道に覆われて。

 目を刺激するような日光で、私アイリ・ヴェルクーリは目を覚ました。

 岩雪崩に飲み込まれそうな仲間たちという最悪な情景を網膜に焼き付けながら。


 「――っデュソルーッ!!」


 叫び声にも似た哀声がのどから放たれるが、その声は岩雪崩の轟音に簡単にかき消される。


 どうしようっ、どうしよう!!


 焦燥や悲しみ、苦痛が体中を駆け巡り、どうしようもない嫌悪感や嘔吐感が押し寄せてくる。

 平和の勢力の誰かが防壁を展開していたが、きっとそれだけでは防ぎきることは出来ないだろう。

 一つとできた綻びから多数の岩が流れ込み、防壁は決壊して、そして最終的にはその場全てを覆わせるほどの岩が下ってきて。


 「おぅえっ」


 本能的に駆けめくった予想により、堪えていた吐しゃ物が放出されるように口から離れだす。


 「ど、うしてっ……」


 なぜ私が気絶をしていた間にこんなことになっていたのだろうか。

 なんで安心したからと私は意識を手放してしまったのだろうか。


 出来事が起きてしまえば、さまざまな改善策があふれ出し、後悔と過去の自分への忌まわしさが出てきてしまう。


 「……助けに、行かなきゃ」


 まるでため息のような声を気にしている余裕などは、今のアイリには存在しない。

 あるのは多大な喪失感だけ。

 せっかく築き上げた勢力が、共に歩きたいと願ったデュソル愛しの人が目の前で岩雪崩で飲まれ込んで。


 「助けに行かなきゃっ、なのにっ!」


 うつ伏せの状態から立ち上がろうと力を籠めるが、どうしてか足が動かないのだ。


 細い体躯が細かく震え、力がわかない。


 きっとこれは疲労だろう。

 騎士王二人を相手取っての戦闘に心身ともに疲れ切って……。


 脆い、脆すぎる。

 私は自分の体を呪った。


 「動いてぇ、動いてよぉ!」


 無理やりに動かそうとすれば体中が悲鳴を上げるように激痛が走りだす。


 助けに行かないといけないのに、助けたい人なのに。

 その思いが激痛と相まって涙痕が頬に深く刻まれる。


 「思うだけじゃ、願うだけじゃダメなんだって……誰か助けて、もうつらいよ!」


 理不尽すぎる現実に嘆きの業を掻き立て。


 「なんで平凡な生活を送ろうとする私たちの運命を邪魔するのよ!」


 抗えない不平に悲しみの業を奏で。


 「もう、こんな世界ならいっそっ……」


 そして。



 ――現実を捨てたとき、鏡を明を見せる。



 『前契約者アイリ・ヴェルクーリ。あなたに問です』


 唐突と脳内に機械質な声がながれ不審な疑心が芽生えるが、それ以上に。


 変えられる現実があるのかもと期待が過っている。


 『ハッピーーエンドの向こう、アフターストーリーを適応しますか?』


 そんなの。


 「当たり前、っだ!」


 歯を食いしばり、うちに滾りだす力の全てを籠め声を振り絞った。


 決めれていたであろう運命に抗うために。

 邪魔してくる運命を変えるために!


 『声帯認証確認。これより、アフターストーリー適応の開始。圧迫施工による作業を開始』


 アイリの脳内で喋る何かが作業を始めたと同時に、体外に溢れるオーラが色を変えた。


 『駕護因子変更完了。変更完まで残り5秒。4、3』


 私はこれでデュソルと一緒に戦うんだ。


 『2』


 守るわけでも守られるわけでもなく。ただ対等に背中を預け合って。


 『1』


 目を閉じ、ただ数舜先を待った。

 助けに行くその時を。


 『0』


 そしてその時が。


 ――今だ。


 『アクティベート完了。さぁ元契約者』


 飛び上がるようにして上体を起こせば、脚部に力を込め一瞬にして加速を手に入れた。


 『これで役目は終わりです。後は望む未来を歩みなさい』


 そんな言葉を小耳にはさみ、アイリは崖へと跳び駆けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る