そして築いた鏡の平和
息が止まり、まるで時間が止まったような感じがした。
俺の目の前でヴァンデッドが切り裂かれて血飛沫を上げ、そしてその目にはこちらを醜悪として睨んでくる顔が入って。
――これでようやく、あきらめがついたよ……。
切り替わったような安らぎの声と共に、そんな言葉が聞こえた。
「……ようなきがしたんだけど、な……」
黒色の莫大なオーラとして漏れだした駕護によって視界が遮られた。
眼前から異臭のような空気が佇み、本能として鼻を塞いだ。
「デュー!?」
「いや大丈夫だ! 実害はなさそうだ!」
その証拠に、霧の晴れた向こうには、先ほどのように旺盛とした肉体の消え失せた、干からびたような肌を持つヴァンデッドがいるのだ。
「これ、は……」
近くに来たアイリが、恐怖した顔で呟いた。
「きっと
「……それって、もしかして私たちが死んでたらこうなってたってこと?」
「多分な」
「そう、なんだ……」
慄然とした表情でその死した躯体を見下ろすアイリ。
体は小刻みに震えており、その顔面の蒼白さからは、その恐怖というものがどれほどのものが察するに値しない。
そんなアイリにデュソルはそっと近づき、腕を伸ばして肩を寄せた。
「でも大丈夫だ。これからは俺がずっとそばにいて守ってやるから。だから、大丈夫だ」
「そ、う……。じゃあちょっとだけ。ちょっとだけ期待して待ってる」
「あぁ、期待しといてくれ」
隣で肌を着け合うアイリの手が、ギュっと柔らかく握られたような感じがした。
風が吹き、死骸が流されて散り行き、空が晴れていく。
どこか心の中でも曇っていた情景が明るくと未来に傾いていくような高揚感を感じており、自然と口角が緩んでいく。
「終わったんだな」
「デューが終わらせたんでしょ? なのに他人事なのかしら」
「だって、俺一人じゃないしなっ」
だんだんと騒がしくなってくるのは、数キロほど離れた後方から。
デュソルたちが後ろを振り向いてみたら、二人は次第と微笑みを浮かべた。
「敵討ちだぁ!! 俺らの勝利だぞぉ!! おまえら、勝鬨上げだ!!」
「いいっすねビリー隊長!」
陽気な声を奏でる後方の弓兵隊などが、バカ騒ぎをしたり、駕護を纏わせてカラフルにした弓を打ち上げたりなど、それぞれで楽しそうにうれしさを体現していた。
そしてその中に一人、逸れたような位置におり、暗い顔をしている人がいた。
「ガウェイン、お前はどうするんだ?」
デュソルがガウェインへと語りかけてみれば、苦い顔wそして目を背けた。
戦場で男を名乗るような奴が卑怯な手を使って自分だけ優位に立とうとしていたのだ。
そんな自分を許せないということもあるのだろうが、それ以上に、戦友というほどの奴をだましたということが心の中にあるのだろう。
「戦争は終わって、正義の軍勢はほぼ壊滅で、こっちの自軍は八割残生だ。どうする」
「……当たり前にもこっちの敗戦、負けだ」
敵わないといった風に頭の横に両手を力なく掲げた。
デュソルの方は既に敵対心は持っていないが、アイリの方はまた別だ。二対一で暴虐の限りをされたのだ。簡単に許すことは出来ないだろうし、剥き出しの警戒心を隠す努力をしていない。
「おいアイリ。あんまり睨むなよ」
「ならデューはもう許したの?」
「許すとかじゃなくて、いまは大使と大使、いや、俺らの場合は王と王との話し合いだからな。そこに私情ははさまないからな」
そういうと、今度はデュソルにも不機嫌さを露わにしてきた。
不服そうに上目使いを向けてくるアイリに、ため息を吐きながら頭を撫でた。
「ガウェイン。、これから俺たち平和は、お前たち正義の領域に踏み入り同盟、もとい傘下に入れ、っていうこと言いに行こうと思ったんだ」
「……そうか。それがあたりまえのことだからな」
「ってことだぞ、アイリ」
「ってことって言われても……むぅ」
拗ねるようにして体を背ける態度に、デュソルでさえも苦笑いを浮かべてしまう。
「結局拗ねで終わったけど、何とか認めてくれたらしいしな」
握手の手を差し出してみれば、隣でアイリが「そんなこと言ってない」と横腹を突いてきた。
「これから読頃敷くな、兄弟!」
「きょうっ……そうだな! これからは兄弟になるんだな!」
「おいおい、急にテンション変わりやがったな!」
お互いに大きく声を上げながら笑えば、ガシリと手を組み合った。
ひしひしと痛むような手の痛覚が、どこか嬉しくて。
「さぁ! 帰って凱旋パレードをやるぞぉ!」
『おおぉ!!』
俺たちは平和を手にしたのだ。
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