第2話 残念女子、未知との遭遇

 午後七時五十五分。約束の五分前に、私は家に着いた。

 中にはきっと、もうお父さんがいるはず。その証拠に、外の門から見えるリビングの窓から、カーテン越しに明かりが漏れていた。


 海外って、どこだろう。ヨーロッパかな。それともアメリカかな。

 せめて、英語が母国語のところがいいなあ。それなら何とか言葉も通じるだろうし。

 いつ出発だろう。荷物はどれくらい持っていけるかなあ―――


「ただいまー……あれ、お父さん、やけに靴、出してるな」


 ドアを開けて中に入ると、玄関には父親のものと思われる男性用の革靴が二足、玄関に並べられていた。

 海外に持っていくためにシュークロゼットから出したのか。あまり深く考えずに、私は玄関で靴を脱いでお父さんの靴の横に並べる。

 

 私の頭の中も、今は海外へ行く準備ことでいっぱいだった。

 人生って、本当に何があるかわからない。

 今の高校に入って以来、恋愛事からは遠ざかっているし、最悪なことも続いていた。そんな状況を一気に変えられる出来事が急に起こるなんて、何だか物語の中の出来事みたい。

 脱いだ靴を揃えて置きながら、私はそんなことを思う。

 そう。トラウマのある恋愛はともかくとして、実は私にはもう一つ、厄介な問題が起きていた。

 それは―――なんと私、恋人は出来ないのに、誰かに、匿名で、しかも一方的に思いを寄せられているということ。



 例の「告白男子投げ飛ばし事件」のせいで、すっかり恋愛から遠ざかっている私。もちろん彼氏もいないし、それ以降告白されることも無くなった。

 そんな私に、一年前のある日からラブレターが届けられるようになった。


 学校がある日は毎日毎日、放課後、下駄箱の中に入っている。一回、どんな人が手紙を入れているのか下駄箱を見張っていたこともあったけれど、そういう日に限って、別の場所―――例えば教室の机の中とかに手紙が入っている。

 しかも届けられていると思われる時間は、「午後四時二十三分」。これは、友達と二人で時間を測ったのでほぼ間違いないだろう。

 そんな、あの手この手でその時間に届けられるラブレターは、一見情熱的な内容なんだけど―――よくよく考えると、話しかけもしてこないでじっと毎日見ているということで、最近では恐怖に思うようになっていた。

 とはいえ、直接その人に何かをされたわけでもないし、そういう状況だと誰に相談することもできない。

 とりあえず毎日届けられるラブレターを、学校で捨てるのはいつ、誰に見られているかわからないから家に帰って焼却処分。

 今日も焼却用にカバンに入れて持って帰ってきている。


「海外に行けば、こんな煩わしいことはきっとなくなるよね」


 ああ、もう本当にどうして私はこんなに恋愛に縁がないんだろう。

 でも、それもこれもあと少しの辛抱! だって私はお父さんと一緒に海外で新しい生活を!


「ただいま。お父さん? 帰ってきたよ」

 私はそんなことを思いながら、明かりのついているリビングのドアを開けた。ところが―――



「お帰り、結愛ちゃん」



 リビングで私を待ち構えていたのは、お父さんではなく―――私と同じ年頃の、見ず知らずの青年二人だった。

 よく見ると二人ともかなりのイケメンではあるけれど、不思議なことに顔がそっくり!―――って、恐らく双子なのだろう。


 いや、別にそこは今、どうでもいい。


 見知らぬイケメンの双子が、何故か主であるお父さんが居ないのにも関わらず、うちのリビングにいる。

 しかも勝手にお茶を飲んでいる上、一人はソファで座りながら勝手にテレビを見ているし、もう一人は何故か、私の名前を呼んで手を振っている。


 お父さんは、リビングにやってくる気配もないし、一体どういう事?

 あれ、そう言えばさっき、玄関に男性用の靴が二足並べてあったっけ。

 てっきりお父さんが海外に持っていくように出したのだと思っていたけれど、もしかしてあの靴、この人たちの!?

 じゃあ、お父さんは―――!? 私のお父さんは、どこに行ってしまったの!?



「……」



 約束の時間に家に帰ったら、呼び出した父の代わりに見知らぬ青年が二人。

 ええと、これは警察を呼んでいいレベルのお話ですか?

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