第2話 その七 4

 *



 これが、僕らの知ってる汚い子事件の全容だ。


 世間的には、ツヤコさんは行方不明ってことになった。


 シズクちゃんの新しいお父さんは逮捕された。

 なぜなら、シズクちゃんのほんとのお父さん、本多さんは生命保険の受取人を、シズクちゃんにしていたからだ。


 ツヤコさんと新しいお父さんは、シズクちゃんの持つ遺産を横取りするために、シズクちゃんと養子縁組した。そして、本多さんと同じ方法で、シズクちゃんを殺す計画を立てていた。


 猛の調査でそれがわかったんで、逮捕となったわけだ。


 シズクちゃんは高校を卒業するまで、養護施設で暮らすようだ。が、表情は明るくなっていた。


 カケルくんも自分の手で復讐をとげることはできなかったが、満足したようだ。


「アスカはおまえを犯罪者にしたくなかったんだと思う。だから、代わりに……」


 落ちついたころに、一度だけ、僕と猛はカケルくんに会った。猛の言葉を、カケルくんは黙って聞いていた。


「アスカのぶんも生きろよ」


 またもや、場所はマクドナルドだ。

 コーラを飲みながら、カケルくんはホロリと涙をこぼした。


「アスカはずっと、おれに憑いてたんだろ? 今は? アスカは……?」


「成仏したそうだよ」と、ハルカさんからの伝言を伝える。


「おまえも、もう自由になれば?」

 そう言って、猛は立ちあがる。


 たぶん、僕らが去ったあと、カケルくんは長いこと泣いてたんだろうな。

 でも、きっと、生きていけるよ。

 カケルくんには困ったときに助けてくれる仲間がいるんだしさ。一人じゃない。


 ちなみに、彼らがメグちゃんたちにしてたことは、訴える人がいないんで不問だ。向こうも自分たちがイジメて友達を死なせたって負いめがある。


 そのあと、僕らは羽鳥さんから依頼料をもらって、うちに帰った。

 どてらを着た蘭さんが、ミャーコを抱いて待っている。


「おかえりなさい。ねえねえ、北野天満宮の梅、見に行ったそうですね? ズルイですよ。僕も行きたい」


 あっ、この前、ハルカさんと行ったときか……。


「ええと……ごめん」

「まあ、僕は桜でもいいんですけどねぇ。今年のお花見はどこでしよっか?」


 蘭さんの汚い子ブームは去った。

 次は桜か。めまぐるしいな。

 まあ、こうして僕らの毎日はすぎていくんだ。


 汚い子のウワサは、その後、二度と聞かない。




 第2話『汚い子』了

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