第2話 その三 3

 *



 しばらくして、チャイムが鳴った。授業が終わったのだ。

 体育館から生徒たちが、わらわらとかけだしてくる。元気だなぁ。エネルギーが、ありあまってる。十さいの年の差を痛感する。


 猛を見て、女の子たちはまたキャアキャア叫んだ。

 猛は営業スマイルを浮かべて手招きする。


「君たちのなかに、バスケ部の子いるかな?」


 女の子たちは、はにかみながら首をふる。

「榎本さんがそうだよ」

「榎本さんね。どの子?」


 みんなにひっぱられて、背の高いボーイッシュな女の子がつれられてきた。


「……なんですか?」

「羽鳥さんがずっと休んでるだろ? 芦部さんや工藤さんも。クラブのなかで何かあったのか、知りたいんだ」


 榎本さんは考えこんでいる。


「わたしは先輩たちのこと、よく知らんのやけど……」

「けど、なんかあるの?」

「あるっていうか、羽鳥先輩たちは、みんな小学が同じやったかな。それで仲いいんやって聞きました」


「なるほど。小学校がね」

 猛はひとりごとのようにつぶやく。

 少し考えてから、

「ところで、バスケ部は楽しい?」


 へっ? 関係あるの?


 榎本さんはニッコリ笑った。


「楽しいです! 先輩たちもみんな優しいし、気があうし」

「羽鳥さんや芦部さんや工藤さんも?」

「羽鳥先輩はすごく優しいですよ。芦部先輩はたよれる主将って感じで、工藤先輩はムードメーカー」


 猛は納得したようだ。

「ありがとう」


「あの! 着替えないといけないんで、これで——」


 走っていこうとする榎本さんを、猛は呼びとめた。

「待って。雫って子は、バスケ部じゃないのかな? 名字は知らないんだが」


 榎本さんはふりむきながら首をかしげる。

「……バスケ部やないですね」


 すると、まわりの女の子たちが言った。

 そう。最初に声かけた子たちだ。ずっと、そばにひっついている。もちろん、猛がイケメンだから。


芹沢せりざわさんやと思います。一年A組みの」


 うん。たしか、サエちゃんも同じクラスの子と言ってた。つまり一年生だよね。


 もう一人の行方不明の女の子か。

 まったく、同じ学校で何人も……どうなってるんだ?


「そうか。ありがとう」


 猛が笑って手をふると、女の子たちは走りさっていった。次の授業までに着替えないといけないもんね。ごめんね。ひきとめて。


 今度こそ、僕らは学校の敷地を出る。と言っても、もう放課後までに、四、五十分しかない。

 中途半端だなぁ。


「なんで、雫ちゃんのこと聞いたの? 関係あるの?」

「あるかもしれないし、ないかもしれない」


 またぁ、猛は秘密主義。


 僕らが学校近くの喫茶店に入ると、ハデな若作りの女の人が、窓辺のテーブルにいた。三十代後半くらいなんだろうな。なんか、似合わない若作りって、痛々しい……。


 猛がコーヒー、僕がバナナジュースを飲みおわるころ、その女の人は出ていった。ずっと窓の外を見てたから、誰かが通りかかるのを待っていたんだろう。


 なにげなく外を見て、僕はビックリした。


「あれッ? あの生徒、昨日のプチストーカー?」


 見まちがいか?

 昨日、病院ですれちがって、僕らのあとをつけてきた高校生みたいな気がするんだけど。


 でも、うしろ姿だったんで自信がない。制服着てると、みんな似て見えるし。


 猛がふりかえったときには、もうブレザー姿は見えなくなっていた。


「昨日も見かけたってことは、家がこの近所なんだろ」と、猛は言いながら席を立つ。


 僕もバナナジュースの最後のひとくちをすすり、立ちあがる。


 あの少年のお母さんだったのかな?

 じゃないと腕くんで歩かないよね。


「兄ちゃん。バナナジュースって、経費になると思う?」

「たぶん、ならないよな」

「だよね……」


 しょうがないんで、領収書はもらわずに学校にとってかえす。


 いよいよ、事件解決だー!

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