決着と言う道を得た。

 うっすらとした灯っていないハイライトの目。

 そしてそれを風前と匂わすような、はにかみだす唇。


 そう、私は。


 ――死ねないから。


 一歩踏み出し、ヴァンデッドの心の隙に躊躇を浮き上がらせた。


 「駕護、追い連」


 唐突に意識の覚醒を果たしたアイリに訝し気な表情を浮かべ辺りに視線を散らすが、何も起こらない現状に軽くため息を吐いた。


 「何を今さら……いや、いい。さぁ、最後の締めだぁ」


 ゆっくりと、まるで小動物を嬲るよな高圧的な視線で歩みを進めた。

 そんなヴァンデッドを他所に、アイリはただ一人で呟いて見せた。


 「私のナイフはね、風の噂で『夫婦剣』なんて呼ばれているのよ」


 「なにを一人でぶつぶつと」


 「引き離されても、勝手に元の一対に戻ろうとするから」


 「……いい加減にその独り言を止めさせてやる!」


 淡々とまるで目の前のヴァンデッドという恐怖を認識していないかのように語る姿に、どこか憂懼を感じるように狼狽しだした。

 先ほどまで余裕を纏っていた表情も、革を脱ぎ捨て必死になる鬼面しか浮かばない。


 そんなヴァンデッドと対比に、確信を突くような眼光でその姿を射止めた。


 「さっきはとっても遠くに弾き飛ばしちゃったよね?」


 「だからそれを! やめろと言っている!!」


 走り、首を閉めようと差し出していた両手はいつの間にか拳となりアイリへと向かっていた。


 「交差する地には、人の血染まる」


 「その声を、発するっ――!?」


 彼方から聞こえていたのは、途方もない風切り音。

 それを認識したのは一瞬前。でも、その週しゅん先には、すでに視認をしていたのだ。


 これは避けられない。


 それを直観したのは、すでに両の腕が血飛沫を上げて飛んだあとだった。


 「ぐっ、そぉおお! まだだ! まだ届くんだよぉ!!」


 前後の左右から加わった衝撃により一瞬足を止めて体を怯ませるだけで再突進を繰り出した。

 先ほどよりもその足取りは悪いが、それでもなお進み続けている。


 「せめてお前の中のホライゾンだけでも潰してやる!」


 両の腕からは見た目だけでも分かる致死量ほどの血液を流しており、鬼気となるその表貌は、だんだんと青白く移り変わる。


 「丸腰相手の小娘ならば両腕など要らんわぁ!」


 攻めるのは、腕ではなく口で。

 牙を剥き出しにして、その口内の深淵を覗かせた。


 ヴァンデッドに言われて自覚をしたことなのだが、その手には武器も何もなく、その腰には予備のナイフも、暗器の一つもない。


 その刹那に過ったものは恐怖。

 さきほどまではどうしようもないほどの、なんとかなる、というような過信があったのだが、まるで嘘だったかのように気の抜けたように萎んでいく。


 どうしてこんなにも怖くて……。


 ――アイリからっ、離れろぉー!!


 そんな声が聞こえて。

 覆いかぶさるような大きな影から光が見えて。


 どうして。


 ヴァンデッドの後ろで立ち上がったデュソルが目に入ったのだ。


 「どうしてデューはこんなにも頼もしいのかなぁ……」


 本当に、、かっこよくなったねデュー。


 「俺のアイリにはっ! ぜってーっ、触れさせないっ!!」


 地面を蹴り、身体を捩じり、精一杯の声を体がら張りだした。


 「お前はまだ眠っていろぉ!!」


 振り返り、精一杯の駕護をしようしての咆哮を繰り出す。

 口からは吐き出されるように飛び出した黒色の塊が飛翔する。


 「俺はもう! 負けたりしないんだぁ! 未来が! 仲間が! アイリが! 望んでいるから!」


 刹那で目の前まで攻め込んできた黒色の塊を眼前間近で交せば、空高く高跳びをした。

 まるで背中に加速装置でも着いているようなほどの加速をし、みるみるうちにヴァンデッドとの距離は縮まっていく。

 それに慌てたヴァンデッドが、またも二度目の咆哮を繰り出した。


 「それ以上近づくなよ!!」


 今度は先ほどよりも大きく、威力があるのはまるわかりだ。

 だが、デュソルの空を包む速度は変わらないどころか、更なる加速をし出す。

 巨大な黒の絡まりが眼前へと迫る刹那。


 「駕護! 断切!」


 体を横にいっかいてんさせて勢いをつけての振りかぶりで、巨大な黒の塊を切り裂いたのだ。

 それでデュソルの猛攻が止まることはない。

 一度は切り裂いた巨大な黒の塊をさらに細切れにするように何度か切り刻み、加速をした。


 「これでぇ!」


 「まっまだ俺は!?」


 「終わりだぁぁ!!」


 溢れる声と共に県に纏った光。

 そそいてその剣が。


 「まだっ! まだ俺は! ――っ」


 切り裂いた。

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