第6話 残念女子と眠れない夜
その日の深夜。
異常な疲労感に見舞われていたにも関わらず、中々眠れずにベッドの中でモゾモゾと何度も寝返りをうっていた。
眠りたいのに、何となく精神が昂っていて眠れない。そんなところだろうか。
―――今日は本当に色々あった。
一緒に海外に行けると思っていたのに、お父さんは私を置いてさっさと出発してしまうし。
家に帰ってきたら、「ボディーガードを頼まれた」と見知らぬイケメン双子が待ち構えているし。
しかもその片方には、何故だかよくわからないけど不機嫌になられているし。
恋愛に疎遠の残念女子が、いきなり超恋愛環境に放り込まれた感じなんだろうか。
でもそこは残念女子。しょっぱなから正体がばれていて恋愛対象には見られないっぽい。
自分の事は分かっていたつもりだったけど、改めて思い知るとそれはそれでやっぱり落ち込む。
そういうのもあって、いろんな方面で私の気持ちは疲れ果てているのかもしれない。
自宅って、普通は安らぎの場所になるはずだよね。それなのに、これから少なくても二か月はそれどころじゃなくなりそうだわ。
「はあ……」
私を取り巻く環境が今日をもって百八十度変わったしまったけれど、それでも明日はいつも通り学校があるし、私の生活は続いていく。
「三日もすれば、少しは慣れるかなあ……」
私はそんなことをベッドの中で呟きながら、再びモゾモゾと寝返りをうつ。
と、その時。
カタン―――
部屋の外―――いや正確には、一階で何かが動く音が聞こえた。
私の部屋や、ヒナタ君達に使ってもらう部屋は全て二階。一階はリビングや水回り何かがあるだけだ。唯一、お父さんの書斎が一階の一番端に位置しているものの、主が居ないわけだし窓だって閉まっているわけだから、そこで何かが動くことはあり得ない。
となると、気のせいか。もしくは外の風かなんかが、窓ガラスに草木を当てたのだろう。
私は勝手にそう決め込んで再びベッドの中で寝返りをった。
ところがその直後、ガタガタ! と今度は先ほどよりも大きな音がした。しかも、その直後に何かガラスのようなものがガチャガチャと動く音もする。
「―――!」
これは絶対、気のせいでもないし風のせいでもない。「誰か」が一階で何かをしている音だ。
「お父さんがいなくなった途端に泥棒!?」
私は部屋の時計へと目をやった。時刻は、深夜零時を回ったくらい。当然、善意の来客とは思えない。
これは、ヒナタ君達も起こすべきだろうか―――でも、深夜零時に事情が事情だからと言って、今日出会ったばかりの男の子達の部屋を訪れて寝ているのを起こすのは気が引ける。
だったら―――まずは自分で確かめてみるしかない。
そう、私は元・格闘女子。日本の女学生、最強の柔道女子だったんだもの。
泥棒の一人や二人……って、複数いたら最悪だけど、モンスターでもない限り、負けるわけがない!
「……縛りあげて、警察に突き出してやるんだから!」
私は自分にそんな暗示をかけながら、足音を立てないように静かに部屋を出た。
そして階段を下り、依然としてガチャガチャと音がする方向を探して進んでいく。
音は、リビング傍のキッチンから聞こえていた。泥棒が、何か食べるもので探しているのだろうか。
泥棒のくせに、何て厚かましいの!? もう、絶対に許せない。
私は廊下からキッチンへと続く扉の前で、一度大きく深呼吸をした。
そして一気に扉をあけ放ち電気をつけると、、
「……観念しなさい! うちに入ったのが運の尽きよ、このっ……」
泥棒野郎! ―――私はそう叫びながら戦闘態勢に入ろうとした。ところが、
「ん?」
「え?」
電気がついて、キッチンの様子が明らかになった途端、私は拍子抜けする。
だってそこには―――シンクで何故か米を研いでいたイケメンがいたからだ。
イケメンはパジャマ姿でシンクの前に立ち、腕まくりをして米を研いでいる最中だったようだ。
シンク傍には、収納に入っていたボールと菜箸。しかもその中には、何かの食材が入れられている。
この状況を総合的に判断すると、もしや―――「明日の朝食の下ごしらえ中」?
―――
「ええと……」
―――なぜ、彼がキッチンでそんなことを。
それよりも、そもそもこれはどっちだろう。ヒナタ君? カナタ君?
え、何? 何、この状況。
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