場は揃い。
「カサブリア様に緊急の連絡! 第三勢力の平和がガナリア平原に現れ戦争に参戦しました!」
秩序の潜伏場所、カナヤ山脈の山麓で声が響いた。
焦ったような表情と顔に浮かぶ脂汗がどれだけ切羽詰まっているのかが分かる。
「そうか。それで、肝心の戦局はどう動いたのだ?」
「はっ! 平和の奇襲により、交戦状態にあった正義と秩序は二つに分かれ、平和を板挟みとして三勢力が交戦中。現在の優勢勢力が平和です!」
「……わかった」
嘆息を吐けば、即席であった野営場を見渡した。
即席ではあるが一定以上の生活水準はあり、食事スペースに就寝スペース、浴場スペースなどがあり、兵站の備蓄用の倉庫は都市カサンドラスから移動したものであり、生活
する上での不便はないと言えるほどのものだ。
「では私は戦場に戻るとする。留守になった際に何かあった場合は、全権をテュフォールに委ねる」
「畏まりました! テュフォール殿にはそのように申しておきます!」
「あぁ。頼んだぞ」
「はっ!」
一際引き締めたような返事を聞けば、深く腰掛けていた椅子から腰を上げた。
その動きのまま躍動感のあるようなほどに翻させた母衣を羽織れば、しわの出来た戦袍を伸ばす。
一通りの身だしなみを整えれば、腰に佩くベルトに剣を挿した。
「行ってくる」
「はっ! ご武運を!」
床を踏み鳴らす気分の良い具足の音を響かせながらカサブリアは扉を開いた。
*
「打ち下せ!
「弾き返せ!
正義の戦士が頭上の上で上段に構えた大剣を持つ男からは赤色の光が淡く迸り大剣を彩れば、駕護が発動され、それを振り下ろした。
そして平和の戦士も、構えた大楯に緑色の光を纏わせ駕護を発動させ、振り落とされた正義の攻撃を防いだ。
「うっ……ぅぉおおお!」
「くっ……っはぁぁああ!」
全体重を乗せながら振り下ろす男と、屈強な魂の元でそれを押し返す男。
互いの間で生まれたエネルギーは地面にクレーターを作り、発生した衝撃波でくうきを巻き上げ、周囲の人間を吹き飛ばしていく。
均衡は保られており、押して押されてのままで、互いの顔には疲労が浮かんできていた。
どちらかが気を抜いた瞬間にそれは崩壊する。
そう予感していた刹那。
遠くの遠く、ブリド山脈の頂で第一弓兵隊の隊長、ビリーが細く微笑みながら弓を構えた。
「敵の駕護持ちは潰しておきたいし、味方の駕護持ちは生かしておきたい」
矢を番え、鏑籐に人差し指を宛がった。
「不意打ちだけど、謝らないよ」
――戦争だからね。
瞬間にどっと殺気があふれ出し、駕護を使用したのか、足元から巻き上げるような紫色の風が吹き上げ、鏃へと終結した。
「穿て。七式、三の矢、
ギュっと捩じるようにして弦を引けば耳元で止め、深呼吸をして。
ニヤリと微笑み指を離した。
ギュギュギュン! という幼稚な擬音でした表せないような機械的な音の元で放たれた矢は、高速を通り越し光速、まさにビームのように漆黒の色を纏いながら、頂から弧を描きながら山麓へと下ってく。
「俺はっ! この戦いで功績を上げて正義の中で地位を上げるんだ! その為の踏み台になれ!」
「俺は平和のために! この世界の新たな形の橋掛けの貢献をするんだ! だからっ! 負けるわけにはいかないんだよぉ!」
刹那に。
大楯に掛かる圧力がなくなった。
「っ!? 衝撃吸収! 反転、放て!
とっさの判断で押し返す力を止め、今度はその場に残ったエネルギーを吸収し、そして放出させる。
もちろんその先は群れる敵軍だ。
「はあああ!」
大楯で空を薙ぎ払うようにして振るえば、大楯が吸収したエネルギーを放出し、空気を揺らしながら突き進み、敵軍を大きく減らした。
その勢いのまま振り返り何かが――黒色の矢が飛んできたほうに目を向けた。
男の視線の先には、親指を上に向けグッジョブサインを送るビリーが見え、不意と口角が上がる。
「このままいくぞ! 近接部隊、突貫せよ!」
『おお!!』
男の掛け声の元で、剣や槍を構えた近接部隊が激走をした。
「風よ! 振りぬけェ!!」
長剣を構えた男が、敵陣手前まで走れば刀身に発動させた駕護で風を纏わせ、一機に振り抜いた。
風の纏った長剣は、その切れ味を伸びる風にも与え、大きな半円を描くようにして敵を切り裂き、鮮血を散らした。
「つぎぃ!!」
長剣を振り抜いた男がおおきく声を張った。
それは続くように技を出す、など人間離れしたものではなく、おおわざを放ったせいでの膠着に陥り行動不能なため、隙を逃さぬために他の仲間に突貫させる、
いうものだ。
敵軍たちにはそれを理解できず、膠着状態の男に群がり命を奪おうとする。
だが、それは囮であり、餌であるのだ。
「駕護、『切断』!!」
どこからか飛び上がってきた男が、敵前と着地する寸前で居合を放った。
夜桜色の鞘から抜き放たれた刀身は鈍く赤く光り、一瞬で姿を滲ませる。
次の瞬間には。
「駕護、『縮歩・絶刀』!!」
回転をしながら刀で相手を切り裂き、その場から離れ納刀した。
その際に通った道筋には砂埃と、若干の焦げを残していた。
「――さぁ、かかって来いよ?」
長剣の男に襲い掛かろうとしていた敵勢は全て、細切れにされ地面へとぼとぼとと落ちていった。
場には恐怖により張りつめた空気と、それを上から圧縮さえるような平和の勢力の殺気が制していた。
誰も動かず、誰も喋らず。
戦局はまるで動かない。
そのはずだった。
「ちょっとばかし、登場が遅かったかな?」
「随分と派手に、殺してくれたようだな?」
膠着状態であったはずの戦場に、正義の騎士王ガウェイン・クラウディスと、秩序の騎士王カサブリア・ガイデンが集った。
「ついにお出ましたぁ思ったが、随分と気取った登場じゃねぇかよ」
握りに手を宛がい鞘を押し出し、いつでも居合の出来る体勢の刀使いが騎士王たちを睨む。
それに続くように平和の勢力は皆仇を見るような目で二人の騎士王を睨む。
「その様子じゃ、俺はあまり歓迎されていないみたいだね」
「あたり前だろ秩序の。何か理由があって秩序から抜けたんだろ? なら仇も同然だろ」
「……それだったらなぜお前にも敵意の目が向いてんだ?」
「そりゃ……わかんねぇけど、んなもん殺せばいいだけだろ」
逡巡の顔を浮かべた後には瞬時に殺気が帯びた。
重圧が場には圧し掛かり、先ほどまで簡単に構えていた剣や刀、槍や盾でさえも持つことも困難と思えるほどになる。
「どうしたんだ? たかが殺気で駕護持ちがこの程度なのかよ」
「っ……はは、まさか。これくらいでエンジンが掛かってきたってもんだよ!」
大声で自らを鼓舞するように猛然とさせれば、刀を抜き放ち躍り出た。
刀身には黒色の焔が灯り、その周囲の待機には陽炎が発生し熱量を持つのは明らかだ。
「駕護! 『
黒煙を纏った刃が、ガウェインの首元を狙い迫り出す。
命を狙われているという当のガウェインではあるのだが、表情には恐怖など一切なく、笑みが浮かんでいるのだ。
「統べよ、『支配』」
徐に上げた手を刀使いに向ければ、細く笑みを刻んだ。
その刹那には、刀使いは力なく地面へと転がり込んだ。
「ぐっ!? な、んだよ!」
「何って。お前の意思を支配しただけさ」
そういうとガウェインは男の近くに歩み寄り、剣を抜き放つ。
「めざわりだから、とっとと死んどけ」
高らかと掲げられた剣は勢いよく振り下ろされ、刀使いの首を斬り断った。
――そのはずだったのだ。
「ははっ。ヒーローは遅れて登場ってか?」
「ようやく来たか」
『平和』
二人の騎士王の目が、余裕は興奮から、まるで獲物を舐め見るようなものに変わり。
「ま、間に合うかは若干の賭けだったけどね」
平和の王であるデュソル・アーノルドは微笑み、平和の騎士王アイリ・ヴェルクーリはガウェインの剣をククリナイフで受け止めていた。
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