第4話 歓迎試合

アーラとシュークが話している頃。


首席合格者として1試合目の1番最後に組み込まれたモズは、想定外の相手に目を丸くしていた。


「まさか、王子にお相手をしていただけるとは…」

「騎士採用試験の首席合格者の相手は父さんがしてたんだけどね。僕も16になったんだからって引っ張りだされたんだよ」


モズの目の前で苦笑しているのは、現王カイシンの息子で次期国王となるシンクだ。


スラリとした長身で、全体的に色素が薄い。大きな瞳が印象的な中性的な顔立ちは、誰かに似通っている気がした。


「先程の剣技、お見事でした」

「ありがとう。まぁ、君相手に勝てるかは分からないけどね」

「ご冗談を」


モズが少し頭を下げると、シンクはまた苦笑した。


シンクは将来を期待される剣士であり、モズはこれからを期待される優秀な騎士だ。


二人ともそれぞれ違った意味で期待されているため、シンクとしてはモズと対等でいたいと思っているのだが、どうも彼は違うらしい。


「君は、首席合格者なのに腰が低いね」

「王子の前ですから。」

「僕の前だから?別に僕は言葉遣いとか気にしないけど」

「あなたは気にされないかもしれませんが、下々は気にするのですよ」


今度はモズが困ったように眉を下げた。


王族絶対主義の今の状況で、彼に敬語を抜かせるものなど同じ王族のみにほかならない。


たとえ首席合格者であろうが、そういった辺りはむしろ厳しいのである。


シンクは寂しそうな顔をしたが、直ぐに元の涼しげな表情に戻った。


「じゃあ、この試合に僕が勝ったら、君は僕に敬語を使わないでね。その代わり、僕が負けたら、君の願いをできる範囲で叶えてあげる」

「それは…なんとも頷き難いですね。ですが、全力で行かせていただきます」


模擬刀を構え、モズは小さく唇を舐めた。





シュークとの試合までまだ時間があるアーラは、先ほどまで着ていた防具を脱いで戦衣いくさごろものみになっていた。


先程シュークに教えて貰って初めて知ったが、歓迎試合には優勝とかの概念がないのだと言う。


だから、基本的には1試合のみ、多くても2試合か3試合のみしか出る試合はないのだとか。


だから、アーラは次の試合…シュークとの試合が最後になるのだそうだ。全く持ってつまらない。


「モズは首席だからこの試合終わったら暇になるみたいだし、シューク様には声掛けづらいし」


はぁ、と大きなため息をつく。


田舎育ちのアーラにとって、この場所は知り合いなど望めない遠い街だ。


長兄であるギューティモッセが出稼ぎで働きに来ているけれど、彼は基本城には出入りしない建築関係の仕事のため、会うことは基本的に無いだろう。


採用試験の際に仲良くなったのはモズ1人だけだし、先程のエルバとの試合を見てか誰もよってこない。


試合時間の変更を伝えに来た後方支援隊の女性も、見た限りではどこかに引っ込んでいるようだし。




…つまり、アーラは暇を存分に持て余したことになる。



「んー、どーしようかなぁ」


下手に動き回るのもあまり好ましくないし、かと言ってじっとしているのも気に食わない。




「…失礼。貴殿が、アーラ新入騎士だろうか」

「え…?てっ、貴方はミュンズ大将ですか!?」

「そうだが…それで、貴殿がアーラ新入騎士ということで相違はないか」

「は、はい。間違いありません」


アーラに声をかけたのは、アーラが憧れて止まない剣士、ミュンズだった。


故郷にいた頃から憧れていた騎士に声をかけられ、暇だなんだと思っていたアーラは軽くパニックになってしまった。



とはいえ、状況判断力や冷静さが求められる騎士になるにあたってそれなりに訓練してきたため、キャパオーバーした頭でも一応受け答えをすることが出来た。


「そうか、なら良かった。…我が主が呼んでいる。シューク様との試合は、残念ながら諦めてくれ」

「え…?それは、どういう…」

「主の元へ行けば、おいおい分かるさ」

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