その四

第1話 その四 1



 ギャアアーッと悲鳴がひびきわたり、僕は目をさました。


 なんだ? 今の悲鳴?

 オバケかっ? オバケが来るのかっ?


 ガラリとフスマがあいた。


「ギャアアー! 助けてぇー! 猛ぅー」


 すると、フスマに手をかけたまま、オバケが言いはなった。


「……かーくん。夢のなかでのことは、自分でなんとかしてくれ。兄ちゃん、どうもしてやれないよ」


 ん? 兄ちゃん?

 顔をあげてよく見ると、パジャマ姿の猛が寝ぼけた顔で見おろしている。


 はて?


 僕はあたりを見まわした。

 むっ。まぎれもない僕の部屋。アイドルのポスターをベタベタ貼った六畳間だ。


「あっ、そうか。夢だった」


 じゃあ、何か?

 さっきの悲鳴は僕か? 僕の悲鳴か?


「かーくん。怖い夢見て、とびおきてくるなんて……いくつになっても可愛いな。兄ちゃんがいっしょに寝てやろうか?」


 いっしょに寝てもらうべきかどうか、しばらく本気で悩んだ。しかし、夢のなかまでは猛も助けにきてくれないとわかったので、


「いや。いいよ。一人で寝る」

「そうか? 小学生のころは、兄ちゃんのフトンにもぐりこんできたじゃないか?」

「二十年前だろ? バカにすんなよなぁ」

「……じゃあ、今度は静かに寝てくれな?」

「今、何時?」


 猛は僕の目ざまし時計を指さす。

 午前四時か。深夜だな。近所から文句言われなきゃいいけど。夜中にさわがないでくださいとかなんとか。

 自分の悲鳴で目がさめるとか、ヤバすぎる。


 それにしても、変な夢だった。

 なんで、僕が友貴人さんになって、オバケと目があう夢なんか見なきゃいけないんだ?


「もういいか? かーくん。兄ちゃん、寝るからな?」

「うん。おやすみ」


 蘭さんは明日が(もう今日か)締め切りだから、たぶん、今もヘッドホンしたまま執筆中と思われる。


 三村くんは熟睡中か? ある意味、スゴイな。鉄の神経。


 僕はおとなしく、フトンにもぐりこんだ。

 猛がアクビしながら出ていく。


 まだ心臓がドキドキしてる。怖い夢だった。

 そういえば、昨日、陣内さんちに泊まったときも、途中で目がさめて、よく寝れなかったんだっけ。


 なんか変な音がしてたんだよなぁ。

 妙な気配って言うか……。


 そんなことを考えているうちに、いつのまにか眠っていた。よくわからない夢をたくさん見た気がする。


 朝方、少し気になる夢を見た。

 古い石段をのぼっていく友貴人さんの夢だ。


 あれ? これって、昼間のことじゃないか?

 神社で友貴人さんを見かけたときのことだよね?


「おーい、友貴人さーん? どこ行くんですか? そっちはダメですよぉ。おうちに帰らなきゃ、お母さんが心配してますよ?」


 僕が声をかけると、友貴人さんは悲しげな目をして首をふった。


「行きたくないんだ。でも、行かなきゃ……」

「どうして?」

「呼ばれてる……」


 そう言って、ふらふらと石段をあがる。


「友貴人さーん。待ってくださいよぉー!」


 追いかけるのに、どんどん引き離されていく。

 ふうっと景色が遠くなって、僕は目をさました。


 一晩に二回も友貴人さんの夢を見るなんて、なんなんだ? じつは僕、友貴人さんを好きだとか?

 はっはっはっ。そんなわけあるかぁーい——って、朝から一人でノリツッコミ。僕って平和だなぁ。


 しかし、その平和な気分は、一時間後にぶちこわされることとなる。


 おっちゃんと市内の病院の前で待ちあわせ、ハルカさんの病室をおとずれたとき——


 あやうく、僕は悲鳴をあげるところだ。


 な、なんでだぁーッ?

 いったい、どうなってるんだ?


 白いパイプベッドに半身を起こしてる人物。

 たしかに綾瀬はるか似の美人だけどさぁ。


 ソックリなんだけど?

 昨日、夢で見た、あの女の幽霊に……。

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