差し込む一条の光は。

 「狂える者だけ着いてこい!」


 駆けた。

 それは複数、それも数十数百で利くほどの数ではなく、地ならしほどの音が瞬時に大崖を駆け降りる。


 「ヴァンデッド! 俺ら主人公ポジはっ! 負けそうになれば必ずパワーアップして戻ってくる!」


 「アーノルドォ!! それはこっちもだぜぇ!?」


 荒野で銃を握るヴァンデッドの姿は、先ほどまでの者とは程遠く、すでに自我を捨てたような外観、猪のように戦意に衣を掛けず、口端からは濁った唾液が漏れ出している。


 「悪は憎悪によって強化される……。今のお前たちを叩きのめすほどになぁ!」


 互いのオーラが足元から巻き上がり、身体を包むように表出し、それが引き寄せ合うようにオーラが先走る。


 「ぅぉおおお!」


 「はぁあああ!」


 オーラだけの衝突。

 崖を下るデュソルの先走るオーラと、崖を飛び上がるヴァンデッドの先走るオーラが衝突し、地面を抉り、周囲には瘴気にも似たオーラが渦巻いた。


 「駕護のオーラは俺の方が上だ! 勝たせてもらうぞアーノルド!」


 「それは少し違うんじゃねぇか?」


 ――なんだって俺は『最強』だからな!


 「駕護『断切』! ぶった斬る!」


 崖から足を離すように飛び上がれば、握る剣が光を秘める。


 「最強の証はこれだけでも十分だろ!」


 「それは少し早計ってもんだぜ! 平和の王様よ!」


 飛翔するように迫るデュソルの刃に、ヴァンデッドは手の平にオーラを集めるだけだ。


 「はぁあああ!」


 「最強は最強でも、悪には勝てないんだよ!」


 不敵な笑みととみに放った言葉と同時に、火花を散らしながら剣と手の平が突打ち合う。

 接触と同時に剣に秘められたオーラが罰初の勢いで炸裂するが、それを覆い包む勢いで手の平に広げられたオーラが包んでいく。


 「どうやらこれを見る限り、相性が悪いっていうのは確実みたいだけどよ、この状態からどうやって逃げるんだ? アーノルドォ?」


 力のなくなった剣を離さない勢いで握りしめ、その顔には嗜虐的な笑みを浮かべている。


 「剣を手放すことが出来なければ、このまま殴り殺されるってわけか」


 「中々に面白いバッドエンドじゃないか?」


 「……それで終われたならな」


 ヴァンデッドの発言が、唐突にデュソルに余裕を持たせた。


 「王は絶対に、死なせないぜ?」


 一閃。


 目にもとまらぬ何かが、デュソルとヴァンデッドの間で駆け抜けた。


 「雷爪の覇者グリプトン、馳せ参じちゃったぜぇ!!」


 気づけば。

 デュソルの目の前で腕が鮮血と共に飛んだ。


 「っな!? 手が……っ!?」


 驚きの表情を隠せないままのヴァンデッドに、更なる追撃が降りかかる。

 矢による攻撃だ。


 「紅蓮蝶!」


 放たれた矢は、炎を放ちながら蝶の羽を持ち加速を繰り返し、やがてはヴァンデッドの右肩を穿った。


 「ビリー君も、それにみんなもいるんだなぁ!」


 その声に背後を振り返ってみれば、そこにはビリーを筆頭とした平和の兵士たちが武器を取り勇んでいた。


 「これが俺たちに総力戦、ハッピーエンドってやつなんだよ!」


 「っぐ、そんなのが、どうしたって言うのだっ!」


 苦汁を浮かべる表情で、腕先の無くなった腕の斬り跡を握り絞めて血を止め、顔には憎悪を滲ませている。


 「どうしようもない戦力差。絶望的な状態には悪役は相応しいな」


 「そうだな。正義にとっては最高の晴れ舞台だぜ?」


 「笑えて来るよなぁ」


 ヴァンデッドが目を瞑り、銃を握りしめた途端に、崖が揺れ始めた。

 地面には蔓延るように広がるオーラが、平和の兵士たちの足元を掬うように蠢き、顔には不快感をにじませる。


 「くそっ、なんだよこれ!」


 粘っこく張り付いてくるその沼のようなオーラに不快感から苛立ちに変わる。


 「本命はそれじゃないんだよ。本命は……」


 次第と強くなっていく地震。

 崖上でのものもあり、ポロポロと小石や、怪我で済まなそうな岩なども降り注いでくる。


 頃合いと見たヴァンデッドは、一際強く地面を蹴った。


 「崖雪崩さ」


 「っ!? まさかッ!?」


 急いで視線を受けに掲げてみれば、ゴロゴロゴロ! と腹の底を揺さぶるような音が鳴り響くと同時に、崩れた崖が落ちてくる。


 「馬鹿かよクソッ! 盾隊隊長、ブラディ・エンダロス!」


 「あぁ! 今展開する!」


 群衆の中から飛び出してきた猛虎、大楯を掲げる盾隊隊長のラグル・エンダロスが現れた。

 すでに駕護は発動されており、掲げる大楯には緑色のオーラが纏われていた。


 「盾感覚譲渡展開! 『大楯全開展開オールラー・シールド』!!」


 地面に突き立て、割れた地面から蔓延るように這うオーラが平和の軍隊全てを覆った瞬間。

 地面から抜き、その勢いのまま天へと掲げた。


 「展っ開!!」


 大楯の中心から弓が放たれるようにして緑色の閃光が放たれれば、上空で飛散するように円形に散り、それに沿うようにして円形のシールドが展開された。


 「みんな! 衝撃に備え――」


 デュソルの声は、下り迫る岩石などによってかき消された。

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