第11話 残念女子、危機一髪
「ん?」
あれ、今何か音がした? ―――脱衣所で服を脱ぎ浴室に入ろうとした私だったけれど、窓の外で何か音がしたような気がして、ふとそちらへ目をやる。
窓の外は、一応は垣根。でもそれと窓の間には人一人が入れるくらいの隙間はある。入ろうと思えば入れなくはないけれど―――でも、まだ夕方だし人通りだってある。それに残念女子の風呂を覗いて一体何が楽しいのか。
いやむしろ、「覗かれてる?」と思うこと自体が自意識過剰極まりないのかも。
きっと気のせいね。私は深く気にせずそのまま浴室に入り、お湯で身体を流した後湯船に入るも、
―――カタン
再び、今度は脱衣所ではなく浴室の窓の外で何か音がした気がして、思わず身体を腕でかばう様に隠す。
「……」
音も一緒に、浴室に移動している? まさか、本当に覗き―――私が浴室の窓をじっと見つめていると、その窓枠に指がかかり、そーっと―――窓を開けようとしているのを確認した。
間違いない、誰かが、お風呂の中を覗こうとしている。
「きゃー!!!!」
私は声を上げるとの当時に、浴室に置いてあった洗面器を窓に目いっぱい投げつける。
ガコン! と音を立てて洗面器が窓に当たった。それに驚いたのか、指をかけていた人物はパッと窓から離れたようだ。直後にガサササ! と音がしたので、そこから走り去ったのだろう。
「おい、どうした!」
とそれとほぼ同時に、浴室のドアが勢いよく開く。そしてビニール袋片手のイケメンが私に声をかけるも、
「ぎゃあああ!」
「うわっ!」
今度は無防備な裸を見られた! と私が叫び声と同時に入口に適当にその辺に置いてあったものを投げる。
ビニール袋を持った、ということは買い物から帰ってきたカナタ君だと思うけれど、カナタ君は辛うじて私が投げたものを避けたようだったけれど、それはガゴン!と音を立てて脱衣所の床に落ちる。
「と、とりあえず閉めて!」
「わ、わかった! ……け、けど今の叫び声はどうした。玄関まで聞こえてきたぞ?」
叫び声を心配して浴室に来たものの、よくよく考えれば残念女子は入浴中。状況を理解したカナタ君が慌ててドアを閉めながら私に尋ねる。
「だ、誰かがお風呂を覗いてて……」
私は扉が閉まったのを確認したのち、持ち込んでいたフェイルタオルを身体に充てつつ、ドアの向こう側へと声をかけた。
するとそのタイミングで
「何か今、結愛ちゃんの声が聞こえたんだけど……どうした?」
頭に三角巾を巻き、掃除に精を出していたらしいヒナタ君も浴室へとやってきた。そしてカナタ君から状況を聞いている。
「ヒナタ、まさかお前じゃねえよな?」
「まさか! それに俺だったら正面から正々堂々、裸で風呂に入ってくって!」
「……」
うん、何ていう説得力のある否定。確かに、ヒナタ君だったらこそこそ外から風呂を覗いたりはしないだろう。
カナタ君は、覗きを追い払ってすぐにここに飛び込んできたから時間的にも犯人にはなりえないし、ということは―――やはりこれは外部の人間の仕業。
お父さんが留守にすることをどこかから聞きつけてやってきたのか、それとも偶然通りかかって覗いてみる気になったのか。
いずれにせよ、正体不明のどこぞの野郎の犯行には違いなかった。
「……」
私は二人にリビングに行ってもらい、浴室から出て着替える。
そして、
「……とりあえず、風呂場の外に外から入れる道は塞いでおこう。あとは、風呂に入っている最中は必ず窓に鍵をかける。これを徹底して」
「う、うん……」
「それにしても、とんでもない野郎だよねー……今度やってきたら、とっちめてやろうぜ」
真剣に覗き対策を考えるカナタ君と、一応は心配してくれてるんだけどどこか明るいヒナタ君と、今後の相談をした。
とりあえず、外部からの敷地内への侵入者をブロックすることで安全性は上がるだろうし、入浴中は鍵をかけることでほぼ完全に覗きは防ぐことは出来るだろう。
でも―――今回の覗きが通りがかりでたまたま、の人だったら、今回のこれで懲りて解決になるかもしれないけれど、もしもこれが、お父さんが居ない事を知っていての行為だったら?
お風呂がだめなら寝室に、なんてこと、ないよね?
「……」
私がそんなことを考えて黙り込んでいると、
「結愛ちゃん、顔色が悪いけど……大丈夫?」
「え? あ、うん、平気……」
「怖い思いしたんだもんね、当然か」
私の様子に気が付いたヒナタ君がそう言って、私の頭を大きな手のひらで優しく撫でた。
イケメンは、女の子の異変にもマメに気付いて優しい。もう、どこまで完璧か。これで「女の子みんなに優しい」じゃなければ本当に文句ないんだけど、と私は思うも当然それは口にせず、
「こういうこともあったし、戸締りには気を付けるようにするわ」
「そうだね。 不安なら一緒の部屋で寝……」
「大丈夫」
「あはは、手厳しいなあ」
ヒナタ君はそう言って笑っていた。私はそんな二人に「心配かけてごめん」と礼を言う。
「……とりあえず少し落ち着いたし、飯にでもするか。支度するから、二人とも手伝って」
「うん」
―――その後、私たちは少し遅い夕食を取り、その日はそのまま何事もなく時間は過ぎた。
けれど―――私は、気が付かなかったのだ。
寝る前、私はいつものように例の貰ったラブレターを見もしないで焼却処分にしたわけなんだけれど、そこにこんなことが書いてあったのを。
そして―――しっかりと戸締りされた小笠原家を、少し離れたところからじっと見つめる黒い影の存在を。
*
今日も君を見ていたよ。でも―――妙なことを耳にしたんだ。
君が、誰かと同棲しているって。まさか、本当じゃないよね?
君の事は信じているけれど、気になるから―――僕は君の家に見に行くことにしたよ。
これが間違いだったらいいんだけれど、もしも本当だったら―――僕が何とかしてあげる。
君は、そんなふしだらな女じゃないって、僕は良く知っているから。
だから、誤解を与えかねないそんな同棲なんて、僕が「壊して」あげる。
ねえ、忘れないで小笠原 結愛さん。
君を守ることが出来るのは、僕だけだってことを。
君に危害を加える奴、君を傷つける奴は、僕が許さない。
許さない―――
*
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