第2話「事情説明」

 Side 銀条院 ユカリ


 高級住宅街にある広い庭付きのユカリの屋敷に案内されたヒーロー達。

 彼達は状況を理解してくれているのか、とても素直にユカリの屋敷へ来てくれた。


 ユカリは取り合えず変身ヒロイン達を統制、管理するヒロイン協会の信頼を置ける人物に連絡を入れ、家に招いた四人の事情を聞く事にした。

 

 皆、応接室のソファーに座っている。

 四人と一緒に来たバイク型、水上バイク型のマシンもガレージに入れてある。

 メイドの相笠 マリは一応警戒しつつも集まった四人に飲み物を差し出したりしていた。 


 ユカリは大人っぽい紺色の半袖、スカートの端が太股の半ばぐらいのワンピース姿で皆を見渡していた。傷は変身ヒロインの力で塞いでいるがまた戦闘をすればスグに傷が開く状態だ。


(アレだけの激戦の後なのに皆さん疲れていませんわね・・・・・・)


 ユカリは結構鍛えている方であり、正直言うと少々疲れ気味だったがこの場に居る四人の戦士達は皆、疲れている様子は微塵も感じられなかった。こう言う部分でも根本的な実力の差を感じてしまう。


「さて――どっから話をした方がいいのかしら」

 

 と、ユカリは悩んでいると猛は「じゃあ自己紹介から」と元気よく手を挙げた。


「僕は天照学園中等部二年生、ヒーロー部所属のヒーロー、レヴァイザーです」

  

 金髪のまだ幼さが残る可愛らしい童顔の少年、猛は元気よく碧の瞳を輝やかせながら自己紹介した。 

 青い学ラン姿であり、言葉通りまだ中学生なのだろう。

 体格もやや華奢で声の質もあり、女装させたらたぶん見分けはつかなくなるだろう。


「じゃあ次は――華徳高校一年生でゴーサイバーって言う戦隊のヒーロー、サイバーレッドをやっている楠木 達也です」


 続いて茶髪のショートヘアーの楠木 達也がブラウンの瞳を皆に向けて自己紹介をした。

 此方も体格も背も標準的な高校一年生だ。

 猛と同じく学生服姿でこの世界に飛ばされたらしく、黒の学ラン姿だった。


「えーとこう言う場合は――星条学園中学二年生の水樹 綾香です。ナイトチェイサーとしてプラントとして戦っています」


 長い黒髪のポニーテールを赤いリボンで束ねた、大和撫子系の雰囲気を身に纏う白の上着に黒のインナー、ホワイトのスカートと言うカジュアルな格好をした巨乳美少女がグリーンの瞳を皆に向けつつ、丁寧にお辞儀しながら自己紹介する。

 ユカリはともかく猛は「ナイトチェイサーって言うヒーロー知ってる?」と達也に尋ねて、達也は「いや、自分も知らないですね」と言葉を交わしていた。


「・・・・・・デューネ・マリセイド。表向きは光海(こうかい)学園の学生をやってるがそれ以上の事は喋れない」


 何処か素っ気なく、黒の短パンにブルーの上着、白のインナーと言うカジュアルかつラフな出で立ちで左腕の手首に青いデジタル時計を巻きつけている。

青髪ショートヘアでブルーの瞳、アスリート系の体系でナイトチェイサーこよ綾香と同じく胸が大きい少女が自己紹介をするが――


「てことは宇宙刑事とかそう言う役職の人かな?」


 猛は思いついたように自分の想像を語る。


「あ? 天野さんもそう思います? 一応知り合いに宇宙刑事いますし、地球じゃ珍しくはあるけど居ても不思議な存在ではありませんし別に隠さなくても・・・・・・」


 達也も付け足すように言った。

 それが的中していたのはデューネは分かり易いぐらいに目を丸くして口を開けて体を震わせていた。

 綾香は「宇宙刑事って実在してたんですか!?」と驚いていた。


「この世界といい、貴様達といい、どう言う事だ!? どうして宇宙刑事の事を知ってるんだ!? そもそも地球はまだ宇宙に行き来する事すら困難なレベルの文明だろうに!?」


 デューネは怒り交じりに説明する。


「そこまでです」


 銀条院 ユカリはこれ以上の混乱を食い止めるために話を制止した。


「これは私の想像も混じるんですけど――貴方達は恐らく――自分でも馬鹿げている話だとは思いますが、別の世界からこの世界に来たのではありませんか?」


 それを言われた四人達は違った反応を見せた。

 

「つまり平行世界と言う奴か?」


 デューネはフンと鼻で笑いながら言う。


「私そう言う方面の話には疎いんですけど――」


 綾香は戸惑う。


「僕は信じますが――どうしてデザイアメダルがこの世界に?」


 達也は最もな疑問を口にする。


「僕もそれは気になったけど――平行世界か・・・・・・たぶんだけど、それなら色々と納得出来るよ」


 猛も納得したようだ。

 同時にある疑問について答えを得たようだ。


「ああそうそう。楠木君は僕の事呼び捨てでいいよ。年上なんだし」


「じゃあ僕も達也と呼んで構いません・・・・・・僕も今猛くんが何を言いたいか分かった気がします」


「うん。達也の考えてる通り、僕達二人の世界は似て非なる世界なんだと思う」


 猛は代表するように語った。

 綾香は「似て非なる世界?」と首を捻ったが「話は長くなるから後でね?」と猛はユカリに向き直り「とにかくこの世界の事を教えて欲しいな?」と語った。


「分かりましたわ・・・・・・もうそろそろ夜も深くなるので簡単に説明しますが。この世界は天野さんや楠木さんのような男のヒーローはいません。変身ヒロインしかいない筈の世界でして戦う相手も漆黒の怪人と呼ばれる存在ぐらいで――人をあんなに強い怪人に変えるデザイアメダルなんて物は聞いた事がありません」


 変身ヒロイン達が倒れ伏すあの悪夢の様な光景を思い出しながらユカリは語った。


「と言ってもデザイアメダルの怪人ってそんなに強かったかな?」

 

 猛は思い出すように語った。


 確かにデザイアメダルは人間が使用して変身して使うと油断ならない相手になるが日常から怪異相手に戦って経験積んでるであろう変身ヒロインが遅れを取るとは考えが難かった。

 

 達也も「あ? 猛さんのところもそんな感じですか?」と同じ疑問を持ったようだ。


 綾香は「そうですね。弱い部類のプラント怪人ってところでしょうか」と評し、デューネは「ゲドゥの大幹部や幹部にも及ばんな。上級戦闘員クラスか」と自分達の常識に当て嵌めて評価した。


 ユカリは恐る恐るこう言った。


「その――何て言うか、この世界の変身ヒロイン達は皆様が思っている程に強くはないんです。怪人と言う存在と軍隊を持ち出さずに五分以上に戦える存在でしかないと言うのが現実でして――」


 それを聞いて猛は「あー成る程」と合点が行ったようだ。


「つまりこの世界の変身ヒロインは怪人との戦闘経験しか無いんだね?」


「はい。それに怪人は近くに複数体出現するのは希です。出ても最大で二、三体ぐらいが限度でして基本複数人で一体を討伐――人間に戻すのが基本的な怪人討伐の流れです」


「人間に戻す?」


 綾香はその言葉に反応した。


「怪人は基本人間を媒介にして誕生します。そのメカニズムは未だに良く分かっていませんが大体は男性の身に起きやすい現象で女性に起きるのは希です。こうした仕組みのせいで女尊男卑のような風潮が出来ている有様でして――」


 ユカリは何故だか申し訳なさそうに語った。


「ヒーローは女性しかいない。男性のヒーローはおらず、怪人化しやすいから性差別が酷い社会になってると――」


 猛はこれまでの説明を簡潔に纏め、デューネは「あまり他所の世界の事をどうこう言いたくはないが、出来ればあまり関わりたくないな」と本音を語る。


「明日は私は学校を休みます。皆様の事は明日にでも詳しく聞こうと思います。部屋も用意しておきました。マリ、案内してあげて」


 そう言ってユカリはこの場をお開きにした。

 

 

 猛。

 達也。

 綾香。

 デューネ。


 この四人を案内した後、 ユカリとマリは屋敷のバルコニーで二人きりで語り合っていた。


「それにしてもお嬢様、どうしてあの四人を屋敷に招き入れるような真似を?」


「正直言うと――彼達は本物のヒーローだと思って、もっとこう親しくなって、色々知りたくなったから・・・・・・とかじゃダメかしら?」


「あまりにも不用心過ぎる気もします。それにデューネさんは何か印象が悪いと言うか・・・・・・」


「マリの言う事も分かるけど――けど――彼達を信じたいの。それに」


「それに?」


「ううん。なんでもありませんわ」


 そしてユカリは話を打ち切った。

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