辿り着く先に未来が浮かび。
「駕護『絶対切断』! !
刀身からは輝くように蒼が灯り、デュソルがソレを振り下ろせば、空を巻くように斬撃が飛翔する。
飛翔さうる斬撃は進むごとにおおきさを増し、地面に到達する間際には、まるで渓谷を作れるほどの大きさとなっていた。
「甘いねぇ……駕護」
ヴァンデッドが駕護を口にした途端に、突如と周囲には緊張が奔り、デュソルたちの顔にも明らかな焦りが浮かぶ。
「
白色の
「
重く鈍い音を残しながら放たれた銃弾は、斬撃と接触した刹那に大きく肥大した。それはまるでブラックホールのような黒く歪んだ玉へと豹変し、すべてを巻き込むながらボロボロに消滅をさせた。
「重力と核融合エネルギーをしようしたことによる、粒子分離ってところか?」
「冷静に分析ご苦労様。でも、脅威には変わりない」
「わかってはいるんだけどなぁ。それに多分あれだけじゃないだろ?」
「他に何個かありそうな雰囲気がある……」
自らがいった傍から、アイリは面倒くさそうな顔を浮かべたまま「うげぇ」と口に出す。
「でもとりあえずは――」
「「接近あるのみ!」」
二人の声と呼吸が重なったと同時に、揃って空を蹴った。
足場とした宙の空気が固まったかのようにヒビが入っており、それによってかそくを得た二人の体はブレ、視界にとどめるのが困難なほどだ。
だがヴァンデッドは違う。
そんな二人の加速を見てなお、顔を崩すことはなく、ただひたすらに銃口をデュソルたちへと向けるだけだ。
「駕護、
高速に白色の銃弾を装填すれば、素早く持ち上げ、引き金を引いた。
「アイリ!」
「うん!」
銃弾が放たれたのを確認すれば、先ほどまで隣同士で滑空していた形を崩し、デュソルが後ろに下がり、アイリを前に出させた。
「駕護、
アイリが刃にオーラを纏わせれば、今度は駕護としての形を成していき、二つの刀身が翠色に灯った。
飛翔してくる弾丸を認識しては、器用に体を回転させてククリナイフに勢いを持たせた。
「爆発する前に、撃ち落とす!!」
その意思を固めた刹那、刀身はさらにまばゆく光を強め。
――一閃。
弾丸は火花散らす間もなく不発弾として地面へと落ちていった。
「デュソル!」
「あぁ!」
すでにヴァンデッドとの距離は
そこで今度はアイリがデュソルの名を呼び、その体を前へと追いやった。
「駕護!」
剣を大きく頭上に掲げ。
体中からはまるでデュソルが冷気を漏れ出しているのではないかと錯覚させるほどのオーラは吹き出し。
「
刀身からは青く光る雷がバチバチと威嚇のように溢れ。
身体からは赤く揺れる闘心のようなものを仕切りに放った。
「
一瞬、身体を大きく仰け反らせ。
落下する体の勢いのままに、剣を振り抜いた。
瞬時、閃光が悪戯に走り回る戦場の中で、ヴァンデッドが口を細くして唱えた。
「
装填もしていない銃口から、先ほどのブラックホールのような弾が放たれた。
それはデュソル手前として発動し、表出したデュソルの駕護を全て吸い込んだ。
「くそがぁ!」
一瞬にして駕護を失った体は空中で見っともなく体勢を崩し、不安定な体勢のまま、再度ヴァンデッドの射線上へと入った。
どうにかしてこの体勢を変えなければ。
焦りながら現状の打破を考えるデュソルとは裏腹に、ヴァンデッドは純粋と冷静に引き金に指を宛がった。
「
ヴァンデッドが銃弾を放つ刹那に、アイリはさらに空を蹴ることで加速を得て、
「させないっ!!」
閃光の一閃。
落雷と錯覚するほどの速さの切りさげではあったのだが、それは苦しくもヴァンデッドの薄皮一枚を撫でるだけに留まった。
「迂闊だよ? 君の
笑みだった。
醜悪の笑み。
まるで先ほどのデュソルに銃口を合わせたのがブラフであり、アイリをこちらへと誘い込むのが目的であったと言わんばかりの笑みだった。
「ほら、狙われていること、気づいているのかい?」
指摘を飛ばされたアイリは急ぎで思考を凪げば、己に目掛けられている銃口を見つけた。
「っく!」
瞬時に訪れた体の膠着を捨て、ククリナイフを射線上へと合わせた。
「ばんっ」
呑気な声と共に放たれた銃弾は、アイリの体にこそ被弾することはなかったが、鈍く光るククリナイフを遥か後方へと弾き飛ばして見せた。
だがその顔には焦りはなく、どこか確信めいた表情をしていた。
「もう一発、貰っておくかい?」
「要らないね!」
地面を蹴り疾走を得るアイリ。
幻影のように揺れる体を見せる速度で移動した先は、ヴァンデッドの背後である。
「駕護!
光を纏った短剣が光をはなす速度で斬撃が放たれる。
それは背後で、視界から消えたことで完璧な感知不可の状態であるはずだったのだ。
しかし。
「な、んで……っ」
切り裂いたヴァンデッドは、いつの間にか幻影となり霧散したのだ。
切り裂けた感覚もなければ、この場に停滞し続ける殺気が失せる気配もないのだ。
まだ、この近くにはいるはずだ。
まだどこかに。
どこか……。
――ここだよぉ。
「っ!?」
突然と耳元で放たれた、ねっとりとしたような嫌悪感の塊のような、特徴のある声。
瞬時に体を退こうと地面に接する足に力を籠めるが、もはや無意味。
怖気ついてしまった体は、意思のみでは動かすことは出来ない。
アイリの目の端には、鈍く煌めく銃口が映り。
まるで勝ちを確証したように薄く微笑を浮かべるヴァンデッドが映り。
そして。
「駕護!
デュソルの姿であった。
駕護が発動すれば、無意識下の意識がデュソルへと引き寄せられるように、引き金を握る手はいつの間にか放されており、すでに戦意の全ては目の前のアイリよりも、頭上のデュソルに向けられている。
「全てを込めて! 振り翳せ! 駕護『断切』!!」
――うぉぉおぉぉ!!
ありったけを振り絞った叫び声は、みるみるうちに自らを鼓舞するものに姿替わりをし。
身体を大きく捩じって、膂力に物を言わせるように剣を高く掲げ。
剣の柄から切っ先へと駆け、徐々に駕護のオーラが纏われていく。
「これで!!」
ヴァンデッドがこちらへと意識を向けた数秒後の今、ようやくというほどで銃を構えなおしたのだ。
気が付いたら目の前にいた、なんて状態があれば、いくらヴァンデッドといえど標準を合わせるどころ覗くこともままならなくなる。
逃げるか、応戦するか。
そんな逡巡がヴァンデッドの中を流れている今。
この瞬間! 今!
ここで決めるんだぁ!!
「断ち、斬るっ!!」
ヴァンデッドの目の前で振り出された斬撃は、目の前一杯を覆い尽くした、まるで太陽だ。
金色に輝く刀身に、狂いなく振るわれる斬撃。
ヴァンデッドの胴体を確実と捉えた。
「っ、手ごたえはあった! でも消えた!!」
ヴァンデッドの体を切り裂いた刃を見てみれば、確かに血液は着いている。
だが、その剣で切り裂いたヴァンデッドの体はまるで幻影のように消えて失せて見せたのだ。
どこに、いっ、た……
「っ!? 後ろに!!」
耳に入るのは、咄嗟で焦ったアイリの叫び声。
その声の通りにデュソルの視界の端には、ヴァンデッドが纏う黒の外套がちらりと舞う様が映る。
「結構、危なかったねぇ」
そんな軽々しい言葉を呟けば、ヴァンデッドはデュソルの背後で銃を構えた。
怒りを笑みで隠そうとするさまは、修羅を抑え赤子と接する悪鬼。
肩には剣でできた創傷があり、腕から手、手から地面へと血液が垂れている。
「咄嗟の駕護だったけど、想像以上の結果で良かったよ」
「……嘘つけ」
想定をどこまでを考えていたのか、現在でもすでに辛そうな表情であるのだが、デュソルはそれに悪態を吐くと同時に、自分自身を呪った。
ヴァンデッドの想定ならば、先ほどの攻撃で瀕死の状態に持ち込めていた。
俺がヴァンデッドの想像の一歩を踏み出せてはいなかった。
簡単な話なのだろうが、それはデュソルの心の中では簡単に片づけられるものではなかった。
「……何度嚥下しても、何度昇華しても消えないこの感情は、怒りっていうのかもな」
「何を今さらなことを言ってるんだい?」
その言葉には、当然のように疑問を浮かべた。
初めての感情だったのだ。
自分の弱さの醜さや、他者に踏みにじられる覚悟の残り香でも、なんでもなく。
――戦場に抱く興奮。
「戦いに抱く狂うほどの興奮が、怒りが……」
瞬時。
「俺を強くしくれる!」
オーラが溢れた。
「くっ、こいつ!!」
風圧でズレた標準を再度合わせようとするが、デュソルがさせない。
右へ左へ、上へ下へと縦横無尽と駆けまわりながら射線を潜り避ける。
そのうちに距離は縮まる一方。焦る感情と標準を定めようとする神経。
次第とそれらは反比例するように滲み出る脂汗となり表出する。
「決めるぞアイリ!」
「デュー……っうん! わかった!!」
憂慮にも似たような憂いを帯びた顔を見せたが、そんなものはデュソルの横顔一つで吹き飛んでしまう。
デューの横に立って、デューと一緒に戦えて、デューの役に立てるのなら、なんて。
幼馴染の女の子は随分と安くなっちゃった、ね。
期待を込めた視線をデュソルに向けてみれば、つぎのしゅんかんにはすでに足は動いていた。
あんなデュソルの楽しそうな顔を見たのだから。
「ここで決める!! 駕護! 神雷!!」
天から下る雷がデュソルの掲げた剣と同調し、振り下ろしと同時に地面へと墜ちた。
「くそ! 仕留め損ねた!!」
振り下ろしと同時に宙へと飛んだ片腕を見てそう叫んだ。
その通りに、落雷が止めば、デュソルの先には片腕だけで銃を構えるヴァンデッドの姿があった。
「任せて!」
一歩二歩の疾走の末に、アイリの久々江いナイフには光が灯った。
「
アイリの手の中からは溢れるほどの力で前へと突き進もうとするナイフ。
次第と強まる力に、それと比例するように増していく光。
まるで投石を行うように足を踏み出し、上半身を捻らせ。
ギュっと引き絞った腕に力を籠め、非力で華奢な細腕ではあるが、袖上からでも分かるほどに筋肉は形をはっきりと主張している。
そして、増す閃光は遂には閃光までにも昇華した。
「これで! お仕舞い!!」
うねりに悲鳴を上げていたアイリの腕は、瞬時に伸ばされた。
見ることも、感知することもできないほどの速度で振るわれた腕。
閃光が衰え、雷が薄れ。
その先に見えていたのは、すでにナイフが放たれた腕と。
そして無傷のヴァンデッドであった。
「はず、した……っ!?」
驚愕に目を開き、機能のほとんど停止した脳でその事実をただ茫然と認識した。
「外れた、よぉ! 外れたぁっ! 勝ったぞ! これで俺が! この俺がぁ!」
ヴァンデッドがひどく歪んだ笑みを浮かべる。
急ぐように大柄に腕を振りだせば地面を蹴り走り出す。
あまりの興奮に息を切らしており、肩を上下に大きく揺らしている。
「勝てるんだ!!」
銃を投げ捨て、ごつごつとした外皮に覆われた手で、アイリの首を目掛けて伸ばしていく。
哄笑が鳴り上がり、アイリの体が小さく揺れた。
じゃりじゃりとヴァンデッドの脚が地面のすなを巻き上げる音がスローに聞こえ、遠くではデュソルの絶望が垣間見える顔が瞳に映った。
うっすらとした灯っていないハイライトの目。
そしてそれを風前と匂わすような、はにかみだす唇。
そう、私は。
――死ねないから。
一歩踏み出し、ヴァンデッドの心の隙に躊躇を浮き上がらせた。
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