一定を失い。

「駕護! 『真偽・縮歩・抜刀』!」


 駆けだした刹那に、残像を残すほどの瞬間移動。

 姿を現したのはヴァンデッドの手前。後はデュソルが剣を振り抜くだけで決着を付けられる距離。

 現在の状態において、デュソルには負荷も何もかかっておらず、何の抵抗もない状態だ。


 「はぁっ!!」


 剣を振り抜き、狙った首筋への軌道には狂いなく。


 ――そして放たれた剣は、外れたのだ。


 「初めからエンディングなんて、中々に趣味の悪い結末を望むんだねぇ」


 「まさかっ。その程度で死ぬんならここには立ってられねぇだろう?」


 挑発気味に口をひらいたデュソルが辺りを見渡せば、そこには二人の戦慄の影響で意識を手放した者ばかりであり、皆が揃い膝を下しているのだ。

 脱力した体で立つヴァンデッドを対面してみれば、その実亮が同等かそれ以上ということが肌にひしひしと伝わる。


 「この俺からホライゾンの可能性を奪ったんだ。簡単には死ねねぇよ」


 「そうかよっ」


 憎悪の籠められた視線は、平然と振る舞うデュソルの内心に恐怖心を植え付けられる。


 「今、見失ったな?」


 「っ!?」


 ヴァンデッドが一瞬にして消えた。

 恐怖心によって揺さぶられた意識の一瞬の間に、ヴァンデッドは姿を消したのだ。


 「君は怖いんじゃないのかい?」


 背後からは銃の擦れる音、銃を構えたのだ。

 構えたソレを頭蓋に押し付けられたデュソルは、身体的に囚われのない身であるのだが、瞬時に行動の全てが制限される。


 「何にだよ」


 反抗的な口調で反論をしてみはするが、相手はデュソルの命を引き金一つで握っているのだ。どんな罵倒を繰り出されようともヴァンデッドの目に映るのは弱者の遠吠え。気に触れることすらないのだ。


 「一人で戦うのが怖くてたまらない。本当は弱い自分がここに立つ資格はない。どうせ強くてもそれは相手には及ばないかも、とか。自分のあふれ出る恐怖心が止まらなく怖いんだろう!?」


 「……っ」


 「最高、最高だよっ! その顔が堪らなく最高だよ! 俺から未来を奪ったお前のその苦い顔がなぁ!」


 銃を動かすことなく体を大きく揺らしながら哄笑する。

 そこに逃げ道などはなく、例えそれを逃れたとしても、ヴァンデッドの下に就いたガウェインが全力でデュソルの息の根を止めようとするだろう。

 その陣営に逃げ道などはなく、助かる希望も術もない。


 「だったらそれを、覆すだけだろ」


 「何……っまさか!?」


 デュソルの意図に気付いたヴァンデッドが半歩下がり銃口と頭蓋との距離vを十分に開け、引き金を絞る。

 その刹那まではヴァンデッドの銃口はデュソルのことを捉えており、そのまま頭蓋を容赦なく貫通し脳汁を噴出させるはずだった。


 「クソっ! やられた!」


 だが、銃弾を放ったっ刹那の銃口は、デュソルの姿を見失っていたのだ。

 ヴァンデッドとガウェインに囲まれた場所には出湯ソルはおらず、ヴァンデッドが焦りを表用に露わとさせながら「どこだどこだ」と首を震わす。

 だがその場にはデュソルはおらず。

 デュソルの居場所は、ここから離れ、ここよりも上空の場所。


 「ったく、ヒヤヒヤしましたよ。アーノルド様?」


 「あぁ、感謝するよ」


 調子着いた口調を使うビリー、もとい弓兵隊の奇襲場所だ。

 デュソルの首とも付近の鎧には何か巻き付けるような棘が付く矢が刺さっており、その先には長い糸が付いてあることから、戦場の中心地からデュソルを救いだしたのは、矢を使ったビリーだというこよが分かる。


 「ここなら安心して更新が出来そうだ」


 「そらそうっすよ。ここまでの武士を蓄えておいでなのですから」


 そういうビリーが目で刺したのは、デュソルの姿を迎える弓兵隊でありながらも剣や槍を持ち、並々ならぬ闘志を放っている兵士たちの姿だ。


 「そして次いでに、俺もっすからね」


 「それを自分でいうのか」


 「自分の強さは一番自分が認められていますからね!」


 上がった調子のまま、ビリーはカッコよく弓を構えて遊んでいる。

 そんなビリーの言葉に、ヴァンデッドに言われた言葉が胸の内で騒ぐ。


 一人で戦うのが怖くてたまらない。本当は弱い自分がここに立つ資格はない。どうせ強くてもそれは相手には及ばない、か……。


 ヴァンデッドに言われた言葉が、今の俺を指す言葉過ぎて反論すら浮かばないのだ。


 「なぁお前ら」


 気づけば、勝手に口が開いており、呼びかけられた兵士たちも、口を閉ざし君主の言葉に備え耳を澄ましていた。


 「もし俺が、この戦場で隣に立って戦ってくれないかと、そう言ったら、ついてきてくれるか?」


 震えた唇から出た言葉は一瞬にして場の空気を固め静寂を迎えた。

 気まずさのあまりに閉じた目が開けられずにいた。


 ピンと張った空気は、それだけで皆の口を堅く閉ざさし、ぐうの音すらも出させてくれない。

 そんな状態の静寂。

 それを、一つの笑い声が破ったのだ。


 「なんてこと聞いてんすか! そんなの、モチのロンで当たり前っすよ!」


 「……感謝する」


 震える唇から出る言葉は、これが精いっぱいのものだった。


 目を大きく瞑り、息を吐き替え、そして目覚めた。


 「ホライゾン、こっからの逆転だ。俺らに、楽しいハッピーエンドを迎えさせてくれよ!」


 『承認。新たな契約者、デュソル・アーノルドに、至高の結末を披露させましょう』


 グレードアップ。

 駕護が、自分を凌駕させた。


 攻めから、護りへと。


 進化した。


 『戦いの中で進化する。かっこいいとは思いませんか?』


 「カハハっ! イカしてんなぁ!」


 瞬時に笑みは消え、戦意が具現化する。


 鎧へ、母衣へ。


 そして剣へ。


 「平和の勢力。完全体にて、出陣だぁ!」


 ――おおぉ!!

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