第1話 その八 3

 *



 二時間後。


「ほんとに、ありがとうございました。おかげで助かりました」


 出立の用意をした僕と猛に、深々と頭をさげて、友貴人さんが言った。


 陣内家の門前で、僕らは見送られている。

 友貴人さん。菜代さん。それに、ハルカさんだ。


 ハルカさんは、もう少し、ここに残るそうだ。

 あーあ、幸せそうだな。

 聞けば、昨日、僕が夢のなかでお孝さんに追いまわされてるとき、ハルカさんは友貴人さんを見つけて、語らっていたらしい。


「子どものころから、ずっと夢で会ってたから、初対面の気がしなくて。運命の人だなって、ひとめでわかりました」


 なんて言ってくれる。

 二人とも、同じことをだ。

 いいもんねぇ。次の人、見つけるもんねぇ……ううっ。


 手をふって別れる。

 しかし、僕らの手には、成功報酬十万と出張費二万、三日ぶんの人件費六万が残った。

 心は寒いが、ふところはあったかい!


「猛。十津川温泉に寄ってかない?」

「いいよ。肉、食おう」

「うーん、熊肉とか、イノシシかな?」

「ジビエか。いいな」


 ちょっと遠まわりだが、まあ、いいだろう。

 たまには魂の洗濯もしなくちゃ。


 僕の心は、すっかり秘境の温泉へと飛んでいた。





 第一話『蛇女のキス』 了

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