手を下さなくても良かったんじゃないかな? 自分の国の政府をこう言うのもなんだけど――カラーギャング如きに国家転覆寸前までされた政府だし」


「・・・・・・真相は闇のままか。それにしても情けない政府だな」


 と、デューネは正直な感想を述べる。

 ユカリ達も心中では猛の世界の政府に「情けなさ」を抱いていた。


「話は省力するけどブラックスカルは僕達が壊滅させて、ムクロに成り代わっていたメダルも破壊した。だけどデザイアメダルは想像以上に拡散されていて、裏社会に流通しているんだ。それは達也君の世界でも同じだよ」


 話を引き継ぐように達也が「まあこの世界にどうしてあるのかは不明だけどな」と語った。


「まあ話せる範囲の事は以上かな?」


「ええ。色々と疑問はまだありますが他の方の話もありますので――」


 猛の話が終わり、ユカリはデューネと綾香の二人を見渡す。


「じゃあ次は私が――」


 と水樹 綾香が話を始めた。

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