それでもなお突き進み。
「頼むブラディ! 堪えてくれ!」
「わかって、っます! アーノルド様!」
死ぬ。
そんな予感が痛いほどに主張してくるこの状況。
ドキドキと早まる鼓動に焦燥を感じる感情なのだが、どうしてか、俺の心には大きな抑揚が含まれていた。
「弓兵部隊! 今こそ名乗りを上げよ!」
突然とビリーを咆哮を上げた。
こんな絶望的な状況の中で何をしでかそうとするのだろうかと怪訝な思いが瞬時、心に纏わりつくが、そんな思いは杞憂に済んだ。
「矢を番えよ! 対象は真上から降り注いごうとする大岩ども! 粉砕するぞ!」
絶頂に期した興奮を表すような笑顔を浮かべ、弦を吹きのばしているのだ。
周囲にはその感情にも似た高ぶった駕護のオーラが大きく飛散し、高鳴りを知らせる。
「俺も真似させていただくぜ!」
ビリーがブラディに軽く笑みを送れば、ブラディも苦し紛れではあるが、頼もしいと思える笑みで八重歯を煌めかせた。
「感覚譲渡展開! !
ビリーがそれを唱えた刹那、自らの矢を含め、弓を番える弓兵隊の矢が次々と翳るように焔が灯されていく。
「これからだぁ! その美しくも憎き外套を我らに表せ!
爆発の勢いで炎があふれ出し、それぞれの焔に蝶にも似た体躯を模っていく。
その際に矢を握る腕に掛かる負荷はとてつもなく、今か今かと飛び立とうとする矢を、模りが完成に至るまでの時間、ただ耐えているのだ。
「っく、はぁぁあああ!」
すでに腕は限界。掲げる腕さえもプルプルと痙攣を開始し、呼吸からは一定がきえ、苦し紛れだということが窺える。
「これが俺らの王様が望むハッピーエンドなんだから! それを俺らが先に折れちまうわけにはいかないんだよ!」
限界を迎え、さらに通り過ぎている自らのからだに鞭を叩く世に精一杯の声で咆哮を上げれば、揺らぐ闘志が、頑固を固め眼窩を光らせた。
「俺らが切り開ける道は開かなきゃいけないんだよ!」
――いざ放たれん!
その言葉で、全ての
そして今。
「
放たれた。
爆音と共に放たれた矢は、大気を灼熱とする熱量を変えぬまま飛翔し、そして防壁の頂上まで至った。
「防壁、解除!!」
「吹きとべぇ!!」
防壁は頂上から綻びを表すように柔らかに崩れ落ち、岩石たちはその合間を縫い防壁内へと進行を繰り返し。
「伏せろぉ!!」
轟音と灼熱がこの地を絞めた。
爆風が解除しきっていない防壁内を滑走し、デュソルの体を持ち上げては地面や壁に突き当たる。
「っ、くそっ!」
口端から漏れる息で、呼吸が保つことが出来なくなり、突然と苦しさや敏感になる痛覚が目立つ。
「おいブラディ! とっとと解除しないと王が死んじまうぞ!」
「ああわかってる! だから今っ、解除し終わった!」
防壁が解除されたことで立ち込めていた簿欧風が霧散すれば砂埃は静かに薄れていき、やがて視界は戻る。
「王は!? どこに!!」
焦り交じりの悲鳴のまま声を出すが、その時にはすでにデュソルの姿はこの場にはいなかった。
「くそ! さっきの風でどっかに飛ばされたか!?」
辺りを見渡す首はせわしなく動き、足は無意識なままにたどたどしく進み。
「……落ち込んでる場合じゃねぇ。被害の確認――」
――その心配はないよ!
そんな声ともに、晴天が顔を覗かせた空に、影が奔った。
「騎士王アイリに、アーノルド様だ!!」
声のする方、空を次々と見上げる者たち。
その視線の先には、宙に浮かぶように落下してくるアイリと、それに抱えられているデュソルだった。
「ごめんデュー。遅くなっちゃったね」
「いや、いい。それに、タイミングはちょうどよかったみたいだぞ」
「ほら」とゆびさす指の先には、崩れ落ちた大岩の山から姿を現すヴァンデッドだった。
「君たちは酷いなぁ。僕だけをのけ者にして助かろうとするなんて」
「お前もガウェインのやつに守らせただろ」
「バレてたら、しょうがないねぇ」
そして、互いが睨み合う。
当事者たちの気の知らぬところからオーラは滲み出し、宙にいるデュソルと地にいるヴァンデッドは宛ら龍と虎と言ったものだ。
「ねぇデュソル」
「どうした?」
唐突と駆けられた優しい声色にデュソルはくびを傾けた。
「もしも私たちが幸せで楽しく暮らせる未来があったらさ、一緒に生きたいと思わない?」
「あぁ、思うさ。だからこそ」
――これから創りに行くんだろ?
「っ!? うん! そうだねっ!!」
デュソルの言葉に一瞬驚いた風貌を見せたが、すぐにそれは破顔し、幸せそうに微笑む顔に鳴りを変えた。
「それじゃあ行こう!
「あぁ!」
そして、再度戦局は動いた。
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