考えるな、感じろ。おっぱいを。③

 眠らされた四人が目を覚ますと、そこはどこかの広い廃墟の中でした。

 石造りの天井は崩れ、壁には穴が開き、入り口には扉がついていません。


 四人は、捕らえた魔族作者の趣味なのでしょうか、ひらひらの服で露出したおっぱいの上下に縄が通され、腕が固定されています。そのせいでおっぱいがいつもの二割増しに強調されています。両足首も縛られ、床に転がされていました。


 各々を捕らえた魔族がルークの姿のまま、四人から離れた場所で車座になって酒を飲み、盛り上がっていました。動きを封じて転がしてある安心感からか、誰一人として四人に注意を払っていません。

 その中の一人の傍らには、勇者が宿に置いていった聖剣がありました。


(ちょ、ちょっと! なんでみんなも捕まってんの!?)


 仲間が自分と同じく捕まっていることに驚くポインは、おっぱいを床に擦り付けるように身をくねらせて這いずり仲間に身を寄せると、声を潜めて言いました。

 

(しょーがねーじゃん!? 勇者の姿に化けられたらさー!?)


 騙されて捕まってしまったのを不覚に思っているのか、フワワが口を尖らせて、同じく声を潜めて言いました。


(ルーク様の御姿に騙されたのは、わたくしだけではなかったのですね……)


 仲間がいてひとりぼっちではないことに安堵したのか、静かに息を吐いたプルルが、ならって声を潜めて言いました。


(それよりも先輩方、この状況はまずいですよ)


 ルーク(偽)へと視線を向け、険しい表情をしているモチチが、やっぱり声を潜めて言いました。


(見てください、ルーク先輩の聖剣が魔族の手に渡ってます)

(も、申し訳ございません……わたくしのせいですわ……留守を任されたはずですのに……)

(いやいやいや! 騙されたんだからしょーがねーじゃん!)

(そうよ! 今はそれよりも、この状況をなんとかしなきゃ!)


 現状を打破しようと、顔とおっぱいを寄せ合って相談する四人ですが、いい案は浮かびません。

 動こうにも腕と足を縛られてまともに動けず、魔法を使おうにも杖がありません。

 魔法が使えなければ、四人はただのおっぱいが大きいだけの非力な女の子なのです。


 それでも四人は考え続けました。

 一刻も早く、この状況を脱しなければならないのです。

 急がなければルークが来てしまう――確信めいた予感が四人にはありました。


 ルークは自分のことよりも他人を気に掛けてしまうほど優しいのです。

 自分たちが魔族にとらわれていると知れば、真っ先に助けにくるでしょう。

 それはそれで嬉しいのですが、ルークの武器である聖剣は今、魔族の手にあります。

 聖剣がなければ、ルークは勇者ではなくただの青年なのです。

 もちろん、それでも普通に戦えるだけの力はあるでしょう。

 しかし、相手は四人です。一人のルークが聖剣なしで勝てるとは、到底思えませんでした。

 ルークを助け、あわよくば篭絡するために、一緒に旅をしているのです。魔族に囚われて人質になるなどという迷惑を掛けるために、一緒にいるのではないのです。


(……やっぱり、ここは色仕掛けしかないと思うのです)


 モチチが意を決したように言いました。

 動くこともできず、魔法も使えない。もはや頼みの綱はおっぱいだけでした。


 モチチは思い返します。

 正体を確かめるためにルーク(偽)がおっぱいを触るかどうか確認しようとした時のことを。

 あの時のルーク(偽)の顔は、おっぱいが触れることに興奮した表情をしていました。

 つまり、ルーク(真)には効かないおっぱいだとしても、ルーク(偽)には有効なのです。


 そのことを三人に伝えると、それぞれハッとした顔になりました。

 口々に自分も同じだったことを伝え合います。


 そして、唯一の突破口であろうそれに、四人は賭けることにしました。


(魔族に触られるのは嫌だけど……しょうがないよね)

(やるしかないじゃんね)

(わたくしも、覚悟を決めましたわ)

(……やりましょう、先輩方!)


 四人は顔を見合わせて頷くと、作戦を開始するのでした。

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