第4話 残念女子、噂は千里を走る

「じゃあ、改めて自己紹介するね。俺は古賀ヒナタ。こっちはカナタ。結愛ちゃんと同じ高校二年で、野添高校に通ってる」


 パニックになった私が少し落ち着くのを待って、私たちは改めて話をするべくリビングのソファで向かい合っていた。

 とはいえ、ヒナタ君はちゃんと私の目を見て話をしてくれるんだけど、カナタ君は何故か、ずっと横を向いている。その上、何か私に対して怒っているんじゃないかと思えるような、そんな不躾な表情に見えた。


 え、私何かした?


 いやむしろ、何かされているのは私の方だと思うんだけど―――私がそんなことを思っていると、ヒナタ君が先に自分たちの事を話し始めてくれた。

 二人とも、顔は端正で且つ甘いマスクをしている。髪だって少し茶色がかっててサラサラだし、改めて見ると背だって高そうだ。

 勿論双子だから端正な顔×二倍でみている分にはいいんだけど、性格については全然違うみたい。

 似ているけれど、異なる者。何だか不思議に思いつつも、私はヒナタ君の話を聞く。


「最初に言った通り、俺の両親と結愛ちゃんのお父さんはビジネスパートナーで、今回一緒に海外に行くことになったんだけど……二か月間も結愛ちゃんを一人にしていくことはお父さんも心配だったんだろうね、だから俺達に結愛ちゃんのボディーガードを頼んで、海外に」

「ちょ、ちょっと待って! 事情は分かったけど、その……」

「ん? どうしたの、結愛ちゃん」

「どうしたの、って、だってボディガードは分かるけど、私もその、年頃なわけだし、いきなり一緒に住むとか言われても準備もあるし……」

 私はヒナタ君へそう伝えてつと、黙り込む。


 そう。少し落ち着いたので事情はそれなりに理解したのだけど―――だからといって、今回の状況を「はい、わかりましたOKです!」とすぐに了承するわけにも行かなかった。

 親同士は知り合いでも、私と彼らは今日初めて会ったわけで。その上、ボディガードとは言え一緒に住むってことは「同棲」。

 恋愛経験ゼロの残念女子が、いきなりイケメン双子と同棲って、ハードル高過ぎじゃありません!?

 それに、万が一。万が一何か起こるかもしれないし。ほら、私って自分で言うのもなんだけど外見はそれなりなわけだし。

 私がそんなことを思っていると、


「……残念女子」

「え?」

「知ってるから」


 それまで同様横を向いて表情は変えないものの、黙っていたカナタ君が急にそう呟いた。


「なっ……」

 何故、それを!


 二人は野添高校―――うちの高校とは別の、同じ市内にある進学校に通っているはずなのに、何故私のその不名誉な称号を!?

 私が驚いた表情を見せると、


「まあ、結愛ちゃんはそれだけ有名ってことかな」

「の、野添高校にまで私のアレが!? あの噂が!?」

 うわ、もうホントに立ち直れない。残念女子に加え、もう最悪女子の称号も今ゲットしたということね。


「そっか……」

 つまり、そういう残念女子とは一緒に住んだところで妙なことにならないから大丈夫。カナタ君はそう言いたいわけね。

 私はがっくりと肩を落とす。するとそんな私に、


「残念女子はともかく、大丈夫。俺は女の子には困ってないし、それにカナタにも好きな子がいるから、結愛ちゃんが心配するようなことは起こらないと思うよ? 結愛ちゃんが望まない限りは」

 慰めているのか、気を使ったのか。ヒナタ君はそう言ってにっこりと笑う。


「俺さ、特定の彼女は作らない主義なんだよね。でも結愛ちゃんが立候補してくれれば、俺はいつでもいいよ。残念女子でも、女の子は女子だしね!」

「ふーん……」

「はは、全然関心なさそう」

「……」

「ま、そういう事だから。俺達、小さい時から自分の事は自分でやってきていたから、炊事洗濯も得意だし。この家の勝手さえ教えてくれれば、好きにやるから」

「わかった……」

「俺もカナタも、中学時代は剣道と空手をやってたんだよ。今は二人ともしていないけど、身体は覚えているってね……そういうところは結愛ちゃんと一緒でしょ」

「う、うん……」

「というわけで、二か月間よろしくね。ほら、カナタ」


 ヒタナ君はそう言って、カナタ君の背中をバン、と叩く。カナタ君は一瞬だけ私を見るも、少し頭を下げるだけで再び横を向いてしまった。


「ごめんね、結愛ちゃん。コイツ元々愛想が悪いんだけど、今日はなんだか機嫌が悪いんだよ。なんかさ、例の好きな子に予定すっぽかされ……」

「ヒナタ!」

「はいはい。ということで結愛ちゃん、悪い奴じゃないから、許してやって」


 ヒナタ君はそう言って、またニコリと微笑む。


 ―――どうせ同棲と言ったって、それこそビジネスライク。二人とも私が「残念女子」とわかっているわけだし、それにヒタナ君はともかくカナタ君は好きな人もいるわけだから、私が心配するような「万が一の事」は起こりえない、か。


「……」

 ―――それはそれで悲しいけど、でも今は安心するべきか。


「わかった……そういうことなら」

 まだすべてを納得したわけじゃないけど、でも双方の親が決めたことだから仕方がない。

 たとえここで「やっぱり嫌!」と追い返したとしても、後々怒られるのは私なわけだし。二人だって、仕方がなくこうしてやってきてくれたわけだから、お互いが譲り合うしかない。

 それに、


「……ボディーガードって言ったけど」

「ん?」

「……ストーカーも、撃退してくれるの?」

「ストーカー?」

「……」


 私はふと、例の「午後四時二十三分のラブレター」のことを思いだして呟く。

 ―――例の、平日は毎日届くラブレター。もちろん、直接何かをされたわけではないけれど、正直最近は気持ち悪いと思っている。

 もしも同棲している二か月の間に何かあったら、その時は助けてくれるのかな……そう思った私は、思い切って二人にその話をした。

 すると、


「……その手紙、今日も?」

それまで私と話をしていたヒナタ君ではなく、そっぽを向いていたカナタ君の方が何故か反応をしてきた。

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