その三
第2話 その三 1
さて、電話を終えて、猛が居間に帰ってきた。手にはポラロイドカメラを持っている。
おっ、いよいよ、やる気か。
「猛、撮るの?」
「撮るよ。命の危険があるんなら、手段なんか選んじゃいられないからな」
僕と蘭さんは、ワクワクして猛を見つめる。
猛がコタツに入ると、迷惑そうに、ミャーコがはいだしてきて、蘭さんのひざの上に乗る。静電気くらわない場所に逃げたな。
さて、いよいよ、猛はポラロイドカメラを手に持って、目をとじた。
パシャリ。
呪文をわめきたてるでもなく、ハンドパワーを送るでもなく、写真はかんたんに、ペッと吐きだされてくる。
なるほど。これが、羽鳥芽来——メグちゃんか。
中学生くらいの女の子が、ひざをかかえて、どこかの室内にすわりこんでいる。
室内は薄暗い。
よくは見えないが、フローリングの床に一部、じゅうたんが敷かれている。壁には百均のシールがペタペタ貼られている。ええと、流行りのDIYってやつかな?
「とりあえず、元気そうだね」
表情は暗いが、とくにケガもしてないようだし、縛られてもいない。だからって、つれさりじゃないとは言いきれないが、この写真だけでは判断が難しい。
猛は写真をながめて考えた。
「ふんいきが、女の子の部屋っぽくないか?」
たしかにね。これで電気ついてれば、今日のサエちゃんの部屋みたいに可愛い室内なんだと思う。
「じゃあ、やっぱり、友達の部屋かな?」
「その可能性は高い」
だが、蘭さんが感嘆の声を発する。
「ああァっ、さすがは猛さん。ステキな心霊写真を撮ってくれますね」
蘭さん。「ああァっ」とか、声ひっくりかえして言わないでくれる? 色気がダダモレだよ?
「どこも心霊写真じゃないよ? 念写じたいが心霊写真って言えなくもないけど」
蘭さんはミャーコの手(前足)をつかんで、ぷにぷにの肉球で写真をトントンと叩いた。
「ここ、変なもの写ってる」
目をこらすと——なるほど!
部屋のすみに泥だらけの手みたいなものがある。
メグちゃんに向かって、そっと忍びよる魔の手……。
猛が弁明する。
「うーん。おれのは被写体の思考が写りこむことがあるからな。心霊写真っていうより、この子の考えてることかもしれない」
猛の念写には、被写体の持つイメージが映像化されたものや、思考が文字で焼きつけられたりする。
だから、この写真の場合は、メグちゃんがちょうど、こういうイメージについて考えていたってことになる……はずだ。
これだけ見たら、画面の外にオバケがいるみたいだが、そんなことあるわけがないんだ!——と、僕は自分に言いきかせる。
蘭さんはあきらめがつかないようだ。
「そう? 残念。汚い子が家のなかまでついてきちゃったって、ネットにアップしたい出来なんですが」
「その汚い子ってなんだ?」
たずねる猛に、蘭さんが詳しく説明しだしたので、僕は夕食の下ごしらえをするために居間から出ていった。
今日はなんにしようかな?
昼間ステーキだったから、夜は蘭さんの好きな魚にしよう。鯖の味噌煮かな。あとは手軽に野菜炒めでもつけといて。
誰もいないキッチン。
なんか、変な話題ばっかりしてたせいか、妙にビクついてしまうなぁ。
——と、そのとき、僕の右足が、とつぜん、ブルブルふるえた。僕は「ぎゃっ」と悲鳴をあげる。
れ、霊障か?
汚い子の呪いか?
公園でさわぎすぎたからか!
ゴメン、助けてー。悪気はなかったんだよー!
頭のなかで、けんめいに謝る。
ふるえはやんだ。
ほっとして、無意識にポケットに手を入れる。スマホが入っていた。
「…………」
見ると、ライン電話が入っていたようだ。マナーモードにしてたの、忘れてた……。
僕は誰も見てないのをいいことに、一人で恐怖におののいたり、恥ずかしさのあまり部屋中をグルグル歩きまわったりで忙しい。
ラインは、サエちゃんからだ。
さっそく返信する。
ごめん。料理してて出られなかった。さっきの電話、なんだったの?
電話にすると、まだ恥ずかしいんで、文面だ。
即行で返信が来た。
用があるの、そっちだよね?
うん。羽鳥芽来さんが行方不明なんだよ。行きさきに心あたりないかな?
あるよo(^_^)o
えっ? あるの?Σ(・□・;)
たぶん、吉野先輩のとこ。あそこ、親が海外勤務だし、泊まりほうだい(゚∀゚)
ありがとー(≧∇≦)!
なんと、お手柄な僕。
これで事件は一件落着かな?
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