第3話 残念女子、想像力だけは豊か
「え、あ、わ、ち……」
お父さんが待っているはずのリビングには、見知らぬ双子のイケメン二人。しかも私の名前を何故か知っている。
ちなみに私、『え、あの、私の父は』とイケメン達にそう尋ねたいけれど、もう上手く言葉もしゃべれない状態だ。
でも、この状況で冷静になれというのが無理なわけで。
一体この人たち、どうやってうちの中に入ってきたの? そうよ、鍵! 鍵はどうやって手に入れたのよ!
しかもなんで、私の名前を知っているの?
だいたい、お父さんはどこに―――は、まさか!
イケメン二人を見てしばらくは固まっていた私だったけど、急に不吉なことが頭をよぎる。
「……あなた達! 私の父をどうしたの!? まさか父を監禁して、その上私を……!」
これって、よく漫画とかに出てくるあれ?
『借金のカタに、オタクのお嬢さんを好きにさせてもらうぜ。小笠原さんよお』
『オタクのお嬢さん、随分と可愛らしいじゃねえか、ゲヘヘヘヘ』
―――いわゆる、借金が返せないので娘を差し出したってパターン!?
そんな、お父さん! そんなに仕事が大変なら一言相談してくれれば!
わざわざ海外に仕事で行く、なんて嘘つかなくても大丈夫だよ! 私、高校なんて通わないで働くよ!
ああ、小笠原 結愛 十七歳。ただでさえ「残念女子」なのに、こんな行く末は悲しすぎる。
私は最低最悪のシチュエーションを頭の中で描きながら、うっすらと涙ぐむ。
―――でもね、お父さん。いくら差し出されたからと言って、こんなゲスい奴らに私の身体は自由にさせないんだから!
元・日本最強の格闘女子の誇りにかけて、相討ち、いや絶対にこんなやつら叩きのめして警察に突き出してやる!
だからお父さん、安心して帰ってきて! お父さんは私が守るわ!
「……あなた達、やれるもんならやってみなさい! その代り、命の保証はしないわよ!」
頭の中では、恋愛ドラマ真っ青の悲劇のヒロインになりきっている私。
浮かべていた涙を制服のそででぎゅっと拭うと、手に持っていたカバンを床に投げ捨てて柔道の試合さながらの構えをした。
「さあ来ーい!」
そして、襲い掛かてきた瞬間に投げ飛ばしてやる! と言わんばかりの勢いでそう叫んだ。
ところが―――
「くっ……くく……」
そんな私の姿をチラ見していた、ソファに座ってテレビを見ていた一人が何故か笑い出した。
しかも大声で笑うわけじゃなく、必死に声を出して笑いだすのを耐えているというか、肩を微妙に振るわせて俯きながら笑っているのが余計に腹が立つ。
「なっ……何よ! 余裕だとでもいうわけ!? さあ、かかってきなさいよ!」
でも、その姿が更に私の闘志に火をつけたというか。私が更に叫ぶと、
「はい、ストップね。結愛ちゃん、想像力が逞しすぎだから」
今度は最初に私に声をかけてきた愛想の良さそうなイケメンが、そう言って私を手で制す。そして、
「俺達、別に結愛ちゃんのお父さんをどうこうしたわけでもないし、勿論結愛ちゃんに何かするわけでもないから」
「え?」
「俺達は、結愛ちゃんのお父さんに頼まれてここに来たんだよ。あ、俺は古賀 日向(こが ひなた)。そっちは彼向(かなた)。見ればわかると思うけど、俺たちは双子だよ」
そう言って、まずは自己紹介をする。その上で、
「俺達の両親と結愛ちゃんのお父さんはビジネスパートナーでね。今回、一緒に二か月くらい海外に仕事で行くことになったんだ」
「えっ……あなた達のご両親と? ちょ、ちょっと待って、それじゃあ私は……」
「俺達も結愛ちゃんも、日本で留守番てわけ。でもさ、俺達はともかく、結愛ちゃん一人じゃ流石に物騒でしょ? だから、親達が不在の二か月間、ここに俺とカナタの二人が結愛ちゃんのボディーガードとして住み込むってことになったんだ」
「はあ!?」
「結愛ちゃんのお父さん、そのことを今日話そうとしていたみたいだったんだけど、仕事でトラブルがあって、予定より早く海外に行くことになったんだって」
ということで、二か月間ヨロシクね。愛想のいいイケメン、ことヒナタ君がそう言って私ににっこりと微笑みかけた。
お父さんは私を置いて既に海外に行った?
しかもその不在の二か月間、見ず知らずのイケメン二人と一緒に住めって―――
―――何よそれ!
「何よそれ! 冗談じゃないわよ!」
漫画やドラマじゃあるまいし、そんなことが突然起こったって困るわよ!
だいたい、イケメン二人とどうやって生活するのよ! 今まで彼氏だっていたことないし、ろくに男の子と話だってする機会もなかったのに―――!
「大丈夫、すぐに慣れるって」
戸惑う私をよそに、余裕のある笑みを浮かべているヒナタ君と。そして、
「……」
さっきは私の姿に笑いをこらえていたものの、すっかりと表情を改めてニコリともしないままテレビから視線を戻さない不愛想なカナタ君と。
そんな対照的な二人の姿に戸惑いつつ、私は完全に頭を抱えてしまったのだった。
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