後藤くんの爆発

「いやあ、生の下着って、見ると意外にげんなりするもんだな」


 その言葉を最後に、後藤くんは木端微塵になる。たった今、ぼくの目の前で粉々に吹き飛んだわけだけれど、その直前まで彼はぼくと普通に話していたし、爆発する前の予備動作も無くて、ただ単純に彼は爆発することになっていたから内側からはじけて、全身をあちこちに飛散させたらしい。ぼくとしては毎日誰かが爆発四散するこの街で、今更飛び散った奴が一人増えた所でどうでもいいのだけれど、ぼくの方向に潰れかけた目ん玉を飛ばして、隣のクラスの女の子に生レバーを浴びせたのは、あまりいい事ではないと思う。なお、その隣のクラスの女の子は明日、後藤くんの爆発が影響したのか、通学途中のバス停の前で破裂して、その列に並んでいたぼくは二日連続で生暖かい臓物を浴びる羽目になる。あの子、とても愛嬌のあるやさしい子なのに、いやだったのに。でも口に入った血と臓物の味はおいしくなかったから、やさしさとおいしさは結び付かないことが分かりました。

 とにかく後藤くんには飛び散る時間と場所を弁えてほしい、ということを言いたかった。それを天国だか地獄だか、それとも輪廻の輪かは知らないけど、飛び散ると同時に旅立った彼に伝えたかった。伝えたい。伝えられるかもしれない。伝えた。伝わった。


「そうは言われてもな、爆発しちまったんだからしょうがないだろ」


 飛び散って十分後地面に落ちた後藤くんのくちびるがぼくに言う。後藤くん、どう見ても喉も肺も無いんだけど。どうやって喋ってるんだ。ぼくはその疑問を解決すべく爆発三分前の後藤くんに聞いてみることにした。爆発すると分かってたら、どうしましたか、って。


「そりゃ、嫌でしょ。周りに迷惑がかかるし。連鎖爆発でも起こしたら死んでも死にきれない」


 後藤くん、君はいい奴だったんだね。実際は連鎖爆発を引き起こして、ぼくはその後の一か月で計八十一回誰かが木端微塵になる瞬間に対面することになるらしいんだけど。まあ、最大の理由は隣のクラスの女の子が爆発した場所がバス停だったからで、その場にいた有象無象の烏合の衆の学生たちを自分の血でデコレーションしてくれるからだ。でも彼女がサイコロステーキになる原因はやっぱり後藤くん、君がいけない。心優しいぼくはその結果ストレスで体重が減って風邪をひきました。ただ他人の血液の味がどう違うかの比較をするなんて、生きている間に滅多に出来るものじゃない。別に美人だろうが不良だろうが僕だろうが、その味には大差無いんだね。全部吐き気を催す味なのは変わりない。


「おい、そんなことはどうでもいいから俺を助けてくれよ。ちょいちょいっと入れ替えればいいんだからよ」


 確かにそうだ。分かりました分かりました。ぼくは爆発十分後の後藤くんの破片と、爆発三分前に隣のクラスの女の子の下着を見てしまったことを顔を赤らめて話す後藤くんの位置を入れ替えた。それまでずっと自由に飛び散りまわっていた後藤くんの破片は後藤くんという一つの形に巻き戻されて、ぼくと後藤くんは普通に話しながら、その帰路に着く。そして下着の話を如何にも興味なさそうに話す後藤くんに、爆発しなくてよかったね、と言うと、


「はあ? 生下着見た程度で爆発しねえよ、アホらしい」


 と少し顔を赤らめながら、後藤くんは僕に言った。

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