第15話 残念女子、意外な一面を知る

 そして、放課後。

 日課の図書委員の業務を終えた私が校門―――から少し離れた曲がり角を見ると、そこには約束通りカナタ君がいた。

 ただしカナタ君だけでなく、何故かそこには真理子ちゃんと―――ヒナタ君もいる。

 え、何この「集団デート」状態。というより、イケメンと美人が三人で立っているだけでめちゃくちゃ目立つんですけど。

「……」

 私が三人に駆け寄り、何から聞いたら良いのやらと思っていると、


「おかえりー、結愛ちゃん」

 早速ヒナタ君がひらひらと手を振りながら私に微笑む。


「あ……うん。えーと……」

「昨日の件があったから、結愛ちゃんを迎えに行った方がいいかなって話してたら、カナタが今日行くっていうから。一人より二人の方が安心でしょ?だから来ちゃった」

 褒めて褒めて! と、相変わらず犬のように無邪気な顔をするヒナタ君に「ありがとう」とお礼を言っていると、


「校門を見ていたら、偶然二人の姿を見つけたの。どうしたのかなって思って二人に聞いてたら、結愛ちゃんを待ってるっていうから。部活に行くのは少し遅くすることにして、私も一緒に待ってたのよ」

 私たち、クラスメートだもんね。真理子ちゃんがそんなことを言って、さりげなくカナタ君の腕を取りながら笑う。


 ―――よく言うよ、朝から笑顔で牽制してきたくせに。

 

 恐らく彼女の場合は、女の勘が働いたんだろう。うわ、女子って怖いなあと自分を棚に上げて私はこっそりと肩を竦める。

 でも、どうするんだろう。このまま真理子ちゃんも一緒に買い物をして、うちに?

 そんなことをすれば、同棲の事がばれちゃうんじゃ―――そんなことを思っていると、


「それじゃあ三人そろったからソロソロ。真理子、お前も早く帰れよ」

 ヒナタ君が笑顔のまま真理子ちゃんからさりげなくカナタ君を取り返し、私の肩もさりげなーく抱きながらそんなことを言う。

 当然真理子ちゃんは「ちょっとヒナタ!」とむっとした表情をするも、


「しょうがないだろ。俺達は、結愛ちゃんの家の用事でこの後出かける予定があるんだから。邪魔者はさっさと帰れ。それにお前、これから部活だろ」

「べ、別に部活は……な、なによ! 私がいると邪魔だとでもいうの」

「うん、邪魔」

 ヒナタ君はそんなことをお構いなしに私たちを連れてさっさと歩き出す。

 真理子ちゃんは「ヒナタの馬鹿ー!」としばらく叫んでいたけど、諦めたのか機嫌悪そうに学校の中へと戻っていってしまった。

 何とも雑な扱い―――というより、これが出来るヒナタ君はすごい。部活はない、何て言ってたけど本当はあるのだろう。

 それにしても真理子ちゃん、そんなにカナタ君と一緒が良かったのなら、いっそ同じ野添高校に行けばよかったのに―――と思ったけれど、野添高校は男子校。そこは真理子ちゃんも涙を呑むしかなかったのかもしれない。


「……ねえ、ヒナタ君。大丈夫? 真理子ちゃん、物凄く怒ってたみたいだけど……」

 ―――そんな真理子ちゃんが居なくなり、そして学校からしばらく歩いた場所でちょうど交差点の信号待ちになったので、私は彼に尋ねる。すると、


「あー、平気平気。あいつ、いつもああだから」

「そ、そうなの?」

「外面いいけど、我が強いから。結愛ちゃんも何か言われたら大人しく言う事聞いてちゃだめだよ。あいつ、中学の時は『空手部の裏ボス』って呼ばれてたマネージャーだったんだぜ」

「えっ……」

「カナタもだいぶ尻に敷かれてたしな。な?」

「……」


 カナタ君はそれには答えなかったけど、何とも言えない表情をしている。恐らく、口には出さないけど否定はしていないのだろう。


「おまけに俺ら何て幼馴染だから、まー、雑な扱いで」

「え? でも……」

「ん?」

「あ、ううん、何でも……」


 ―――でも、少なくてもカナタ君に対しては、女の子らしい一面を存分に発揮していると思うけど。

 勿論それは口にはできなかったけど、「参考にしておくね」と私は笑顔で言いつつ、


「それより、早く買い物をして帰ろう。お店、いくつか回らないといけないし」

「ああ、そうだね。カナタ、今日の夕食は?」

「今日は筑前煮と炊き込みご飯」

 カナタ君がそう答えたところで、信号が青になる。


「……カナタ君、そういうメニューはどこで覚えるの?」

「独学」

「……」

 どこをどうやったら、年頃の男の子が独学で筑前煮を覚えるんだろう。

 ヒナタ君の、あの「おばあちゃんの知恵袋」的な掃除テクニックもそうだたけれど、古賀家は一体どういう環境だったのかな。

 小さい頃から色々やってると、自主的にそういう情報収集もするようになるのだろうか。

 我が小笠原家とは大きな違いだなあ……。ああ、でもこういうところが私の女の子としてダメなところなんだろうな。

 せめて家事ぐらい完璧にできていれば、残念女子は返上できていたかもしれないのに。



「結愛ちゃん? どうしたの、行くよ」

「あ、うん」


 少しだけ自己嫌悪に陥りつつも、私は二人と共に再び歩き出した。

 そんな私は、


「小笠原さん……」

 ―――誰かがそんなことを呟きながら、横断歩道を渡る私の姿を物陰からじっと見つめているのに全く気が付いていなかった。

 そして、


『君を傷つける人間は許さない。許さない―――』


 今日も中を読まずにカバンに入れたラブレターの内容が、近々不気味な事件を巻き起こすことなど想像もしないまま――。

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