最終回 これが平和で最愛なトゥルーエンド
戦争が終わってから約十年。
この世界で戦争のほとぼりは殆ど冷めており、一つとなった平和の勢力内で、もともと対立していた者同士が隣り合って遊ぶ風景をちらほらと見るようにもなってきた。
「でもこれ、平和になりすぎじゃね?」
「ん? 何か言った?」
デュソルの呟いた一言に、アイリが反応をした。
声のする方を向いてみれば、デュソルの座る玉座の左下に座るアイリが、上目使いでこちらを見つめていた。
そこから視線を大きく見渡すように回してみれば、文官がいたり、兵士がいたり、ガウェインがいたり。
「随分と平和になったなーって」
そう、ジャガイモを上げた薄切りお菓子を口に摘まみながら床に寝転んでいたのだ。
デュソルの視線に気づいたのか、ガウェインが上半身だけを毛ダル気に起こして不思議そうか顔を向けてきた。
「お前が随分とこっちに慣れすぎなんだよな」
「そりゃここにいれば基本することないし、寝ぼけてても平気だしな」
「国政的には今すぐ働いてもらっても手が足りないぐらいなんだが?」
「まぁまぁそういうなよ兄弟! 妹もそう思うだろう!」
「うるさいガウェイン。今すぐこっから出て行って仕事でもしてきてくやがれ」
「そんなに邪険にせんでおくれよー」
二人のそっぽを向いたような態度にガウェインが出来ることは、ただ苦笑いを浮かべることだけだった。
「それで文官、今日の予定は?」
「……せめてここにいる時くらいは名前で呼んでほしいと言いたいのだが? アーノルド」
「そうだったな、カサブリア」
デュソルがそう名前を呼べば、カサブリアは書類のファイルを大きな音を立たせて閉めた。
「それで今日の予定なんだが、今日はアーノルド家での夕食パーティー以外にはめぼしいものはないな」
「あっ、今日だったか」
思い出したように声をだしたデュソルに、カサブリアが「だいじなことなんですから忘れないでくれよ」と茶化され、頬を赤面とさせた。
アーノルド家。それは戦争後にデュソルとアイリが婚約をした際に購入した物件だ。
城ほどまではデカくはないが、それでも客人を満足にもてなすことが出来るほどの大きさはある。
「食材の調達はガウェインで、料理が私。それで残りの二人が部屋のセット、でいいんだよね?」
「あぁ。ガウェインには重労働をやらして、俺たちは楽な仕事を。そしてアイリは料理をしたいから、ってことで決まったからな」
「今考えるとよ、俺だけ決め方雑じゃね?」
とガウェインが言ったとたんに、この場で誰も喋る人はいなくなり。
当のガウェインもたまらずに腰を起こして辺りに目を配る。
そんな様子を楽しめば椅子から腰を上げた。
「んじゃ行くか」
「うん」
「私もついて行くとする」
歩き出したデュソルをはじめとし、それにそれに続くようにアイリとカサブリアが廊下へと向かう扉へと歩いていく。
「え? あの、みんなどこに行くんだ? え? 俺はおきっぱ?」
悲しそうな目をデュソルたちに向けるが、無反応。
次第と小さくなっていく「おーい」と呼びかける声、ガウェインと離れていく距離。
全てw諦めてふて寝をしようとしたその時に。
「ほら。一緒に行かないのか?」
「デュソルぅぅ!!」
顔をぱぁっと明るく挿せて走り出す巨漢。
そのエズラはまさに阿鼻叫喚であり汚らしいもののほかない。
そして三人の反応も常識から逸脱することはなく、動揺に顔をしかめさせた。
「キモイやつは置いてさっさと行こうぜ?」
「賛成」
「その方が良いかと」
「デュソルぅぅ!!??」
先ほどの喜劇な声とは一転し、裏切られたことによるショックで悲劇な声を大きく出した。
*
場所は一転し、平和の勢力の首都から離れた位置に座するデュソルの家へと皆が揃っていた。
ガウェインは森で獣や山菜を取ってきた後ということもありソファで寝転んでおり、アイリは鼻歌交じりで血抜きや内臓処理などの済んだ獣や山菜などを鼻歌交じりで調理しており、デュソルとカサブリアは互いに笑い話交じりで部屋のかzぁりつけを行っていた。
「デュソルよ、これはここでよかったのだよな?」
「ん? あぁ、その飾り着けhがそこでいいけど、それはそっちじゃなくてあっちだ」
「おお、そうだった。すまなかったな」
頭のなかに完成図を持っているデュソルが司令塔とし、テキパキと作業を進めていく。
「ふっふふふーん」
そのころキッチンでは、下処理の終わった獣の肉をフライパンで焼き、その間に野菜などでスープの出しを取る。
適度な段階で山菜や獣の肉を射れたり、出汁に使った野菜を取り出して、ニンジンやキャベツ、じゃがいもに玉ねぎと言った野菜を次々に入れていく。
「簡単なポトフになっちゃうけど……どこかの野菜嫌いな男二人衆がいなければもっと作れるのに」
恨めしそうに口を細めながら、スープをかきまぜた。
「おーいアイリ―、そっち手伝いいるー?」
「んー、別に平気そうだよ」
突然と飛んできたデュソルの声にアイリは少し考えるような声を出して答えた。
私は二人の笑い声を聞きながら、それと時にはガウェインをしかるような声を聞いてごはんを作るのが好きになってるから。
別に私はこのままでもいいの。
「なんだかこの家族みたいな感じ、好きだなぁ……」
ほんの少し口角が緩むのを感じながら、コトコトと沸騰しそうな鍋を見つめる。
そんな一人事を、誰かが聞いていたのか近くから足音がした。
「だったらアイリ。新婚さんごっこの方が楽しいんじゃない?」
「デュー。来るなら来るっていってからにして」
「でも行くって言ったら来なくていいって言うから」
「キッチンは女の聖地なの」
少しムキっぽく言って見せるアイリに、どことなくかわいさを覚えるデュソル。
睨めっ面は次第と微笑みへと変わり、それにつられてデュソルも笑顔に変わっていく。
「今度は俺にも手伝わせてくれよな?」
「どうして?」
「だってキッチンっていえば、夫婦仲良く助け合いの場所だろ?」
「っもう、夫婦って……ちょっと嬉しいけど」
ぼそりとつぶやいた言葉に、デュソルは聞こえないふりでかまどの上の鍋を眺める。
「ポトフに……だけじゃたりないからな。一緒に何か作ろうぜ?」
「へたりな夫さんの手先の器用さには期待せずに共同作業をやりますか」
「へへっ……好きだよ、アイリ」
「……初めからそう言っておけば素直に誘ってあげたのに」
「そうやってクールに返してくるあたりが恥ずかしくてあんまりしたくなかったのに」
「もう。本当にヘタレなんだから」
二人の笑い声で暖かそうな色に包まれたキッチンで笑い声と、調理の音が飛び交った。
「ほんと仲いいよなーあいつら」
「幼馴染で、あの第四勢力の衝突でともに戦った男女でもあるのだからな。当たり前にそのような関係にはなるだろう」
二人の様子をリビングで利いていた二人が小言程度に会話を交わす。
この二人は元々勢力の王ということで面識があったことも含めて話すことは良くするのだ。
昔こそは火花を散らしていたが、今は互いに守るものが同じであり、そんなものは不要となっているのだ。会話が跳ねるのは当たり前で、中も良くなっているのだ。
「あれから時が過ぎたことを考えれば、互いに年を取ったな」
「お前が50を超え、私が47……。そろそろ隠居を考える時期なのだろうか」
「なぁおい、今お前俺の年齢のことでちょっと下にみた節なかったか? あぁ? あったよなぁ!」
「うるさい。せっかくセットした装飾がずれたりでもしたらどうするんだ」
「んなことはどーでもいいんだよ! 俺はまたそこまでジジイじゃねーからな!!」
「っふ」
「今笑いやがったな! てめーぶっ殺してやる!!」
仲良くは……なっている、はずだろう。
*
賑やかな食事を終え、カサブリアは食器洗い。ガウェインはまたしてもソファで寝転び。
「ちょっと肌寒い」
「それだったら俺のこの羽織を半分与えてやろうではないかー」
デュソルとアイリは、満天の星空の下、デッキの腕で横並びに座りながら一つの羽織を半分こで羽織っていた。
「温かくはなった、かな」
「それは俺の体温じゃなくて?」
「それもあるかも、ね」
そういうと、少しこちらへと傾ける体に体重を掛けてきた。
服越しにも伝わる暖かな体温。体で感じるタイでの心臓の鼓動。顔が近くなったことによる耳に入る呼吸。
それがほんの少しデュソルの体温を上げた。
「星が綺麗だね」
「……そんな星が映るアイリの瞳も、いつも以上に綺麗に見えるよ」
「ちょっとヘタったでしょ」
「仕方がないの。それはもう俺の愛嬌として受け止めといて」
「もう。しょうがないなぁ」
その言葉を区切りに互いの間には言葉は途切れ。
でもその中でも気まずさなどは一切となくどこかとても心地よいと感じてしまう。
一際大きな風が吹きアイリが体を弧釣り付けるようにして縮こまってきた。
そしてふと、デュソルの見下ろす視線とアイリの見上げる視線が交差した。
ちょっと赤っぽく熟れ、呼吸も吐息交じりにな。
「ねぇ。また、好きって、言ってほしい」
どうしたの?
なんて言葉がアイリに対する返答で出そうで急いで口を閉ざした。
きっと不安、なのだろう。
俺がヘタレで決定打になるような``コト``が出来ていないから。
俺が不安にさせてしまっているのだ。
そんなのはいやだ。
だからヘタリな俺でもできることを、俺なりにやることだ。
俺には、俺にしか、この関係でないとできないことを、するだけだ。
「好きだよアイリ」
羽織のしたからうでを通し、腰をまわして体を引き寄せ、一層と近くなった顔で見合った。
「愛してるよ、アイリ」
瞳を閉じ。
鼓動の感じるがままに。
キスをした。
*
……ところまでは覚えているんだが。
「いつベッドに行ったんだっけ?」
キスをした夜から時間がたったらしく、今は小鳥の囀りが聞こえるような早朝であり、デュソルはベットに体を沈めていたのだ。
「キスをしたところまでは覚えているんだが……」
そう思いベットを見てみるが、他の誰もいることはなく、致したような形跡の一つもない。
考え事をしていれば、突然となるノックに思考を手放した。
「デュー、ご飯出来たよ」
開いたドアから覗かせた姿の持ち主は、エプロンを着たアイリだった。
「どうしたの? まだ寝ぼけた顔して。先に顔を洗ってきなよ」
「あぁ、そうするよ」
デュソルがそう言ってベットから立ち上がってアイリへと近づけば視線が合い、笑顔が咲いた。
「おはよう、デュー」
「ああ、おはよう、アイリ」
何にかはわからないが、俺はこの暖かさを護ると誓った。
進んでいく俺らのトゥルーストーリー。
本来は巡り合うことはなかったこと二人の運命に。
永遠の祝福が訪れた。
――すべてはこの
「愛してるよ、アイリ」
「デュー……私も愛してる」
この未来を、護るために。
鏡世界の|境界線《ホライゾン》 朝田アーサー @shimoda192
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