第5話 残念女子とラブレター
「え? あ、うん……これなんだけど」
カナタ君の方が反応したのは意外だったけど、興味を持てくれるのなら別にそれはどうでもいい。
私は自宅焼却用にと持って帰ってきたラブレターを、カバンから出して彼らに見せる。
カナタ君はそれを手に取りじっと見つめるも、何故か眉間にしわを寄せている。
え、一体何だろう。イケメンが眉間にしわを寄せて表情を歪めていると、何だかそれだけでこちらは焦るんだけど。
それにこの表情、何?
「は? LINEやメールがあるこの時代に、ラブレターとかありえんし」とか思っているんだろうか。
それとも「残念女子のくせに、男を勝手にストーカー扱いすんなよ、生意気な」とか思っていたりするのか。
そりゃ生意気かもしれないけど、でも考えれば考えるほど怖いんだもの。
腕が立っても、何でも。腐っても「女子」だから、そこは考慮してもらえるとありがたいんだけどなあ。私がそんなことを思っていると、
「今日届いた手紙は、これだけ?」
「え? うん、そうだけど……ていうか、これ以外、私のところには届いたことはないけど……?」
「……」
カナタ君は私の答えを聞き、更に眉間に皺を寄せてしまう。
え、私何か変なこと言った……? でも、下駄箱に入っていたのはいつものようにこの「午後四時二十三分のラブレター」だけなんだけど。
「……」
黙り込むカナタ君と、その様子を伺いながらやはり黙り込んでしまう、私。
するとそれを見かねたヒタナ君が、「はい、二人ともそこまで!」と割って入ってきた。
そして例のラブレターをカナタ君から取り上げると、
「事情は分かったよ、結愛ちゃん。何か妙なことが起こったらすぐに相談して」
「あ、ありがとう……えっと」
「ヒタナでいいよ」
「ありがとう、ヒナタ君」
「それにしても、気持ち悪い奴もいるんだねえ……一年もラブレターを書き続ける労力があるなら、声かけてみればいいのにね」
そう言って、手紙を私に返しつつぼやいている。
それは、ごもっともな意見だ。私もそう思う。
「何なら、明日から学校への送り迎えしてあげようか?」
「そ、そこまでまだしなくても大丈夫よ!」
「そう? それは残念」
そういって笑うヒナタ君は、どこまでが本気でどこまでが冗談か全くわからない。
一つだけ言えるのは、頼りになるうんぬんはともかくとして、彼が本当に女慣れしているのは確かみたい。
「……ヒナタ君、この家に他の女の子を連れ込むのは禁止だからね」
「当然だよ。結愛ちゃんが俺の部屋に来てくれればそれで十分」
「もう、そうじゃなくて!」
「あはは、わかってるって」
私とヒナタ君は、すっかりラブレターの事はそっちのけで、そんな会話を交わしていた。
でもその横でカナタ君は、やっぱり何か考え込んでいるようで。それが私は何だか妙に気になった。
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