交わる悲劇。

 「とりあえずはホライゾンを返してもらうとするかねぇ」


 剣の切先を突きつけられても未だ余裕の表情を崩さないヴァンデッド。

 こちらを貯発しているような顔持ちに、時折と揺らす銃口。まるで先手を譲ると誘っているようだ。


 「……もし、仮契約ではなく本契約を済ませていたと、そう言ったらお前はどう動く?」


 「ないな。そんなことはない。現に、その掻いた余裕がその証拠だろう?」


 「そうだな。なら、どっちつかずってことにしておくか」


 そっちが道化るのならば、こっちも同じく道化るだけだ。

 確証のない真実はb気になることは確かではあるのだが、こいつ、ヴァンデッド相手の場合はなぜかそれが逆に利用されて首元に刃を招く結果になりそうなのだ。


 ようするに、相手を下とみての戦略はまるで意味を成さないということだ。


 「面白い答えだ。そんなお前にプレゼントをあげよう」


 ヴァンデッドはそういって腰から取り出したものをこちらへと向けて、そして手を放した。


 なんだ、その黒い物体は。


 球体のような黒い物体はは地面に触れれば、コロンという甲高いまるで金属のような音が響き渡る。


 「見覚えが、ある……っまさかそれはっ!?」


 「残念ながら違う。本命はこっちだ」


 地面に落ちた手榴弾に似た黒い塊に息しを向けてしまっていたせいで気づかなかった。

 瞬間的にこちらへと迫ったヴァンデッドに。


 「生憎とおじさんは嬲り殺すのが大好きでねぇ! 簡単にこれで逝けるとは思うなよ!!」


 瞬時、腹部に衝撃が奔る。

 ショットガンで打たれたのではない。拳で殴ったのだ。

 威力自体は今のデュソルには注意視するものではなく、ただの強打と変わらない。だが衝撃が予想外のもので、簡単に片足が地面と離れ体勢が維持できない。

 そんな状態のデュソルの目にはいってきたのは、ヴァンデッドの二撃目。


 「そらぁ!!」


 今度は拳ではなく、手に持つショットガンのブリップ部分での突き出し。

 拳よりも硬さを持つそれは簡単にデュソルの腹部に食い込み、鈍痛を滲ませる。


 「ほらほらどうした? 俺に勝たないとこの戦争は終わんねぇぞぉ?」


 痛みで腹を庇いながらよろけるデュソルに、更なる挑発を仕掛けてくる。

 今すぐに反撃をしたいという闘争心が沸々と込み上げるのだが、どうしてか先ほどまでのように体に力がでない。


 「どうしてっ、どうしてだよぉっ!」


 血が滲むほどの力で拳を握りしめるのだが、その腕には先ほどまでの力の満足感は訪れることはない。

 それでもヴァンデッドはお構いなしに拳を放ってくる。


 「ほらほらっ! さっさと反撃でもしてこねぇと嬲り甲斐がねぇじゃねけかよ!」


 煽る口調と共に繰り出される拳は、まるでワンツーとボクシングのようにくりだされ、左右に顔が殴られる。


 「……わからねぇのかよ平和の」


 「なんだよガウェイン!」


 何事も上手くいかないという苛立ちから怒鳴り声を出すが、ガウェインはそれで気を荒立てる、ということはなく、申し訳なさそうに悲しそうな顔をしたまま呟き程度で口を動かした。


 「駕護が切れかけてきている。それだけの話だ」


 「だったらどうすりゃいいんだよ!」


 「そんなの、奇跡の祈って死ぬしかねぇ……すまねぇな」


 きっとこれが憂慮の正体なのだろう。

 戦い、認め、負けた相手が自分の望みもしない形で殺してしまうのだ。騎士の誇りが存在しているのならば無視することは出来ないものだろう。


 「それで、アーノルド? それが分かったところでどするんだ?」


 「どうするって。そんな俺に戦意があることが驚きなのか?」


 「そうだねぇ。でも、嬲り甲斐はありそうだ」


 デュソルの挑発に、ヴァンデッドは片腕でショットガンを構えることで答えた。


 「……やるのか?」


 「やりたいねぇ……今すぐにでも」


 デュソルは剣を構えヴァンデッドを捉え、ヴァンデッドはデュソルに標準を合わせた。


 風が吹き、殺気が蔓延し、皆が息を飲む。

 傍から見ても結果は明らかだろう。剣と銃、それも今のデュソルは駕護が切れかかり、まるで本気を出せない状態だ。釣り合うどころではなく、銃に一方的に蹂躙されて終わるだろう。

 だが、デュソルからは余裕の表情が抜けることはない。


 「第三の奇襲でも用意してるのか?」


 「まさか。言うわけないだろう」


 ヴァンデッドは答えに期待はしていなかったのだろう。デュソルの返答をそこまで気にすることもなく、静かに引き金に指を添えた。


 「生憎と不安要素だから。早急の退場をよろしくするよ」


 バンッ。


 人を殺す音が、まるで人を人と見ない言い分で放たれた。


 息を飲む暇もなく、玉はデュソルの眼前へと迫り、死を香らせる。

 そんな状況になってもなお、余裕な笑みを崩さない。

 答えは簡単で、すでに口に出していたとこだった。


 「ホライゾン、開放だ」


 『了承』


 短い機械的な声の返答の直後、デュソルの足元からは前と同じように渦巻くように黒のオーラが巻き上げた。

 瞬時に姿は消え、眼前へと迫った散弾は何の抵抗もなくその場を通過した。


 「駕護、『真偽・縮歩』!!」


 次はデュソルがヴァンデッドの眼前へと迫った。


 「っ何故に!?」


 「相当驚いているようだな。特別に教えてやるよ」


 鼻先同士が触れるほどの距離で、デュソルはニヤっと笑みを浮かばした。


 「俺が、すでにホライゾンとの本契約を終わらしているからだよ!」


 力強い踏み込みと共に突き出した拳ではあったが、ヴァンデッドはそれを簡単に防ぎ、衝撃を殺しながら飛んでいく。


 「まさかっ、まさか! ……キサマァッ!」


 「そんな怒るなよ。初めに俺は言っていただろ? もし俺が本契約を須磨s来ていたらどうするかって」


 「……っ!!」


 八つ当たりのつもりなのか、悪鬼の如く表情でこちらに向かって大きく足を横で振りぬいてきた。

 当然届くわけもなく、衝撃もなく。


 「……っとこれが本命かい?」


 デュソルは瞬間的に目の前に現れた針を人差し指と中指で止めて見せた。

 足での大振りで体の大半を隠し、その刹那に針を投げてきたのだ。


 それを当然のように防いで見せたデュソルに、ヴァンデッドはさらに怒りをあらわにさせた。


 「そうか……そうかそうか! お前の、お前のせいで俺の計画は台無しになったのか。こんな餓鬼に……。ハハッ、いいだろう。捻り潰してやるよッ!!」


 戦意が跳ね伸び、駕護が現れた。

 ようやく本気を出すということなのだろう。

 本気を出すヴァンデッドに釣り合わせるように、デュソルも明らかな戦意を現した。


 「正面衝突! 面白い、やってやるさ!」


 そういうとデュソルは剣を投げ捨て拳を構え、それを見たヴァンデッドも同じように銃を投げ捨て、拳を構えた。


 「はじめようぜ! 最終決戦!」


 そしてともに駆け出した。


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