軌跡は自ら歩むのみ。(勢力の建設をする)

 デュソルたちは、両勢力の王と会談最中に宣言した通り、新たな勢力である平和を築き、与えられた領地に建てられていた屋敷のような場所にいた。

 木造の二階建てであり、デュソルたちは二階の、床に絨毯が引かれ、壁などには豪勢な装飾などが施されている。


 勢力を作ったし、場所は……まぁこれから作るし。

 必要なのは勢力、兵力の問題だ。

 勢力を作ったところで、肝心の戦争に内カス力がなければただの雑魚に成り果てるだけだ。


 「……なぁアイリ。どうすれば人は集まるか。考えはあるか?」


 「私に聞かれても。でも手っ取り早いのは、どこかの広場で講演でもしてみれば?」


 「……俺がか?」


 訝し気に覗き込むように聞いてみれば、おかしいように笑いを浮かべながら小刻みに何度か頷いて見せる。


 「苦手だってことはわかってる。でも、一勢力の王なら、そのくらいの技量がないとダメ」


 「ダメって……。でも、やっぱりそれくらいしか他に方法はないか」


 「うんっ。うんっ!」


 「……なんでアイリはそんなにめを光らせてるんだよ」


 諦めるように認めれ見れば、突然と目を輝かせながら激しく頭を上下に振るう。

 驚きからなのか、喜びからなのか。

 アイリは目を大きく日垣ながら嬉しそうにしいた。


 「だってデューの晴れ姿だもん」


 「晴れ姿って。俺は今から底化の小学校に入学しに行くのですか?」


 「私のお婿に来るんじゃないの?」


 「ばっ! ……はぁ。行かねぇよっては言わないけど、今はそんなことは考えてない」


 それに戻った時に辛くなるだけだから。

 暗くなる気持ちを抑えるために、意地っ張りでも表面だけは取り繕うと淡泊で不愛想な鉄仮面を張り付ける。


 それが鍵になったのか。

 椅子に座るデュソルの目の前に立っていたアイリが、突然と足元の絨毯に座り込んで泣き始めたのだ。


 「うぅっ。お父さん、お母さん。私、デューに無表情のままこっぴどく振られました……。これからは、私のこれからはどうすればいいのでしょうか……っ」


 わざとらしいが、デュソルにはアイリの行動はわざとなのか本心から来るものなのか判断が着かない。

 嘘だったら「騙したなこんちくしょー」と罵ってしまえるし、本当だったなら嬉しさ半分戸惑い半分といった具合になるだろうし。


 そんな逡巡をむかえているが、先ほど発言したように今はそんなことを考えている暇はないのだ。


 だから、せめてもからかわれる甲斐性だけは残さなければ。


 「お前ならわかるだろう? 俺は嫌でお前への婿入りをことわったわけではない。俺の心が分かるお前なら簡単なことだろう? だから俺はこの先はもう言わない」


 終始早口になったデュソルに、アイリは顔を上げて軽く微笑んでみれば、いたずらっ子な表情で口を開いた。


 「恥ずかしいから、でしょ?」


 「あぁそうだよこんちくしょー!」


 これからの勢力の運行についての話題は一切上がらず、数刻ほどは耳障りの良い喧騒が続いたという。



     *



 さて、本格的にどうすればいいかと悩んでいるところなのだが。


 アイリとのふれあいは一段階着き、デュソルは部屋の中央奥に設置された机で頭を抱えながら呻りをあげ、アイリはデュソルの近くに配備されたソファに座り優雅に紅茶を嗜んでいた。


 「講演や演説をするのは構わないが、内容をどうするか、なんだよな」


 グリゼンとブリデッドの両勢力と公約を結んだ際に出した、月夜の反逆壇ナイトレイドの全面的の引き受けや、せんそうを止めるために行動を起こそう! なんて言っても、大して集客は望めないだろう。


 ……何かないだろうか。


 「デューが思ってることをそのまま口にすればいいんじゃないの? せっかく尖れた本心があるのに、わざわざそれを鈍らせるのはもったいない」


 「そういうものか……って今は勝手に心読むな」


 「むー。だってうるさいくらいにどうすればいいのかって言ってたものだから」


 「まぁ考えてないって言えば嘘にはなるからな……ありがとうな。参考にさせてもらう」


 「うん」


 誉められたのが恥ずかしいのか、頬を赤らめながら頷くアイリ。

 どこか愛くるしさを覚えさせる姿に、デュソルは若干微笑ましそうに口元を緩ませれば、その次には、逡巡をするように眉を顰める。


 「ギャップ、か……」


 「……ギャップ?」


 可愛らしく小首を傾げるアイリに、「それだよそれ」と面倒くさそうに言うが、理解の届かないアイリは真剣そうな眼差しで顔を俯かせた。

 数秒ほど悩ませるが、ぱっとデュソルに向かって顔を向ければ、先ほどと同じように小首を傾げながら「わかんない。ギャップが何か」と言って足を組み、腕も組む。


 「そうだな。簡単に言えば……、兵力が欲しいって演説をするとき、戦争を止めるために協力者が欲しいーっていうのが邪道っていうのなら、その価値観を利用して逆に注意を引いてみようってことだよ」


 「それだと糾弾の的にならないかしら?」


 「朱に交われば黒に染まれ。これが対立する二つの勢力に対しての手向けになる。それが目的だ」


 「なら、やっと『宣戦布告』ってこと?」


 眼光を鋭く光らせるアイリにデュソルは「怖い怖い」と冗談めかして口にして。

 頭にかぶる帽子を手に取り外せば、下ろしていた髪をかき上げ、そっと帽子を膝に下した。


 「あぁ、こっからが本番、こっからが知戦だ。まぁ、覚悟してろってことだな」


 帽子が顔を過ぎた頃には、腑抜けたような目は存在しておらず、復讐の炎が奥で燻った目に、大きく開き不敵な笑みを浮かべている口。

 道化師のようなデュソルが、そこにはいた。

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