主人公は覚醒を迎える。
白の世界で、意識は朦朧として。
それても命はしっかりと覚醒している。
――可能です。
俺はそんな抑揚の屈託もない声を聞いた気がしたのだ。
これはそう、きっと反転のアクティベートを行うための過程。
俺が、最強になるための……。
同調開始。空間リソース消費。事実変更を実行します。
作動確認できず、エラー発生。
空間リソースの不足が確認。
システムの変更を提案。
虚構数値のオーバーリテイク。
強弱の反転だけを実行し、リソース消費を削減。
システムの完了。
あの時と似たような機械的な声が俺の脳内を牛耳って。
頭のてっぺんから足のつまさきまでが何かが中で蠢くような感覚が奔って。
気色悪いとは違うが、それでも未知な感覚があって。
身体が熱くなって。
身体がふわりと待って。
――感覚が入れ替わった。
「おい、俺のアイリに何をしてんだよ」
目を開けたその刹那には、俺は
「んぁ? 平和の、今なにか俺に言いやがったか?」
アイリの頭を踏む手前のガウェインが、ギロリとデュソルを睨みつけた。
その眼光には眼窩一杯から放たれる殺気を含んであり、周囲の空気には戦慄が宿る。
「俺のアイリに、なにをしてるんだと言ってるんだよ」
殺される、瞬殺されるという可能性を含んだこの瞬間に、デュソルは自信を表す声を放った。
憮然と振る舞うその様子は、まるで王。
今まで備わっていなかった壮観さがそうやく尾びれを連れてきたというものだ。
身体からは外皮に纏うように漏れるオーラは黒色。
それはまるで今のデュソルの目に似ており、残酷の淵を知ったようだ。
「……こっちの女が強くなったと思ったら、今度はお前もか、平和の」
「……ガウェイン、今のアーノルドはあまり下と見るな。あの駕護を見る限りすでに牙は研がれているぞ」
カサブリアがガウェインに耳打ちをするが、当のガウェインはまるで気にする様子は一切となく、戦意を鬱勃とさせており、まるで鬼神の如くの形相で頬を緩ませていた。
「そっちの方が面白れぇ。なにより、王に牙を向くって、そうそう出来ねぇことだろ?」
「ふっ。お前はいつもそうだったな。いつでも面白そうなことにリスク関係なしに首を突っ込んで……」
目を閉じ、開けた。
その目には確かな戦意が宿り、隣のガウェインに似せたような笑みを浮かべた。
そして、メリケンサック同様のナックリガードを付けたナイフを鼓舞しに嵌めた。
「今回ばかしは俺にも一枚、咬ませてもらうからな」
「一枚と言わず二枚はやるよ」
「妥協しても一枚しか増えんのか!」
軽口を交す二人の脳内では、勝つためのビジョンが寝られていた。
斬り刻むか。
殴り殺すか。
叩き潰すか。
だがそれでも、二人の思考の先に勝利の一言が浮かぶことはなかった。
不安になる。
負ける。
死ぬ。
勢力が落ちる。
様々な負の憶測が脳内を駆け巡るが、それでいても二人の顔から笑みが落ちることはなかった。
「不利だと分かっていても。実力が及ばないと分かっていても」
「それだからこそ面白いんだよ」
――戦争はこうでなくっちゃ!
ドッと、二人のからだから駕護のオーラがあふれ出す。
「『反転』!」
「『支配』!」
――さぁ! 始めようか!
空気が触れ、戦慄が震え、二人が駆けた。
半瞬遅れた刹那にはデュソルも遅れたように姿を消し、同時に呼吸が溢れた。
「潰れろぉ!」
「吹き飛べぇ!」
上段からの振り下ろしで脳天から叩き潰そうとするデュソルの剣と、それを『反転』を使い弾こうとするガウェインの剣。
それが接触した刹那には衝撃波が発生し、二人を中心としてクレーターが完成した。
「まだ俺もいるんだぞ、アーノルド!」
真横から駆け出したカサブリアの、踏み込みと同時に放たれた鋭い一撃、カサンドラス式拳法流嵐突きだ。
流嵐突きは精確にデュソルの横腹を捉え、デュソルもガウェインを相手取っており対応する術がない。
まさに完璧の状態だ。
デュソルが最強でなければ。
「んな!? まさに化け物じみた力だな!」
デュソルの横腹を狙った攻撃は、デュソルによって防がれたのだ。
両手で持っていたはずの剣から片手を外し、片手でガウェインを、片手でカサブリアと防いでいるのだ。
「おい秩序の! なんでかこいつに『支配』が効かねけぞ!」
「そんなことは初めからわかっていたことだ!」
二人の顔には焦りが見える。
ガウェインは駕護である『支配』が効かずに。
カサブリアは駕護である『反転』を使用しているのにも関わらず、デュソルの片手すら動かせない事実に。
「いったん退くぞ! このままじゃ潰される!」
「なら隙は作る! その間に勝手に活路でも見いだせ!」
「あぁ! 感謝はしてやる!」
腰に溜めを作り、デュソルの剣を押し返そうとする。
だが一人の力だけではどうにもならず。
「カサンドラス式拳法! 百八式乱打!」
防ぎ手に接する拳を勢いよく引き返せば、歓声を利用して逆側の腕を動かし拳を放ち、それからは先ほどの繰り返し。
目にも止まらずの速度で繰り出される乱打を、たったの片手を器用に動かして全て防いでいるのだ。
「片手で全て対応してくるんなら、さらに上の速度で放てばいいのだ!」
拳を引き、腰を沈め。
「なんて、言うと思ったか?」
とても速い速度で拳を放ってくる、と思わせ、一撃強い攻撃で一気にカードを突き破る。
そのつもりで放ったものだったのだが。
「それが、どうかしたのか?」
いとも簡単に止めて見せ、不敵な笑みを浮かべていた。
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