1:高校一年<15歳> 出会い
廊下にはずらりと名前が貼り出されている。
高校に入学してすぐに行われた実力テストの結果だ。私が通う高校では学年ごとに上位五十名が発表される。
三位 森内セイラ
自分の名前をすぐに見つけることができた。
一学年三百名程のこの学校で三位ならば決して悪い結果ではない。けれど私は素直に喜べなかった。テストの内容は中学時代のおさらいだった。慎重に解けばすべて満点を取ることも不可能ではなかったはずだ。現にテストを提出した後、単純ミスに気付いた問題もあった。
三位で不満という訳ではないが、もっと上を狙えたと思うと胸の奥から悔しさがにじみ出てくる。
けれどそんな気持ちを口や顔に出したら、周りからはひんしゅくを買ってしまうだろう。同時に三位という結果を自慢しても嫌な奴だと思われてしまう。だからといって粛々と冷静に受け止めても、当たり前だと思っていると受け取られ、冷たい視線を浴びるかもしれない。だから私は、こんなときどんな顔をすればいいのだろうといつも悩む。
例えば誰かが「三位! すごいね」なんて声を掛けてくれたら、軽く笑みを浮かべて「ありがとう。ちょっとがんばったから」くらいの返事をすればいいと思うのだが、残念ながらまだそれほど親しい人はいない。
「結果に満足できないから、次は一位を狙うって顔だな」
突然掛けられた声に私はギョッとした。そんな言葉を掛けられるとは思っていなかったので適切な返しを思い付けない。
私は声の主を見る。
それは明るい茶色の髪の同級生だった。自分で脱色したのかオシャレなのか、染めムラが印象に残る。制服を気崩しいかにも不良少女ですといった風貌で校内を練り歩いているその姿には見覚えがあった。
隣のクラスの生徒だが、二時間目も終わろうという時間に登校する姿や、先生に度々呼び止められている姿を見掛けていたので、塩原ナナという名前くらいは知っていた。
「私は自分の実力は発揮したんだし、満足してるわよ」
ようやく見つけた反論の言葉を小さな声で言う。
「へえ、そう? まあ、どうでもいいけど」
ナナは私の言葉を馬鹿にするようにニヤリと笑って去って行った。
実力テスト上位五十位の名前に興味などなさそうなナナが、どうしてこの場所にいたのか少し不思議に思いながら、貼り出されている他の名前をざっと見渡す。
十五 塩原ナナ
その名前を見たとき、一瞬、カンニングをしたのではないかと疑ったが、すぐにそれを否定した。
カンニングをしてまで好成績を取ろうとするタイプには見えない。それにあの風貌では先生の監視も厳しいはずだ。十五位に入ろうとすれば全科目で高得点を取らなければいけない。それがたやすくないことはちょっと考えれば分かることだ。
そもそもナナのような素行不良の生徒が、それなりにレベルの高いこの高校にどうして入学できたのかをずっと疑問に思っていた。
この結果でナナが入学できた理由が分かった。内申点の悪さもカバーできるくらいに、テストで点数が取れたということなのだろう。
もちろんあの不良スタイルが高校デビューであり、中学時代は真面目な生徒だったという可能性も捨てきれないのだけれど――。
いずれにしても気に入らない存在だ。人目も気にせず自由に好き勝手をして、さらっと好成績をとってみせる。
私にないものを見せつけられているようで腹立たしい。
とはいえクラスも違うナナとは今後顔を合わせることもないだろう。私は記憶からナナを消し去ることにした。
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