選別作業

 三十九点、不合格。六十七点、合格。四十一点、不合格。五十六点、合格。僕は淡々と正面のレーンから流れてくる新生児を選り分けていく。合格は右のレーンへ。不合格は左のレーンへ。レーンの暗くて見えない先に何があるのか、僕は知らない。計器が測定した数値通りに、レーンの流れへと乗せて行く。数値が五十一以上は右、五十以下なら左。延々とこれを繰り返すだけの単純な作業だ。いつからやっているのか、もう忘れてしまった。

 僕の周りには常に誰もいないけれど、傍に誰かが立っていて、僕の一挙一動を黙って見つめている感覚に囚われる。真っ白で無機質な、レーン以外何もない部屋で、モーターの重低音が同じリズムを刻む中、僕は作業を続ける。ここに流れてくる彼らは、みな同じような顔をしていて、違いが僕にはよく分からない。満点が百で、最低点が一だということは経験として理解したけれど、保育ケースの中の目を閉じた弱々しい姿の新生児達のどこがどう違うのか、僕には分からない。

 そもそも、僕は殆ど他人を見たことがない。この白い部屋とその隣の僕の部屋以外に行ったこともない。流れていく新生児を見ながら、多分僕も彼らと同じような時期があった筈だな、と思った。自分も彼らと同じように肉を持っていて、彼らと同じ形なのだから、製造された方法も同じだ。そう考えるのはとても自然ではないだろうか。

 そんな新生児につけられる点数を眺めながら、なら、僕は何点だったのだろう、と考えてしまう。そんなことを思いながら手を動かしていたせいで、一度八十四点の新生児を左のレーンに流してしまい、室内にけたたましい警報が鳴り響いた。慌てて右のレーンに戻そうとしたが、その新生児は見えないレーンの先に行ってしまった。僕としてはそれが覚えている限り初めてのミスだったのだけれど、誰かが咎める訳でもなく、次の新生児が流れてきただけだった。

 結局、僕のそんな日常は一つのミスでは壊れなかったのだけれど、その終わりも唐突にやってきた。その日流れてきた新生児を見て、僕の作業する手が止まる。

 その新生児には、点数が無かった。測定不能、という四文字が計器上に表示されていた。どうすればいいのだろう、と途方に暮れる。目の前の保育器の中の新生児が、それまでの他の新生児とどう違うのかは、やはり分からなかった。

 けれど、その新生児が来た時、レーンの流れが静止して、この部屋の中の音がピタリとやんだ。その直後に、僕の首筋に何か針が刺さったような気がした。とっさに手で首をさすろうとしたけれど、首に触れる手そのものがなくなっていた。上を向くと、真っ白な天井の一角から、一台のカメラと無機質な真っ白な腕が降りて来ていて、小さな針を持っていた。そうか、この腕の仕業か。全身がさらさらと宙に溶け出して、大気の一部分に返還されていく。不思議と、くすぐったい。そして、僕は自分の点数が何だったのか、目の前の新生児を見てああ、と納得した。なんだ、そんなことだったのか。はぁ、と小さくため息をつきたかったけれど、その時には息を吐く口も無くなっていた。

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