進む時は巻き戻り。(記憶の通りに過去は進んでいく)

 デュソルたちは、先ほどの木の元から数分歩いた位置に築かれた城壁の中の都市、秩序の勢力が統べる都市カサンドラスに戻ってきていた。

 門に入ってからの苔の生える石レンガの道をアイリと共に歩いている。


 「おぉアーノルド! 帰ってきたなら早く見回りに行ってこい! それと、アイリちゃんとのデートも含めて、な!」


 二人寄り添い歩く中、何度か肩が触れ合う中でそろそろ手を放そうかと考えるときに飛ばされたヤジにも似たもの。

 なぜか慌てるようにして振り返れば、そこにはニヤニヤとした懐かしさの覚えるような顔の、鍛冶屋のおじちゃんがいた。


 「わかってるよ! 見回りはあとで行くから!」


 「デートには?」


 「……着いてくるならご勝手に。エスコートぐらいはしてやれる」


 「そう?」


 どこかあっけなく、淡泊に反応するアイリ。

 それでもそれは口先だけ。アイリの握る手の平は、繋ぐ手を放そうとするデュソルの意思と対するように握る力が強まるばかりだ、


 どこか懐かしい。その理由に気づいたのはまさにそれが、手を繋ぎ一緒に歩いてくれるという存在がいて気づいたことだった。


 鍛冶屋のおじちゃん、普段からあんな顔してたっけ?


 デュソルの記憶いのなかには、普段から、ましてや昔からそんな顔をしていた頃の記憶なんて薄れて思い出すことすら困難なのだ。

 きっとそれはアイリがいたから。アイリが昔から変わらずの愛情を俺に向けていてくれたから。

 だから。俺はこの手を放さない。


 「おじちゃんにそそのかされたんだ。そそのかされたから、だからな......」


 「わかってるよ。デューの口からは私とデートとかしたいなんて言えないから」


 ほんの少しはにかむように微笑を浮かべればすぐにその微笑は鳴りを潜め、いつものも頓着な無表情に表情を上書きした。

 そして、アイリの手を引く力が強くなったような気がした。


 「それじゃあおじちゃん。行ってくるよ」


 「おう! とっとといって男女の悪戯でもしてこい!」


 「散歩には行くけどそんな青姦まがいなことはしないからね!?」


 おじちゃんの突然の冗談に慌てて否定をいれれば、おじちゃんは楽しそうに大声で笑い声を上げ、「わかってるわーてるっ!」と豪快に背を叩いてくる。


 「んじゃもう本当にいってくるからな!」


 「おう、行ってこい!」


 悪びれもなさそうに行ってくるおじちゃんに軽くため息を吐けば、退屈そうに待っているアイリの手を軽く引く、


 「それじゃあ行くか」


 「しょうがないなぁ」


 小馬鹿にするような落胆した声で言うが、隣を着いてくるアイリの足取りは、どこかスキップ気取りの気分が高揚したようなものだった。



     *



 デュソルはアイリとともに門外の見回り、もといそれを称したデートに来ていた、

 鼻唄でも歌いたくなるような空模様の中、二人の間には涼しく爽やかな風が通る。


 「······今日は風が穏やか」


 頬や髪を靡かせる風に、ほんの少し頬の口角を緩めた。

 心地良さそうに顔に微笑みを浮かべるアイリだが、その手はスカートを巻き上げようとする風に対して下着を見せまいと鼠径部付近をむき出しの警戒心で抑えている。


 「何、見てるの」


 「えろっ……いや、ただ器用だなと」


 「ふーん。なら私が今ここでスカートをたくし上げても何も思わないの?」


 「それとこれとは話が」


 「なら、興味はあるんだ」


 「っぐ」


 デュソルの言葉を遮るようにして飛んで出た言葉に、ぐうの音も出すことが出来ない。

 見たい! など直球で言えてしまえばどれほど楽なのか。

 アイリの無表情ならがも雰囲気で微笑む今の彼女には、そんなことを言えるはずはないだろう。


 「ほら。そんなところでつっったってないでさっさと行くよ?」


 ほら、と差し出してくる手を繋ぎ歩き出そうとしたとき。

 警戒を忘れていたのか、遠くから忍ぶ風に気付けていなかったのだ。


 「……っへ?」


 「……っえ?」


 旋風が大地を滑りデュソルとアイリとの間を駆け抜け。

 抵抗をするよしもないないスカートは、何の障害もなく簡単に捲れ上がる。


 肢体からスラリと伸びる健康的以上に白い肌色をした、張りのある煽情的なまでの艶色をした太もも。

 シミなど一つもなく、ましてやくすみや汚れなども一切となく綺麗な鼠径部。

 ぴっちりと食いつきながらも窮屈さをみせない、腰骨もまともに隠せないTバックに似た物な白の下着。

 どれもがエロく、煽情的で、艶めかしくて。


 鼓動の高鳴りが限界を超えた。


 「これは、そう。全て風のせいなんだよ」


 「そんなわけっ。そんなわけが……っ」


 はちきれんんばかりに膨れ上がった欲求で気づくことが出来なかったのだろう。

 アイリの羞恥に染まり真っ赤に赤面した顔に、恥ずかしさから自然と漏れ出した涙に。


 そしてデュソルは。


 「そんなわけがないでしょう!」


 頭と首が飛ぶ勢いで叩きつけられた手に、とてつもない破壊音と共に衝撃が襲い掛かった。


 頬は真っ赤に染まって、じんじんと痛かったです。

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