終敵が現れ。

 「未来は自分で切り開く。それこそ、望む未来ならなおさらだ。だから俺は、ここで加減はできないぞ」


 「覚醒早々決着をつけるってことかい!」


 「これでも騎士王としての誇りは捨てていない身だ。簡単に落とせると思うなよ?」


 焦燥が顔に浮かぶ二人ではあるが、未だ絶望は見えない。

 自らの脚で立つその様は、まさに英雄。

 騎士王に相応しい立ち姿だ。


 俺らもいくぞ!


 負けてられねぇぞ!


 ぽっと出の勢力だ! 旧友がなんだ! 裏切者には断罪を!


 二人の騎士王の背中に焦がれを抱く兵士たちが、地に伏せた状態から続々と戦意を表してくる。

 剣を取り、槍を構え、矢を番え、盾を掲げる。

 それぞれの目には強い意思が現れ、それがそれぞれの勢力を勢いづけさせる。


 「私もっ……まだぁ」


 一度は倒れた身ではあるのだが、未だ諦めることはないアイリ。

 すでに握力がないのだが、ククリナイフを無理やりにも握りしめて立ち上がろうとする。


 「……アイリ」


 「……っはい」


 歯を食いしばり悔しそうな顔を滲ませるアイリ。


 「そこで待ってろ」


 「はいっ……」


 悔しい。

 その感情が伝わるほどに顰めた顔をするアイリ。

 だがその思いの根底には、もう一つの思いがあった。


 カッコよくなった、という乙女の感情だ。


 いつも護る側であったために守られればそれは恥と変わるが、それでもアイリは恋する乙女。純情な感情に逆らうことなどできないのだ。


 だから。


 「負けないで」


 「当たり前だ」


 ――勝ってくる。


 デュソルは答えた。


 「愛しの騎士様のためにな」


 恥ずかしさの仮面の下に、愛と確信を秘めて剣を抜いた。


 絶対勝ってやる。



     *



 デュソルが剣を抜いた刹那、足元からは戦意に扮した駕護が渦巻くように吹き出す。


 「こいつまだ上があんのかよ!?」


 先ほどの現象で今まで以上に力の跳ね上がったデュソルの戦闘能力に驚きを隠せないガウェイン。


 たかが剣を抜いただけ。

 

 たかが確信を得ただけ。


 それだけなのに。


 「今はそんなことを考える余裕なんて、ねぇな」


 頬に垂れる汗は、デュソルから向けられるプレッシャーそのもの。

 油断の一つもかけやしない。

 じりじりと場を詰めるように足を進めるデュソルに、その一挙手に神経を集中させる二人。


 不意打ちの一つでも逆に利用してやろうと意気込みで剣を握る。


 「来ないなら、行かせてもらうぞ?」


 刹那、揺れる殺気に翳る圧力、消える存在感。

 やられたという風に勢いよく体を戦闘態勢に切り替える二人だが、その姿を目に拝めることはない。


「こっちだ」


 突如と背後から迫る声。

 驚きのままに振り返り剣の切っ先を突き出すが、その先はただの虚空。


 ならば先ほどの声はどこから?


 その隙の数秒を見逃せるほどの余裕は戦場にはない。


 デュソルは勇者でも魔王でもなく。


 ――タダノ最強ナノダカラ。


 「気づけよ。ブラフだよ」


 姿を現した場所、それはガウェインたちが後ろを向いた状態の背後、すなわち元々の正面ということなのだ。

 隙として晒したを攻撃するほかデュソルには選択肢はない。


 「おらぁ!!」


 殴打。振り抜いた足での回し蹴りがカサブリアの横腹を直撃し、一瞬にし失せるように吹き飛ぶ。


 「まずは一人、戦場離脱だな」


 騎士王対手にそう言ってのける自身の表情は、足の当たり所が良かったのか、感触が内蔵を破壊したものだったのか。どこか確信したものだ。


 「さて、残るはお前だけ。どうする?」


 背を向けて動くことはないガウェインの背に刃を突き立てながら、あからさまな逃げ道敗北を用意する。


 答えは決まっているだろう。

 騎士王の誇り以前に、勢力を動かす一人だ。ここで死ぬまで戦うほどこの戦争に意味はないだろう。


 だからきっと敗北を選び、勝利を手にできると達観していたのだ。


 達観して、余裕を漕いて、深読みを止めていたのだろう。


 「いつから、俺だけだって言ったか?」


 「……なに?」


 第三勢力。平和の裏、闇の第三勢力を忘れていたのだ。


 「対等と戦い、誇り高き騎士だと欽慕の念を抱き。そして裏切られたとしたら」


 ――それは最高の終結バッドエンドではないか?


 溢れ揺れる群衆の中から、一人の堀の深いような声が辺りに響き、徐と一人の初老が現れた。


 カウボーイのような装いで、肩には担ぐようにポンプ式のショットガンを背負い、ガウェインの背後目掛けて進みだした。


 「久しいねぇ、アーノルド君」


 「……っ!?」


 突然と呼ばれた自分の名前に驚きを隠せないデュソル。

 こっちの世界にきてから何度か初対面の人と対談などを行うこともあったが、どうしても顔が被ることは一切とない。


 だれだ。コツは誰なんだ?


 憶測をかさねるが、この世界で会った中ではそんな人物はいない。


 ならば。


 ……ならば転移前か?


 「今の状況を見る限り、どうにか戦争は終結は目指せそうだ。よかったねぇ」


 「……あの時のジジイか」


 思い出せた。転移前、俺をたきつけてきた奴だ。


 「でも、甘かったね」


 「どうしてだ? この状況を見て、どこに俺の不利がある?」


 ほんのすこし、自分でも口調が早くなるのを感じた。

 どこに不安があるのか。

 どこに不利があるのか。


 どこに。

 どこに……。


 「その思考自体が、前提的に負けなんだよ。俺たちには」


 「……平和の。お前がうちのとこにきたときには、すでに裏で繋がってたんだよ」


 「……そういうことだったのか」


 俺が平和の勢力を作る条件は闇の第三勢力、月夜の反逆壇ナイトレイドの排除であり、それを要求してきたということは、自らでははうじょが出来ず、かと言って無視をできるほどのものではない。

 つまり。


 「どうも、ヴァンデッド・ガイスタント、ラスボスだ」


 ――最終決戦ってわけだ。


 面白い、やってやるよ。


 「戦争を終わらせる者、デュソル・アーノルドだ。なんの思いがあるかはしらんが、それらすべて、押し通させてもらう」


 「いいねぇ、そうこなくちゃ、面白くないからね」


 二人はいがみ交しながら、切っ先と銃口を向け合った。

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