百二十八話 魔道具制作教室?
全員に魔鉄が行き渡った事を確認して、レイジは壁際にあったモニターボードを引っ張ってきた。
ヒスイがサポートで押してくれたので、魔力付与ついでに頭をなでておく。
「さて最初に、アクセサリーを作るためだけになぜ魔道ペンを作ったのか、から説明していくか」
モニターボードに魔石を填めて、モニターボードを起動させた。
真っ黒だったモニターボードが、一瞬で真っ白に染まった。モニターボードの脇から専用のタッチペンを取り出して、簡単に説明を始めた。
「さて、最近の傾向で魔鉄を加工している時に、簡単に色づけできることが分かった。例えばこれ、ネックレスのチェーン部分なんだけど、こんな感じに魔術文字で色を書き込むと染色ができる」
よくネックレスとかに、お店でテープを巻いてそこに値段を書いてある状態の値札タグがあると思う。あれと同じ要領でテープの代わりに、薄く延ばした魔鉄をネックレスに巻き付けてそこに『Gold』と描き込んだ。
テープを起点にして、鉄色だったネックレスが金色に染まっていった。
「は? 何なんやよそれ、わやくちゃやん!」
「待てよ篤紫、さすがそんなん見たことも聞いたこともないぞ?」
瑠美が叫び、ルルガも目を見開いた。
当然ながら咲良と紅羽は絶句しているし、マリエルなんてぽかーんと大口開けていて、美人が台無しになっていた。
「えっと……言ってなかったっけ?」
「いや知らねえし、そもそもそのネックレスって硬化済みなんだろう? 魔鉄を安定化させた後で色彩変更できるなんて、誰が思いつくかよ」
「じゃあ、これからはできるって認識で」
「だああああぁぁっ、ちくしょうまた篤紫に出し抜かれたよ!」
ルルガが立ち上がって、本気で地団駄を踏んでいる。いやだって、やってみたらできたんだから仕方ないじゃないか。
巻き付けてあった魔鉄テープを外して、金色に染まったネックレスを作業台の真ん中に置いた。うん、確かに金に見えるね。
「あの、篤紫さん? それって、魔鉄が金に変わったのですの?」
「色が変わっただけで、魔鉄のままだよ。イメージとしては、メッキ加工に近いかな。ただ、素材自体が変色しているからメッキと違って剥がれることはないよ。
そもそも金と魔鉄は重さが倍以上違うから、間違えようがないし」
「いやどう見ても金でしょう……いや金じゃないなんて無理よ。見た目全く金じゃない、どうしてルルガに同じことができないのよ」
あ、マリエルが素に戻った。
立ち上がって、隣にいるルルガの肩を持って激しく揺すっている。
「ちょっ、まっ、マリエル。落ち着け、そもそもオレじゃ、無理だって――」
「鍛冶と魔術はおんなじだって、この間豪語していたじゃない。何で無理なのよ、おかしいじゃない。篤紫師匠が凄いのは知っているけれど、ルルガだって一緒に物作りしているじゃないの」
うん、まずったかな。金じゃなくて赤とか青とか、普通の色にすればよかった。
いやそもそもマリエル魔術も使えるよね? 確かミスリルの魔道ペンは持っていたはずだし、基本の部分は知っているだろうよ。
「えーっと、話を続けてもいいかな?」
「お願いしますの。早く作りたいですの」
「わかった。まず成形の段階でイメージしながら魔力を込めると、かなり細かい成形ができるんだけど……」
篤紫は魔鉄の塊から一塊千切ると、それを作業台の上で細く伸ばした。左右を練り合わせて、輪っかにする。
今の状態だと、鉄色のリングにすぎないのだけれど、実はここからが本番だったりする。
イメージするのは喜平タイプの少し複雑な造形。
魔力を流しつつ、チェーンの編み込みをイメージすると、あっという間に綺麗なネックレスができあがった。当然留め金も付いていて、普段使いやすくなっている。
「ちょちょっ、ちょっ、ちょっと待ってください。今の何なのですか?」
「いや、普通に魔力成形しただけだよ?」
「ええっ、なんで、はあっ? 意味分かんないんですけど、魔法みたいなんですけどっ。どうなっているんですかあぁぁ」
「咲良さん、やめて、くださいの。頭が、揺れます、の――」
今度は咲良が、隣にいた紅羽の肩を揺すり始めた。
うん、カオスだ。未だにルルガもマリエルに肩をつかまれてシェイク状態だし、どうしてこうなった?
「いやな、篤紫さんが規格外やとおもうんや……」
「いやいや、こんなの誰にでもできるでしょうに――」
「「「「「無理だよ」」」」」
「うわっと」
そして全員に突っ込まれた。
まあ、そのおかげでカオスなシェイクタイムが終わったからいいのだけれど。
全員が落ち着いたところで、再び説明を再開した。
モニターボードに、魔術文字――いわゆる英語でいろいろな色を書き込んでいく。
さっきの『Gold』だったり『Silver』だったり、あるいは『Pink gold』なんかの中間的な色まで、一通り思いつく色をモニターボードに書き込んだ。
「さてここからが、さっき作った魔道ペンの最初の役割になるよ。
魔道ペンに魔力を込めた状態で、側面を軽くこのネックレスに打ち付ける」
篤紫が作ったばかりの灼銀魔道ペンを持って、ネックレスにそっと打ち付けた。
リィンという綺麗な音色が響き渡る。
「これで柔らかかった魔鉄が、硬い魔鉄に変質するんだ。鍛冶の場合だと、ここで魔力を込めた鍛冶鎚で叩くはずだよ。はい、紅羽さん、これを引っ張ってみてくれるかな?」
「あ、ちゃんと硬いチェーンになっていますの」
ネックレスチェーンとして、ちゃんと機能していることを確認してもらって、作業台の上に戻してもらった。
「あとは、この柔らかい魔鉄を延ばして、今作ったネックレスに巻き付ける。それから、この魔道ペンに魔力を込めたままタグに色を書き込めば……完成かな。
実際にはここに、さらに魔術を書き込んでいろいろな効果をつけるんだけど、みんなが気軽にできるのはここまでだと思う」
篤紫がタグに書き込んだのは『White Gold』。
あっという間にチェーンが白金色に変色していった。
説明が終わったと同時に、みんな思い思いに魔鉄をちぎり取って、自分の思い描くアクセサリーを作り始めた。
鍛冶で慣れているはずのルルガやマリエル、ミュシュまでも一緒になって作業している様子を見て、何だかほっこりした気持ちになった。
そうだよな、考えてみれば都市の外に出ると大抵の場所に魔獣がいて、普段はオシャレなんてしている暇がない。
当然こういった装飾品は高級品だったりするわけで、同じお金を出すのなら自分の身を守る鎧だったり武器だったり、そういった物が優先的に買われる。だからあまり目にする機会がない。
「あれ、桃華は作らないのか?」
桃華がみんなが作業している様子をニコニコしながら見ているだけだったので、思わず篤紫は声をかけていた。
みんなの手元を見ていた桃華は、篤紫の側まで来るとさっき作った白金色のネックレス手にとって篤紫に手渡した。
「私の分は篤紫さんが作ってくれるから、私は見ているだけでいいのよ。篤紫さんが作ってくれたこのネックレス、二重に巻けばブレスレットにもなるわ。
でも、せっかく灼銀で魔道ペンを作ってくれたから、これだけもらっておくわね」
そう言って手に持っていた灼銀魔道ペンを、壁際に置いてあったキャリーバッグに大切にしまっていた。
桃華はいつも通りだった。
さて、みんなの成形と色つけが終わった時点で、残りの作業はさすがに篤紫にしかできないので、作ったものを作業台に乗せてもらった。
ここからが肝心の、血液中の酸素濃度を安定化させることと、ついでに体の表面を空気の膜で覆う魔術を書き込むことにする。
あと、寝ている間は魔力の供給が途絶えるから、安全も考慮して二十時間分の魔力を蓄えておけるようにした。
Maintains normal oxygen levels in the blood.
Cover the body surface with a film of air.
Magical power is supplied by the user and stored for 20 hours.
眼鏡の魔道具をマクロズームモードにして、まず瑠美が作ったアンクレットから手をつけた。
ブレスレットだと思ったら、足首につけるアンクレットらしい。首や手首だと動くのに邪魔になるのだとか。瑠美らしい。
留め金の部分にちょうどいい平面があったので、そこに書き込んだ。
「……なあ、ペン先が全く動かへんのだけれど何しとるんや?」
灼銀ペンが思いの外マクロ描きしやすいことに感動していると、瑠美が何をしているのか気になったらしく声をかけてきた。
ピリオドを打って魔術を確定させた後、モニターボードに描き込んだ魔術を書き出すと、みんな揃って絶句していた。
何だか今日は、こんなのばっかりだな。
全員のアクセサリーに魔術を描き込んで、篤紫が魔法を、生活魔法以外使えない話になると、日本組三人に再び『何故何故』の質問攻めに遭うことになった。
だってさ、未だに使えないんだぞ。
何で使えないのかなんて、知るわけがないじゃないか。使えないんだもん。
きっと魔法が暴走するから、ストッパーでもかかっているんじゃね? って言ったら、腑に落ちたようでみんな解散していった。桃華すらも。
いやみんな、地味にひどくね?
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