第2話 その六 3
*
ふたたび、マクドナルド。
サエちゃんはまだ店内にいた。僕らを見て、よってくる。
僕と猛は、山盛りのバーガーとストロベリーシェイクの載ったトレーを綾橋さんと糸田さんの前に置く。
「あたしらはカケルがお金くれるって言うから手伝っただけ。カケルの言うとおりにしただけだよ」
「そうそう。アスカのふりして、茶渋で汚した服着て、アスカをイジメたヤツらを追いまわした。けど、それだけだよ」
僕はつい口をはさんだ。
「でも、そのせいで病気になったりケガした人がいるんだよ?」
「そんなの、向こうが勝手に怖がったんやん。自分がしたこと、今度は自分がやられたんよ。ほんで死ぬほど怖がって病気になるとか、自業自得やんか」
まあ、そうだけどね。
「復讐は復讐しか生まないよ。君たちだって、このことで、今度は自分が復讐される立場になるかもしれないんだよ? 危ないとか思わなかったの?」
二人はチーズバーガーをむさぼりながら、うなずく。
「もう、やめるよ。最初はおもしろかったけど、飽きてきた」
「うん。捕まりたくないしね。それでなくても、あたしらはハンデ背負って生きてるんやから」
児童養護施設にお世話になる子たちだ。苦労をかさねているのだろう。妙に大人びた口調に、僕は胸が痛んだ。
お金をもらえるからとか、飽きたとか、捕まりたくないとか、計算高いことを言ってるようだが、内心は仲間意識や、復讐への良心の呵責などがあるんだろうな。
でも、それを白状するのはクールじゃないと思ってる。
そんな印象だ。
ポテトに手を出しながら、猛が口をひらく。
まだ食うのか、こいつは。
僕は、もういいよ……。
「じゃあさ。報酬を出すって言えば、黒崎くんの今後の計画について教えてくれるかな?」
二人はまたまた顔を見あわせる。
次に出てきた言葉は、「いくらくれる?」だった。
「千円」
「アホちゃう?」
「二千円」
「なんで千円単位なん? 万は?」
「三千円。これ以上は出せないよ。零細企業だからね」
「しゃーないなぁ」
猛め。勝手なことを。この山盛りのバーガーが、いくらかかったと思ってるんだ。経費だ……絶対、経費で落とすぞ。
しかし、おかげで、そのあとの二人の口はなめらかだった。口にリップのかわりに潤滑油でもぬったんじゃないかってほど。
「カケルはねぇ。もう一人、やる気なんよねぇ」
「ねぇ」
僕はあわてた。
「メグちゃんは反省してるよ! だから、ゆるしてあげて!」
綾橋さんと糸田さんは、ちろちろとおたがいの目を見る。
「カケルは最初から、イジメの連中を殺す気はなかったんよ」と、綾橋さんが言う。
綾橋さんはポニーテールの子だ。
猛の目が光った。
「それは、別の人物は殺すつもりだってことだよね?」
片手に三千円をにぎって、照り焼きチキンバーガーにかぶりつく糸田さんは、何度もうなずいた。
「アイツだけはゆるせないって、ずっと言ってたもんね。カケルは、やるよ」
「そのためにアイツに近づいて、恋人のふりしてるんだもんね」と、綾橋さんも言う。
黒崎くんが恋人のふりして……そういえば、この前、すごい若作りの女の人と腕くんで歩いてたよなぁ。お母さんかと思ったけど……。
猛はもう考えていたようだ。
「アスカの継母だろ?」
アスカちゃんをちょくせつ死に追いやった人物か。
そうだよね。一番、強く恨まれるのは、この人だ。
それにしても、恋人のふりって……憎い相手に、いずれ殺すつもりで、とりいってるってことか?
すごい執念だ……。
「にしても、完全に未成年者に対する淫行だよね。犯罪だ」
思わず、僕はぼやく。
猛はドライに言い放つ。
「ままっ子を平気で真冬の寒空に放りだして、死なせてしまうような女だよ。モラルなんか、あるわけないだろ」
しかし、ゆがめた口元のあたりに、
「そんな女のために未成年を殺人犯にするわけにはいかない。絶対に、止めないとな」
そう言って、猛は立ちあがった。
背中がカッコイイよ。兄ちゃん。
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