後悔とベンチ

昼間の大学のベンチは、まだ少し冷たかった。

作り直したばかりの白い建物とシンナーのにおいに囲まれて、大きくため息を吐く。

まさか、入学初の自己紹介で失敗するなんて……。

後悔が胸をよぎる。

何が悪かったのか、と問われれば、全てが悪かった。

長机を四角に並べた教室で注目を全員の浴びたこと、前の男子が完璧な自己紹介をしてみせたこと、正面に座ったのが中学校時代に好きだった女の子だったこと。

奇跡的とも言えるそれらの事柄が重なって緊張した俺は、盛大にどもった。

その酷さは、隣から失笑が聞こえてくるレベルだった。

元から人前に立つのは苦手だったけれど、あんあ惨状になるなんて。

ゼミ中はずっと気を使われているような気がしていたたまれなかった俺は、終わった途端に教室から飛び出していた。

今頃、彼らは俺なんか気にせずに食堂で話に花を咲かせていることだろう。

いいんだ。一人は慣れてるから。

そんなことを思いながら、生協から買ってきたあんぱんの袋を破る。

その時だった。

━━ねぇ。

どこか聞き覚えのある声が聞こえて、顔を上げる。

━━隣、いい?

口の中に、ほんのり甘い味が広がった。

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朝宵の鳥 夏野レイジ @Ragen

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