第10話 残念女子、己の女子力値を思い知る

「お帰り、結愛ちゃーん! 会いたかったよー!」

「ぎゃー!」


 それから、三十分後。

 足取り重く帰宅し、リビング入った瞬間―――そう言ってイケメンが私に抱きついてきた。このハイテンション。どう考えてもこっちはイケメンその二のヒナタ君だろう。


 うわあ、イケメンに抱きつかれるなんて! と思いはするんだけれど、それとは裏腹に、私は咄嗟に身体を翻しヒナタ君の腕を取りねじりあげる。

 残念女子は、悲しいことに身体にしみこむ防御本能がとにかく強いのだ。


「いててて!」

「あ! やだ、ごめん、つい……」

「いや、しかしさっすが結愛ちゃんだね。普通の子なら、俺に抱きつかれたら真っ赤になって黙っちゃうのに」


 私が腕を離すと、ヒナタ君がそう言ってにやっと笑う。

「普通の子なら」というのが、私的にはかなりパンチが効た。

 どうせ、普通じゃないですよ―――私がむっとした表情をすると、


「それより結愛ちゃん、今日の夕飯ハンバーグだって。さっきカナタから連絡があって、帰り買い物してくるって」

「え? あー……」


 不意にカナタ君の名前を聞いて、私は思わず詰まってしまった。

 カナタ君は今、完璧女子の真理子ちゃんとデート中では? 二人で一緒に買い物してくれるのかな、私達に食べさせる為のご飯の。

 まさか、ここに来て一緒に食べるなんてないよね? 

 ―――だめよ! 同棲中は、家主以外の異性を部屋に連れ込むべからず!私がそんなことを思っていると、


「あれ? ハンバーグ嫌い?」

「う、ううん! 好きよ、大好き! いつかはハンバーグの海に溺れてみたいくらい好き」

「えーと、それはかなり好きってことだよね。実は俺も! カナタのハンバーグは、テンション上がるんだよなあ」

 ヒナタ君はそう言って、ニコニコとしている。


 ―――昨日から思っていたけれど、ヒナタ君とカナタ君はとっても仲がいい。根本的に真面目な感じのカナタ君と、明るくて一見軽く見えるんだけど、実はちゃんとしているヒナタ君。

 こんな風に、カナタ君の作る料理が大好きでニコニコしているところなんて、ヒナタ君ファンの女の子が見たらたまらないんだろうな。


「ねえ、そういえば。ヒナタ君とカナタ君て、どっちがお兄さんなの? 双子でも、そういうのあるんだよね?」

「あるよ。実は、俺がお兄さんなのでした! びっくりした!? ねえ、びっくりした!?」

「いや別に」

 犬か、と思いつつも、ヒナタ君は犬タイプでカナタ君がきっと猫タイプなんだろうなと思うと、双子って同じ顔をしているのに何だか面白いと思ってしまう。

と、


「つれないなー。あ、それより結愛ちゃん、お風呂沸かしておいたから、良かったらごはん前に先に入んなよ」

 そんな私に、思い出したかのようにヒナタ君がそう言った。


「え? そ、そんなことしてくれなくてもいいいのに!」

「カナタは食事当番、だったら俺は掃除当番ってこと。お世話になってるんだしね、気にしないでよ」

 ヒナタ君はそう言って、「あ、そうだ。俺、掃除の途中だったんだ!」とかなんとか言いながら、戸棚から掃除用具を出して廊下を磨いている。

 しかも「おばあちゃんの知恵袋」か何かに出てきそうな、裏技テクニックを使い、床の汚れを丁寧に落としている。


「……」

 我が家に居るイケメン二人は、何故こんなに女子力が高いのか。

 いや、私が大雑把なだけなのか―――でも、普通こんなに完璧に、普段から掃除しないでしょ、と若干自分に言い訳しつつ、男子でさえもこの女子力。やっぱり私は救いようのない残念女子なのかとショックを受けつつ、

「私が先に入っていいの?」

「当然! レディーファーストってやつ。それにここは、結愛ちゃんの家なんだから当然でしょ」

「分かった。じゃあ、先に入らせてもらうね」

  私は掃除のお礼をヒナタ君に言うと、部屋で着替えてから風呂場に下りた。そして鼻歌を歌いながら脱衣所で洋服を脱ぎ始めるも―――




 ―――カタン



 脱衣所にある窓の外に迫りくる黒い影の存在に、私はまだ、この時は気づいていなかった。

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